暴たー
今日はずっと前からやりたかったネタをやっと披露出来ました。
皆様に笑ってもらえたらいいのですが・・・。
ちなみにタイトルの正しい読み方は「あばたー」です、さて一体誰のことでしょう?
春山竜次の手当てに付き合って少し帰りが遅くなってしまった君彦は、響子のことも気になったがとりあえず黒依の言葉を信じてこのまま家に帰ることにした。
それ以前に響子のことが気になっていても彼女の連絡先どころかどこに住んでるかもわからない君彦には、これ以上どうしようもなかったのが本当の所である。
下校の時に猫又の機嫌を損ねてしまったのを少しだけ気にしながら、君彦は急いで走った。
築30年以上はありそうなボロアパート、一応風呂やトイレは個別に付いてるれっきとした1LDKである。
アパートを取り囲むようにセメントで出来た塀が見えて来ると同時に小柄な中年の女性も目に入った、彼女はこのアパートの大家であり話によると君彦の祖父と親しい仲だったらしい。
祖父母が亡くなり君彦が施設へ行くことになった時、祖父が遺した家財道具などの一部を保管してくれていたのだ。
おかげで君彦が施設を出て一人暮らしを始めることになった際に、大家さんがこのアパートを紹介してくれた。
それと同時に預かってくれていたタンスやテレビなどの家財道具も一緒に君彦が引き取ることが出来たので、また一から揃える必要がなかった君彦にとっては大助かりだった。
故にこの大家さんは君彦が自立してから、一番最初にお世話になった人物でもある。
「あら君彦クン、お帰り!」
いつも元気で明るい大家さんはこうして君彦が学校から帰るまで、毎日のようにアパートの塀の前で待ってくれている。
君彦もいつものように笑顔で挨拶した。
「君彦クン、空き巣対策もいいけど・・・テレビの音量なんだけどねぇ、もう少しだけ小さくしてもらえるかい? ほら電気代が高く付くといけないだろ」
「―――――――あ、はい・・・すみません大家さん。すぐに音を小さくして来るんで!」
猫又だ、君彦は瞬時に悟り表情を歪める。
君彦が学校に行ってる間、猫又は24時間ずっと君彦の側にいるわけではない。
学校で特に面白いことがないと思えば猫又は好き勝手に、自由気ままに町中を歩き回っているのだ。
度々君彦が家にいないのにテレビが付いていたり電気が付いていたりするのを大家に知れ、苦し紛れに空き巣対策だと言い繕っているのだが大家のこの様子だともうそろそろこの手が利かなくなる頃合いだと君彦は察する。
急いでカバンの中から鍵を取り出しドアを開けるなり、目の前でバラエティ番組を見ながら大笑いしている猫又を発見した。
一応猫又の姿は普通の人間には見えないので急いでドアを締めることなく普通に帰宅しているのを装う。
玄関のすぐ横がキッチン、そして奥がお風呂。
キッチンにある硝子戸を開けるとすぐ目の前が六畳間の和室になっている、その和室で猫又は座布団の上に親父のように座りながら呑気に笑い声を上げていた。
君彦はすぐにテレビのチャンネルを掴むとボリュームを急激に下げてやる、するとそれを見た猫又が更に大声を上げた。
『あっ! せっかく今イイとこだったのにっ!』
「何がイイとこだ! お前は~・・・相変わらずコロコロと態度を変えやがって! お前が教室を出て行ってから色々大変だったんだぞ、わかってんのか!?」
『ふ―――ん、知ったこっちゃないね! んなことより早い所メシにしようぜ、お前が帰って来んのずっと待ってたんだかんな! もうオレ様、腹減って死にそうだっつーの!』
「お前の頭ん中はご飯とお笑い番組のことしかないのかっ!?」
『あ、あと散歩も忘れずに!』
そんな問答を約5分位続けてから、ようやく君彦は夕飯の準備に取り掛かる。
今日は帰りが遅くなったこともあり在り合わせのものをいくつか適当に作って、早速食事となった。
勿論猫又には猫用の缶詰である。
メタボ気味な猫又の為に君彦が食事の量を制限しているが、この辺はやはり妖怪―――――。
君彦が見てない間に缶詰の残り半分やキャットフードを勝手に開けてはつまみ食いしているので、全く意味を成さないのだ。
それでも君彦はいつものように缶詰を半分だけ皿に取り分けて猫又に差し出す、それを不服そうな目で見つめる猫又。
「何だよその顔は、そんなイヤそうな顔したってこれ以上やらないからな!? お前自分の腹を見てみろよ、だるだるのぶよぶよじゃないか。いくら妖怪だからってメタボは全国共通・・・もとい、全生物共通で健康に良くないぞ」
『いや、この際量はどうでもいい。それより今日の・・・じゃない、昨日の朝ごはんも晩ごはんも今日の朝ごはんもだ! 何で猫用缶詰の中でよりにもよって一番マズイ、安物の[ミャオ]なんだよ!』
猫又のツッコミに、君彦は気まずそうになりながら視線を逸らすと――――――小声で答える。
「――――――いや、大安売りしてたから」
『大安売りしてたから、じゃないだろっ! 安い=マズイって公式がお前の頭では成立しねぇのか、オレだってたまには[モンプティ]が食べたいんだよっ!』
二又の尻尾をばしばしと畳に叩き付け、同時に怒りを表現する為に前足をばんばんとテーブルに叩きつけながら訴える。
しかしこれにはさすがの君彦も反論した。
「仕方ないだろ、出来るだけ食費を削らなきゃいけないんだし! それに何だよ[モンプティ]って! それ猫用缶詰の中で一番高いヤツじゃないか! 贅沢言うな!」
『モンプティ―――――――っ! モンプティが食べたい―――――――っ!! こんなパサパサのツナじゃオレ様の腹は満たせない―――――――っっ!!』
だだをこねるように畳の上で仰向けになると、そのまま前足後ろ足をバタつかせて暴れる猫又。
そんな猫又の暴挙に君彦はたまらず怒鳴り散らす。
「子供みたいにワガママ言うなよ! 大体お前が毎日毎日つまみ食いするから、買い置きの缶詰やらキャットフードやらがすぐになくなるんじゃないか! 結局またお前のごはんを買い足す羽目になってんだから、安物の缶詰しか買えなくなってんのは一体誰のせいだと思ってんだ!」
『モンプティ―――――――っ! 君彦のケチ―――――――っ! モンプティが食べたいのぉ―――――っ!』
「あ―――――っ! もううるさいっ! 知らん知らん! 一人で勝手に叫んでろ!」
愛想を尽かした君彦が最後にそう怒鳴ると、猫又は本当にしばらく一匹で叫んでいたが―――――本当に相手にしてもらえなかったので叫ぶのをやめて、途端に静かになる。
そして叫んで疲れたせいか・・・結局あれだけマズイと言ってた『ミャオ』を勢いよく、綺麗に全部たいらげた。
どうでしょうか、猫又の舌の肥えようわ。
こんな感じで今後それぞれの日常生活を紹介していきますので、楽しみにしていてください。




