狙われた童貞
君彦、逃げろぉぉ―――――っっ!!
猫又が側にいない君彦に向かって響子はにっこりと微笑む。
『ねぇ、少し話があるんだけど・・・いい?』
どこか媚びるような甘い声でそう聞かれた君彦は腕時計を見てから少し眉根を寄せるが、すぐに笑顔を作ると返事をした。
「学校までまだ時間があるし・・・、構わないよ。それじゃオレの家でいいかな?」
『――――――ダメッ!!』
君彦の言葉に響子の顔は一瞬にして恐ろしい形相になるとドスの効いた声で拒絶する、そんな響子の余りの変わりように君彦は少し驚いたせいか一瞬目を丸くした、すると響子はハッと我に返ったようになって顔色を悪くする。唇をつぐんで視線を下に逸らす姿はどこか挙動不審に見えた。
「えっと・・・、それじゃ学校に行きながらじゃ・・・ダメかな?」
『・・・いえ、いい所があるわ。私について来て』
そう言うなり響子は素早く君彦の腕を掴むとぐいぐい引っ張って歩き出した、まるで女性の力とは思えない程の握力の強さに君彦は不審な眼差しで響子の後ろ姿をじっと見つめる。
(―――――いつも螺旋を描くようにまとわり憑いてる色情霊の姿が、見えない!?)
響子に引っ張られながら辿り着いた先は君彦達が通う風詠高校からさほど離れていない工場地帯の、建設中止となった廃工場であった。周囲には他の工場へ出入りするトラックや従業員の車が通って、工場地帯ではどうしても浮いて見える高校生二人に工場関係者達はこぞって不審そうな眼差しで見つめていた。
だがそんな視線に構うことなく響子は堂々と廃工場に張られたブルーシートの、一部分だけ人一人が出入り出来そうな場所を見つけるなり中へと入って行く。
「ちょ―――――志岐城さんっ! 勝手に入ったらさすがにマズイんじゃないかな!? それにここの廃工場って飛び降り自殺する男の子の幽霊が出るっていう噂だし、・・・まぁオレは見たことないんだけど。とにかくやめといた方が・・・っ!」
『いいから来て』
君彦の言葉に耳を傾けることなくブルーシートの隙間から誘うような眼差しで君彦に手招きする響子、手を差し伸べる姿にこのまま抵抗するわけにもいかないと観念した君彦は溜め息を漏らしながら渋々中へと入って行った。
ブルーシートをくぐるとそこには鉄筋や廃材などが置き去りにされていて君彦と響子以外には誰もいない、まるでブルーシートをくぐった先は別世界のように周囲の工場から聞こえてたはずの機械音やトラックのエンジン音などが、今では遥か彼方で鳴っているようにすごく遠くに感じられた。
外界から閉ざされた空間に、今では君彦と響子しかおらず―――――さすがに不安が増して来る。
しかしそれでも響子はどんどん鉄筋で組み立てられた途中の廃工場の中へと入って行った、慌ててついて行く君彦であったが廃工場の中へ入った途端にぞくりと悪寒がして全身鳥肌が立った。
足を止めた君彦に響子が振り向くと、ウェーブがかった長い髪が顔に半分だけかかり―――――その姿がとても艶っぽく見える。
そんな状態の響子が妖艶に色っぽく微笑んで来るものだから、君彦は思わず頭の芯がとろけるような感覚に陥った。
響子に見つめられてる間、君彦の心臓が早鐘を打ち全身に熱を帯びていく。先程感じた悪寒はいつの間にかなくなっており今はただ響子の視線に心地良ささえ感じていたのだ。
響子が一歩君彦に近付くと、君彦は一歩後ろに下がる。
『どうして逃げるの?』
「あ・・・えっと、その―――――」
君彦が返答に困っていると響子はからかうようにくすくすと笑いながら手を差し伸べる仕草をして、それから君彦の頬に触れた。
(―――――なんて冷たい手なんだ)
優しく撫で回すように頬に触れて、それから親指を君彦の唇に押し当てる。君彦は響子の異常に気付きながらもその場から動けずにいた。すぐ目の前で自分を求めるように見つめて来る響子の瞳から逃れられないように。
顔を真っ赤にして直立不動のまま固まっている君彦を見て、響子は面白がって君彦の耳元に囁いた。
『そんなに固くならなくてもいいのよ、―――――あなたが求めるままにしていいんだから。私があなたを求めるように』
君彦の顔に響子の柔らかい髪の毛がかかり、芳しい香りが鼻をくすぐる。そんな甘い匂いに更に頭の芯がボーッとして来て、君彦は思わず生唾を飲み込んだ。
すると響子は挑戦的に見える上目使いで君彦の目と鼻の先まで顔を近づけながら、セーラー服のボタンをひとつ・・・またひとつと外して行く。パチン、パチンという音から君彦は直感的に響子がセーラー服を脱ごうとしているんだと察した。
わずかに残っていた理性で君彦が響子の誘いを断り、セーラー服を脱ぐのをやめさせようと思い切って声に出そうとした時・・・響子は君彦が拒絶してくることをいち早く察知したのか・・・すぐさま君彦の硬直した片手を掴むと―――――、そのまま自分の胸へと誘導した。
さて、君彦の運命やいかに!?(笑)




