悩める女子高生
今回はもう一人の主人公、響子の視点です。
ぶっちゃけ、あたしはものすごくモテる。
あっ! 今のセリフでカチンと来たからって、足元に転がってる石を投げつけないでよっ!
理由は……もとい、それがあたしの意思とは程遠いものだってことを、今から説明するから……っ!
あたしの名前は志岐城響子、どこからどう見ても至って平凡な女子高生、だとあたしは思ってる。
特に美人というわけでも、ものすごくブスってわけでもない。
家が金持ちってわけでもないし、正直自分でもあまりに平凡過ぎてウンザリする位。
……にも関わらず。
回りの男共はあたしに言い寄って来る。
ナンパしてくる。
痴漢してくる。
ストーカーしてくる。
あげく発情してくる。
あたしが急にモテ始めたのは、十二歳の時。
当時片思いだった男の子に卒業式の日に告白して、それからあたしの人生は一変した。
全然あたしに興味のない素振りを見せていた彼だったのに、あたしの告白に即OK。
当然ビックリしたけど、初めて出来た彼氏にあたしは舞い上がっててそんな些細なこと……その時は全く気にならなかった。
結局その彼とはすぐに別れることになったけどね。
なぜならあたしに彼氏が出来てからというもの、自分でも頭がおかしくなる位突然モテ始めた。
中学生になって新しいクラスメイトの男子生徒全員から、なぜか毎日のように告白されるようになったわ。
違うクラスの男子生徒からも。
先輩からも。
果てには歳の離れた先生からも!
その時からあたしの不幸は始まっていた。
回りの態度が絶対おかしいってことを彼氏に相談したら、よりにもよってこんなことを言ってきたの!
「オレの彼女がモテないわけがない、そんなこと気にしなくていいから早くヤろう!」って!
顔面パンチしてソッコー別れてやったわよ。
でも事態はどんどん悪くなる一方。
最初は学校内だけだったのに、町ですれ違う通行人からも猛烈なアタックを受けるハメに……。
いや、確かに異性からモテたいなぁ~っていう願望なら、少なからずあったわよ?
だからといってどうしてここまでモテるのか、あたし自身理解に苦しんだわよ。
何度も鏡を見て、どこも変わった所はなかったし……。
自分で言うのもなんだけど……。
顔はホント普通だし。
モデルみたいに細いわけじゃないし。
胸だって言う程大きくないし(あ、ホント自分で言ってショック)
性格もおしとやかじゃないし、癒し系でもないし、どちらかと言えば凶暴な方だし。
異性にモテそうな要素をどんなに探しても、これといって全く手掛かりなし!
かえって自分が落ち込む結果を引き起こしただけだったわ!
そんなこんなで、あたしは七十八回目の痴漢に遭った時点でボクシングを始めた。
全ては身を守る為、自分の身は自分で守るしかないってようやく悟ったのよ。
なんでボクシングかって?
勿論最初はオーソドックスなところで空手とか柔道とか合気道とか、そういった道場に通った時期もあったわ。
でもね……それらはあたしには向いてなかったの、てゆうかあまり意味がなかったの。
相手に触れる、もしくは密着する技がある限り身を守ることに繋がらないってわかったから。
練習相手が寝技ばかり仕掛けて来たモンだから、相手の股間に蹴りを入れてやめてやったわ。
試行錯誤した結果、ボクシングに至ったというわけ。
これなら女性専用のジムもあるし、相手が男でもこっちから先にパンチ入れてやれば近付かれることもなかったし、あたしにはこれが一番向いてたのよね。
それからというもの、あたしは必要以上に接近してくる相手には容赦なく抵抗する「防衛本能」が芽生えてしまったわ。
でもあたしの不幸はそれだけでは終わらなかった。
あまりに男を避け続けるものだから、あたしはだんだん「男」自体に嫌悪感を抱くようになってしまったの。
男はみんな敵、男はみんなケダモノ……!
防衛本能があたしに刷り込みしてしまって、あたしは男性不信に陥ってしまったわ。
だからといって恋愛対象が女になるわけでもない。だってあたしはノーマルだもの。
ただ……何気なくクラスの女子と恋バナに発展した時に、あたしが発した言葉で回りを凍りつかせたことがあったわ。
その時の話題は、好きな男の子のタイプ。
普通だったら「スポーツが出来る人」とか、「優しい人」とか、そういう感じで盛り上がる所なのに、あたしは本音を言ってしまった。
「あたしに興味がない人」
あの時の沈黙は忘れない、でも今でもそれは変わらないわ。
あたしの好きな男の子のタイプは、あたしに全然興味がない人! これに限るの。
モテるということは、それはあたしに興味があるからであって……。あたしに対して興味がなければ、執拗に言い寄って来ることはない!
痴漢して来ることもない!
無理矢理キスだの体だの、求めてくることもない!
だって、「興味がない」んだもの!
何度聞かれてもあたしがそう答えるモンだから、その場にいた女子全員があたしに向かってこう言ったわ。
「あんたの好みのタイプって、絶対自分を不幸にするだけよ!?」
……今まさに不幸よ、なんだったら代わってよって言いたい。
でも仕方ないじゃない!
毎日ストーキングされたら、誰だってそうなるわよ!?
電車に乗る度、満員でもないのに100%の確率で痴漢に遭えば誰だってそうなるわよ!?
痴漢をとっ捕まえて連行しても、痴漢被害者の常連となってしまったあたしの方が実は誘ってんじゃないかって、逆に痴女扱いされたら誰だってそうなるわよ!?
あたしは公共わいせつ物か!?
そんなこんなであたしは出来るだけ目立たないように、誘ってんじゃねぇかって思われない為に努力してるわ。
回りから「暗い」って印象を与えるように、目元ギリギリでパッツンパッツンに切った前髪。
ホントは茶髪が地毛なんだけど、わざわざ黒髪に染めて天然パーマのロングヘアはダッサダサのおさげにして。
学校以外で外を出歩く時は必ずと言っていい程、上下ともジャージで……しかも紺!
スカートどころか、足が出るだけでもアウト。
出来るだけ肌を露出しないように、誘ってるように見えないように……。
あたしだってホントは、オシャレのひとつもしたいわよ。
普通の女の子みたいにオシャレして、可愛い服着てメイクして町の中を歩き回りたいわよ。
でも今のあたしにはそんな行為は許されない、……てゆうか自殺行為。
高校へは女子高を希望したかったけど、あたしが十四歳の時に両親と他界。
他に身を寄せる所もなくて、遺族年金から出せるお金は公立高校が限度だった。なので結局地元の高校へ行くハメに……。
いつまでこんな状況が続くのかはわからない。でもあたしをナンパしてくる男がいる限り、あたしの戦いは終わらない。
あたしは原因がわからないまま、今も孤独な戦いを続けている。
***
ある日、あたしは買い物をする為に町へと出かけた。
いつものようにダッサダサな格好で、出来る限り人目を避けて大通りを歩かないようにしてたら、一人の男の子があたしに話しかけて来たわ。
バラ色と言われた高校生活を満喫出来ずに、苛立ちが募っていたせいかもしれない。
ただ単に、間が悪かっただけかもしれない。
あたしは自分に話しかけて来た男の子に奇声を上げながら、気付けば思い切り殴り飛ばしていた。
彼があたしを……、このモテモテ地獄から救い出してくれる運命の人とは知らずに……。
最初この話を思い付いた時は、「君彦サイド」「響子サイド」として別々で投稿しようと思っていました。
でもそれじゃ二重投稿になるかもしれなかったので、各話で視点を変えることにしました。
どうしても君彦は君彦の、響子は響子の思いや考えなど、二人の心のすれ違いを書きたかったので、視点をそれぞれ固定させることに……。
後に猫又視点も登場します、楽しみにしていてください。