表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/108

カマ騒ぎ

 今回君彦も響子も黒依も猫又も出ません、そんなとんでもない回になってしまいました。

 少々下品かもしれませんが、ご了承ください。


「響子ぉぉぉおおぉぉ―――――っ! どうしたのぉぉ―――――っ!? 一体何があったのよぉぉおおぉぉ――――っ!」


 夜7時―――――――、響子の伯父(伯母?)である蝶野蘭子がもうすぐ出勤時間だと言うのに、独身用マンションの5階にある響子の部屋の前で野太い声を張り上げていた。

 金髪に近い茶髪に盛りに盛りまくった髪型、スパンコールをふんだんに使ったきらびやかなワンピースに身を包んでいる身長190近くの大男(大女?)が、力一杯響子の部屋のドアを叩きつけている。

 ドアが変形しそうな位の力で叩きつける音と蘭子のパニック状態になった奇声は完全に近所迷惑となっており、周囲の隣人達が次々と部屋から出て来て蘭子の状態を見に出て来た。


「ちょっと~、一体どうしたってのよ蘭子ママ」


 オレンジ色の縦ロールヘアにチャイナ服を着込んだ女性、―――――――もといオカマが迷惑そうな顔で蘭子の周囲に集まって来ている女性達に声をかけた。

するとすぐ側にいた黒髪のショートボブをしたキャバ嬢が答える。


「それがね、学校から帰った響子ちゃんがママの携帯に出ないってんでこの騒ぎよ。いや、私もあんま事情とか知らないんだけどさ。どうせまた男絡みとかなんじゃない? ほら、響子ちゃん美人だし。私程じゃないけどね」


「何言ってんのよ、あんたみたいな銭ゲバと響子ちゃんを一緒にしちゃ蘭子ママから怒りの鉄拳が飛んでくるわよぅ!?」


「そうよそうよぅ! 蘭子ママにとって響子ちゃんはアナルに入れても痛くない位カワイイんだからっ!」


「―――――――目でしょ!?」


 顔が汚けりゃ言葉も汚いと言わんばかりに、侮蔑を込めた眼差しでキャバ嬢が訂正した。

蘭子の騒ぎがやがて回りにいた住人達にも感染していった時、耐えかねた蘭子が一喝する。


「んもう! あんた達うるさいわよぉぉっ!! 近所迷惑になるじゃないっ!」


「あんたが一番うるっせぇんだよ、このイボイノシシがっ!」


「誰がイボイノシシよ、ちょっと今言ったの誰!? あたしちょっと傷付いたかもっ!」


 両目にたっぷり涙を浮かべながら両手を胸の前に組んで傷付いてる素振りをする蘭子に、チャイナ服のゲイが事情を聞く。


「そんなことよりママ、響子ちゃん一体どうしちゃったの? 多感な年頃なんだからあんまり干渉するのは良くないんじゃない?」


「そうよねぇ~。ただでさえママったら響子ちゃんにべったりなんだから。そりゃこんな化け物にべったりまとわりつかれちゃグレたくもなるわよ」


 周囲にいる男女殆ど全員が大きく頷くと、蘭子は心外とばかりに首を大きく横に振って否定する。


「響子ちゃんはグレたりなんかしないわよっ! このあたしが子供の頃からちゃ~~んと愛情たっぷり注いで育てたんだから!」


「いやだから、近頃の子供は愛情注ぎ過ぎもかえって逆効果なのよ?」


「んもうあんた達ッ! こんなんじゃ話がちっとも前に進まないじゃないのさ! 蘭子ママ、詳しく教えてよ。もしかしたら私達にも何か助けてあげられることがあるかもしれないわ! なんたってここにいる娘達はみんな苦労ばかりしてきてるからね。三人寄れば文殊の知恵って言うじゃないっ!(何より早いとこ蘭子ママ黙らせないと本当に警察とかに通報とかされそうだもの)」


 チャイナ服のゲイが宥めるように蘭子に声をかけるとようやく落ち着きを取り戻した蘭子が話し始めた。


「・・・ごめんねみんな、実はあたしもよくわかってるわけじゃないのよ。ただあたしがお店に出勤する時にはいつも毎日響子ちゃんに欠かさず携帯で行ってきますの電話をするんだけど、今日に限って響子ちゃん・・・全く電話に出てくれないの。もしかして何かあったのかと思って部屋に来たら鍵がかかってるし、でも部屋にいるのは間違いないの! 響子ちゃんがものすごい勢いでドアを閉める音があたしの部屋にまで聞こえて来たし・・・。耳を澄ませてみたら気のせいか泣き声みたいなのが聞こえて来て、あたし・・・心配になってきちゃってっ!」


 泣き出す蘭子にキャバ嬢がハンカチを差し出すと思い切り鼻を噛まれてべっとりとした半液状のスライムが出現した、それを小汚い雑巾を持つように手に取るとキャバ嬢の表情が歪んだ。

 その横でチャイナ服のゲイが状況を整理する。


「つまり学校、あるいは下校途中に何かあった響子ちゃんが急いで帰宅して・・・部屋で一人泣いてると? ママの携帯に出ない位ひどく落ち込んでるんじゃないかと思ったママは、響子ちゃんに何があったのか問いただす為この騒ぎを引き起こしたと・・・そういうわけね?」


「あの子とっても我慢強い娘だもの、外で痴漢に遭って帰って来ても決して辛い顔をあたしに見せるようなことはなかったのよ。それが今は何があったのか知らないけどあたしからの電話に出ない位、玄関の前でこんなに訴えかけても出て来ない位ひどく落ち込むなんて今までになかったんだから。きっととてつもない目に遭ったに違いないわ! 男絡みよ、それしかないもの! 血も涙もない鬼畜生野郎に痴漢以上の何かをされてショックを受けたに違いないのよっ! 可哀想な響子ちゃん・・・!」


 蘭子の被害妄想のようにしか感じられない隣人達は互いに顔を見合せながら、何とか蘭子を落ち着かせようと努めるが・・・自分達も響子の性癖を知らないわけではなかった。

 男を親の仇のように毛嫌いする響子、そしてそんな男相手にも全く引けを取らない強さを持つ響子・・・。

 そんな彼女が男に何かされたからという理由だけで、今までにない行動を取るだろうか?

 遂にキャバ嬢がある推測をする。


「もしかしてさぁ、響子ちゃん・・・男に恋してショック受けた、とかじゃないかしら?」


「はぁっ!? 何でそうなるのよ、あの響子ちゃんよ!? 男なんてミトコンドリア以下の存在にしか感じないあの響子ちゃんよ!? そんな響子ちゃんがどうして男なんかに恋するって言うのよ、頭オカシイんじゃない!?」


 まるで『恋』自体を否定するかのように、蘭子が食ってかかって反論してきた。


「だって、今までにないことって言ったらそれ位じゃん? 響子ちゃんが男にイヤなことをされてきたなんて日常茶飯事でしょ。でもそんな響子ちゃんが今までにない位ショックを受けるって言ったらさぁ、やっぱり自分が毛嫌いしてきた男を好きになっちゃって・・・そんな自分に戸惑ってるって風にしか考えられないじゃん」


 キャバ嬢の言うことに一理あると踏んだチャイナ服のゲイも頷き、賛同する。


「恋したことない響子ちゃんが、初めての恋に戸惑い・・・動揺する。うん、それ有り得るかも! 私だって自分が男を好きなんだってわかった時、ショックで涙が止まらなかったもの!」


「それは種類が違い過ぎるでしょ、誰だって同性に恋心芽生えたら驚き戸惑うでしょうが」


 周囲の隣人達が何の根拠もなく肯定していく中、ただ一人だけかたくなに否定する人物がいた―――――――蘭子である。


「有り得ないわ、あんた達・・・響子ちゃんのことを何も知らないからそんなことが言えるのよ。『あんなこと』を体験した響子ちゃんが、―――――――異性に対して好意を持つなんて・・・天地が引っくり返っても有り得ないんだから」


「だーかーらー私達、響子ちゃんの過去だの何だの聞いたことないんだから知らないに決まってんでしょ!? 大体聞いたってママ教えてくんないじゃん」


「教えられるはずないわ・・・、あんな外道な出来事・・・っ! 口が裂けても言えるはずない・・・っ!」


 肩を震わせながら悲しい表情を見せる蘭子にただならぬ空気を感じて、いよいよどうしていいのかわからなくなってくるオカマ達に一人の若い新米キャバ嬢があっけらかんとした口調で空気をぶち壊した。


「あ、そういえばあたしぃ~こないだの日曜に響子ちゃんが知らない男と喫茶店で仲良くお茶してたの見たわよぉ~?」


「―――――――え!?」


 一瞬にして空気が変わるが、新米キャバ嬢はそれにも気付かず淡々と甲高い声で続けた。


「なんかぁ~響子ちゃんと同じ高校の制服かなぁ~? メガネかけたもやしっ子と一緒にいて楽しそうだったわよぉ|~!? あたしそれ見てぇ~、あ・響子ちゃんカレシ出来たんだぁ~って思ってたんだけどぉ~。もしかしてもう別れたとか~そんなんじゃない?」


 新米キャバ嬢の言葉に一同凍りついた、特に蘭子は顔面蒼白になり完全に石になっている。

 そんな蘭子を見た黒髪のショートボブのキャバ嬢が咄嗟に新米キャバ嬢の腕を引っ張って、蘭子の視界に入らない場所へと連れて行ってしまった。


「あんたっ! 最近ここに越して来たばかりの娘よね、今から私の言うことをよく聞きな! このマンションではあの蘭子ママが全ての実権を握ってるようなモンなの! いい? ここでは蘭子ママに逆らう者は全てお水業界で働けなくなるのと一緒なのよっ!?」


「え~~、そうだったのぉ!?」


「そうだったのぉ!? じゃないわよっ! あ~~全く、余計なことをしてくれたわねアンタ! あの蘭子ママにとって響子ちゃんって娘は世界そのものなの、蘭子ママの命そのものなのよ! だからこのマンションに住む住人・・・もといこの町のお水業界で働く者にとっても響子ちゃんは大切な存在になるわけよ、まぁそんな邪な考えなくてもこのマンションの住人はみんな響子ちゃんのことが好きなんだけどね。響子ちゃん強いからしつこい常連客や、借金の取り立てに来たチンピラから助けてもらったキャバ嬢も少なくないし。とにかく蘭子ママの目の前で響子ちゃんの交友関係を無闇に口にするのはタブーよ、わかった!?」


「・・・何かよくわかんないけどぉ~、とりあえずわかったかもぉ~」


「それより、さっきの話は本当に本当? 間違いないわけ?」


「うん、だってこの辺で響子ちゃんみたいな美人で目立つ娘って他にいないしぃ~」


「相手はどんな男だった? 痴漢っぽい奴? ストーカーっぽい奴?」


「本当に普通の男の子だったよぉ~? なんかぁ~いかにも草食男子って感じでぇ~冴えない感じだったかなぁ~?」


 ショートボブのキャバ嬢がそれだけ問い詰めると、そのまま新米キャバ嬢を部屋に追い返してから一息ついた。

 思い悩んだように難しい顔になりながらタバコを吸い始める、とりあえず落ち着きを取り戻してから考え込むキャバ嬢。


「響子ちゃんについて本当に私達は何も知らないけど、もしさっきの話が本当だとしたら・・・大変なことになるわよ。相手の男が誰であろうとこのことが蘭子ママの耳に入ったりなんかしたら・・・そいつ、ヤバイことになるわね」


 結局その後、お店に早く行かないといけないという理由をつけて響子の部屋の玄関前から蘭子を引きずるように連れて行ったゲイ達。

 当然玄関前の騒ぎは響子の部屋の中まで筒抜け状態であり、一部始終蘭子が恥ずかしい行動を取っていたことはわかっていた。

 最初の内は確かに君彦のことがどうしても頭から離れない響子は、その苦しさからずっとベッドに伏せって泣いていたのは事実であったがその後は―――――――蘭子が部屋の前で騒ぎ出してからはどんどん隣人達も集まって収拾がつかない状態になり、響子自身も焦っていたのだ。

 しかし響子は泣き腫らした目でみんなの前に出て行くのを躊躇い、そのまま事が治まるまで沈黙を保っていたのであった。


(―――――――ごめんなさい、蘭子さん。明日ちゃんと謝るから・・・だから今日はホント、あたしのことは放っておいて) 

 





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ