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正当防衛の果てに・・・

 響子のことをじっと見据えたまま微動だにしない春山竜次に怪訝な表情を浮かべるも、すぐさま響子は君彦の方に視線を移して更に問い詰めようと声を荒らげようとした。

 響子の勢いに君彦は慌てて両手でガードするような仕草をしながら笑顔を取り繕って説明する。


「ちょ・・・待って、落ち着いて志岐城さん!? 猫又のやつならさっき来たんだけど、何て言うか・・・すぐに教室を出て行っちゃってさ。今追いかけようとした所にこの騒ぎだったもんで、猫又を見失ったって言うか・・・」


「はぁ!? それじゃ猫又は一体どこに行ったってのよ、心当たりとかないわけ!?」


 猫又がいなければ再び色情霊が戻って来て響子に悪影響を与える、それを恐れている響子は怒り心頭な顔つきで今にも君彦のことを殴り倒しそうな勢いであった。


「まぁ、どうせ先に家に帰ってると思うんだけどさ・・・オレもちょうど今帰宅しようとしてたところだし、良かったら志岐城さんもオレの家に・・・」

「行くわけないでしょ! 猫又がいないんじゃしょうがないじゃない、これ以上あんたに詰め寄っても意味ないし。―――――――ともかくどうせ今までの状況と何も変わらないだけなんだから、ここは我慢したげるわよ」


 これ以上君彦を責めたところで彼が悪いわけではない、それだけはちゃんとわかっている響子は不服ではあるが怒りを抑えて君彦から距離を離した。

 しかし本当はそれだけではなく、猫又に言われたことも響子の中に重くのしかかっているせいでもある。


 いつまでも猫又が付き添うわけじゃない、だからと言って君彦にべったり付きまとうわけにもいかない。


 他の解決方法を見つけない限りは結局のところ何も変わりはない、しかしそれは決して君彦が悪いわけじゃない。

 あくまで響子自身の問題なのだ。

 それを十分に理解している響子は、これ以上君彦に迷惑をかけるわけにはいかないと自重することにしたのである。

 がっかりと肩を落として落ち込んでいる様子の響子に、君彦が元気を出させる為に声をかけようとした時だった。

 我に返った春山竜次が突然しゃきんっとした姿勢になって・・・、わざと顔つきが凛々しく見えるようにしている姿に君彦と黒依は、春山がどこかで頭でもぶつけたのかと怪訝な表情で見つめている。


「あの・・・、オレの名前は春山竜次って言います!」


 面と向かって響子に自己紹介をする。

 突然の改まった自己紹介に響子は虚ろな眼差しになりながら、漏れるような返事をした。


「へ~~・・・、だから?」


「あなたのお名前は何て言うんですか、さ・・・さぞや美しいお名前なんでしょうねっ!」


「春山? 一体どうした、顔が真っ赤だぞ!? てゆうか何だよその喋り方、変なものでも食ったのか? お~~いっ!?」


 春山の奇妙な言動に不審さを感じた君彦が、春山の目線を遮るように手を振って見せるが春山の視線は完全に響子に釘付けになっていた。その様子を見ていた黒依は面白そうな表情に早変わりすると、君彦にそっと耳打ちをする。


「邪魔しちゃダメだよ、君彦クン。春山クンってば、きっと志岐城さんに一目惚れしちゃったんだよ・・・!」


「えぇっ!?」


 推理小説でものすごく意外な人物が犯人だったように驚愕した顔で君彦が低い奇声を上げた、そして再び春山と響子を交互で見つめる君彦であったが・・・響子の方は明らかに面倒臭そうな、迷惑そうな顔で凝視していたのでわずかに危険な空気を感じ取る。


(―――――――まずい、あの顔は許容範囲内に近付いた獲物を捕らえる時のハンターの顔つきそのものだ! 放っておいたら春山のやつ、確実に志岐城さんの強烈なストレートパンチを食らってしまう!)


 そう咄嗟に判断した君彦が春山に注意を促そうとした瞬間、突然背筋が凍る程の悪寒に襲われて背後を振り向いた。


「あ・・・っ、あれはっ!」


 君彦がそう声を上げた時には遅かった、君彦が感じた悪寒の正体・・・それは響子に取り憑いていた色情霊が、猫又の気配が消えたことを察知して再び取り憑こうと戻って来ていたのだ!

 花魁風の若い女性は妖艶な笑みを浮かべながら宙を漂うように、しかし真っ直ぐに響子の方へと向かって行く。

 君彦は懸命に響子に取り憑かせまいと両手を振って色情霊を捕まえようとするが、相手は当然実態のない幽霊。

 いくら霊の姿が見える君彦といえども幽霊を直に手で掴むという芸当は出来ない、騒がしく両手を振って暴れている君彦の姿を見たクラスメイトが再び笑い出す。

 何もない場所で両手を振って踊っている君彦の滑稽な姿―――――――、しかし彼は周囲から笑われようがどうしようが・・・そんなことはどうでもよかった。

 この色情霊を再び響子に取り憑かせないように懸命に戦うも、・・・結局は君彦の惨敗に終わってしまう。

 再びするりと響子の体にまとわりつくように取り憑いた色情霊の瞳が怪しく光り、くすくすと笑って周囲の男達を惑わせる。

 それまで君彦のことを見て大笑いしていた男子生徒が急に笑うのをやめて、教室にいる一人の女性に視線が釘付けとなった。

 ―――――――教室内の空気が一瞬にして変わる。

 色情霊の姿を見ることはおろか、気配を察知することも出来ない響子であったが―――――――回りの雰囲気が変わったことにだけはさすがに気付いた様子である。


「―――――――え、なに!?」


 自分を見る男達の視線が、いつも感じている視線へと変わっている。

 響子の体を舐め回すような視線、―――――――響子は色情霊にではなく男達の視線に鳥肌が立った。


「志岐城さん、色情霊が戻ったから気を付けて!」


 君彦が必死に叫ぶ、すると響子は焦ったように周囲を見渡すといつの間にか教室内にいた男子生徒が立ち上がり・・・響子の方へとゆっくり近付いて来ていた!

 色情霊に惑わされた男がどうなるか、君彦はその全容を実際に目にして来たわけではない。

 初めて会った日に入った喫茶店で響子をナンパしてきたチンピラ風の男の例を見たことがあるだけで、それ以外には響子が一体どんな被害に遭って来たのか君彦は想像するしかなかったのだが、・・・今まさにその実例を目にしようとしている。

 焦ったように身構える響子、いつ襲いかかって来てもすぐに対処出来るように―――――――ファイティングポーズを取るように構えると自分と最も近くにいた春山にも注意を払った・・・が!


「―――――――っっ!!」


 響子の凝視スキルが発動する、当然その視線の先は・・・春山の股間。

 彼の股間を目にした瞬間に響子は汚らわしいものを見るような顔つきへと変わり、やがて闘争心剥き出しの野獣へと変貌する。


 ―――――――そう、ただでさえ色情霊の効果がない状態で響子に惚れてしまった春山は更に色情霊の効果までも浴びてしまって、自我を抑制出来ないまでに性欲を全開にされてしまってたのだ!

 皆まで言うこともないが、当然ながら春山の股間は相当大変なことになっている。


「ぎゃああああぁぁぁああっっ!! こんのド変態がぁぁああぁ―――――――っっ!!」


 力一杯、相当な憎しみを込めた響子の右ストレートが春山の左頬を見事に捉えた!

 そのまま机や椅子をなぎ倒し、春山の体は2回程床を跳ねながら教室の隅にあった清掃器具用のロッカーに背中からぶつかる。


「春山っ!!」


 君彦が慌てて春山の方へと駆けて行く、それを息を切らしながら見つめていた響子は愕然とした眼差しで固まっていた。

 それから春山を殴り飛ばした時に落としたカバンを拾い上げると、そのまま響子は教室をまるで逃げるように走って出て行く。


「―――――――あっ、志岐城さん!?」


 その様子を見ていた黒依が響子に向かって声をかけるが、響子の耳には届かない。

 黒依の目の前を走り去った時に一瞬だけ見えた響子の横顔―――――――、気のせいかその瞳は濡れているように見えた。




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