表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/108

忍び寄る悪意


「あたしの好きなタイプは、あたしに興味がない人! これに限るわ」



 ―――――――本当に?



 だったらどうしてこんなに苦しいの? 

 アイツはあたしのことなんて最初から眼中にないし、それ以前に暴力を振るったあたしなんかより親友である男友達の方を選ぶに決まってるんだから・・・気にするようなことなんかないじゃない!


『恋しいの? あの男のことが』


 ―――――――わからない。


『自分を見て欲しいのね?』


 ―――――――違う、あたしを見る男はみんなケダモノよ。


『だったらなぜ泣く?』


 ―――――――そんなのあたしの方が知りたいわよ!


『・・・そう、まだ気付いてないのね。 自分の本当の気持ちに・・・芽生え始めた感情に』


 ―――――――わからない、知らない、気付きたくない、知りたくない、理解したくもない。


『ふふ・・・、それでいいのよ。お前に恋や愛など語る資格はないのだから・・・。この私が憑いてる限りお前に言い寄る男など皆、下心を持った性欲の固まりのみ。お前が[女]になった時から、[私]という怨念が蘇ったのだ。私が受けた仕打ち・・・そう、この恨みを晴らす為に―――――――私はお前に取り憑いたのだから』




 ―――――――翌朝、結局響子の様子が心配で仕事から帰った後も一睡もすることが出来なかった蘭子は目の下に大きなクマを作ったまま、虚ろな眼差しで窓の外を眺めていた。

 何度も何度も携帯の履歴を確認するが、やはり蘭子から響子へかけた履歴以外何もない。

 響子から蘭子への電話は一度もかかって来なかったのだ。


「―――――――はぁ」


 切ない溜め息を漏らしながら蘭子は洗面所の方へと重い足取りで歩いて行くと、伸びかけていたヒゲを剃り始める。

 そんな時、隣の―――――――響子の部屋のドアが開閉する音が聞こえて来て蘭子は即座に反応した。すぐさま顔をきれいに洗い流すと大きな足音を立てて部屋から飛び出る。

 すると目の前には学校のセーラー服に身を包んだ笑顔の響子が立っている、蘭子は一瞬幻でも見ているような感覚になりながらも瞳を潤ませて名前を呼んだ。


「響子ちゃんっ!」


 蘭子は嬉しさの余り響子に抱きつこうと両手を広げて接近したが、素早い身のこなしで回避されてそのまま顔面からコンクリートの床に倒れてしまった。


『おはよう、蘭子さん』


 熱烈なハグを拒否されても蘭子は嬉し涙を流し、床にぶつけた衝撃で鼻から血を垂れ流しながら立ち上がる。


「んもう、昨日は一体どうしちゃったのよ! あたしものすごく心配してたんだからねっ!?」


『ごめんなさい、昨日は少し疲れてたから早めに休んでいたのよ。でも今はもう大丈夫だから心配しないでちょうだい。それじゃ私、今から学校とやらへ行って来ます』


「―――――――?」


 奇妙な違和感を残したまま、蘭子は片手を振って見送った。ゆっくりと、優雅な足取りで歩いて行く響子の後ろ姿に蘭子は言葉では言い表し難い不自然さを感じていたのだ。


「あの子、いつもあんな風に笑顔を見せたことがあったかしら? いつもならもっと子供らしい無邪気な笑顔で笑ってたのに、さっきの響子ちゃんは何ていうか・・・妙に大人びてるって言うか、艶っぽさがあるって言うか・・・」


「―――――――恋に目覚めた女は雰囲気変わるって言うしね!」


 突然背後から太い声が聞こえて驚いた蘭子は反射的に相手を殴りつけていた、そして周囲から悲鳴がこだまする。蘭子が殴り付けた相手は同じ階に住んでいるオカマバーのメグミだったのだ。


「ちょっ! 後ろから急に声をかけるからでしょっ!? 大丈夫メグミ!? おい救急車!」


「蘭子姉さん、声太過ぎ! 朝だから仕方ないかもしれないけど、今のトーンは完全に男入っちゃってるわよっ!」





 上品に、しゃなりしゃなりと歩く姿に周囲の視線は熱かった。響子自身は鏡で見る自分の姿がとても平凡な女の子だと信じ込んでいたが、それは一般的な美的感覚からではない。

 実際響子の外見は生粋の日本人ではなく、ハーフっぽい外見をしていた。腰まである髪はウェーブがかっており、すらりとした体型に白い肌。少しキレ長だが瞳は大きくハッキリとした二重でまつ毛も長い、意志の強さを感じさせる眉に鼻筋も綺麗に通っている。

 淡いピンク色のふっくらとした唇は周囲の視線を意識してか、始終笑みを絶やさなかった。

 学校へ向かっているはずの響子だが、その足は徐々に学校へ続く道から逸れて行く―――――――まるで最初から別の場所へと向かっているかのように・・・。

 だが時折交差点や十字路など、道が分かれる場所まで来ると急に足を止めて何かを探るように考え込む。そして目的の方向が決まると瞳を開いて再びゆっくりと歩き出す。それを何度も繰り返しながら、響子はどんどん住宅街の方へと入って行った。

 やがてコンクリートの塀に囲まれた古めかしいアパート、『トキワ荘』という看板を掲げている場所へと辿り着く。

 響子がトキワ荘に近付くと突然何かに弾かれたかのように後ろへと飛び退った、瞬間――――――――響子の顔に苦渋が滲み出てトキワ荘を睨みつける。

そしてもう一度、今度はトキワ荘のコンクリートの壁にそっと片手で触れようとした。

――――――――刹那、まるで感電したかのようにすぐさま壁から手を離すと指先がほんの少しだけ火傷したように傷付いている。


『―――――――チッ、小癪こしゃくな・・・!』


 小さく罵りの言葉を口にする響子であったが、そんな彼女に声をかける人物がトキワ荘から出て来た。


「・・・あれ、志岐城さん!?」


 響子に向かって声をかけて来た人物の方へ視線を走らせると、そこには学ランに身を包んだ君彦が学生カバン片手に学校へ登校しようと出て来た所であった。

 君彦の姿を見つけるなり、すぐさま周囲を見渡す。


 ―――――――君彦の周囲に猫又の姿がない。


 響子がすぐに辺りを見渡したので、彼女が猫又を探しているんだと察した君彦はいつもの屈託のない笑みで教えてやる。


「あぁごめんね志岐城さん、猫又に用事があってここまで来たんだよね? 実は昨夜つまらないことで喧嘩をしちゃって・・・猫又の奴、またいつものプチ家出をしちゃったんだよ。まぁどうせ食事時になったら戻って来るとは思うけど」


 猫又が不在と聞いた響子は、まるで好都合とでも言うように妖艶な美しさを醸し出しながら、君彦に向かって微笑んだ。


(志岐城響子、お前がこの男を欲するというのなら―――――――私がその望みを叶えてやろうぞ。私の色香でこの男を快楽に酔い痴れさせ、思う存分この体で抱かせてやる・・・嬉しいだろう? そしてまた地獄を見るがいい、お前を心から愛する男なんぞこの世のどこにも存在しないということを!)


 

 


 「昨夜つまらないことで喧嘩しちゃってさ」←さて、どんなことで喧嘩してしまったのでしょうか?←「理由がつまらなさすぎるだろ」


 さて、私個人としましては蘭子さん非常にお気に入りだったりします。描写がヘタなので外見のイメージとしては、「北斗の○」に出て来そうな濃ゆい感じで想像してくれたらよろしいかと・・・(笑)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ