春山竜次
響子は君彦がイジメに遭ってると思っていた、しかしそれがただの勘違いであったことはすぐに理解することが出来た。
まだ教室に残っていた何人かの生徒から笑われている時でも君彦は照れ臭そうに、「あ、聞こえちゃった?」程度の反応で呑気に頭を掻いていたのである。
このクラスではこれが日常茶飯事なのかひとしきり笑い終わると他の生徒達は君彦から興味がなくなって、再び友達と会話の続きをしようとした時・・・せっかく場の空気が和もうとしていた矢先に、一人の男子生徒が君彦の方へと歩いて行った。
見た所―――――――あからさまな不良タイプ、髪は茶髪に軽くパーマをかけており拗ねた顔つき、学ランのボタンは止めずに中に着ている派手なシャツを見せびらかしている状態の・・・そんな生徒である。
彼は君彦に向かって文句を言うのかと思いきや、回りの生徒達に向かっていきなり怒声を浴びせた。
「テメーらぁーっ! 今こいつのことをバカにしやがっただろぉ!!」
当然しんとなる、呆気に取られている響子も思わず猫の方の猫又を追いかけていたことを忘れて呆然としていた。
何が何やらわけがわからないまま、その後も場の空気を全く読めていない不良の怒りは続く。
「初日ん時からも言っただろうが、もしこいつのことをバカにしたり笑い者にしたり・・・ましてやイジメなんぞしやがったらこのオレが黙ってねぇってなぁ!」
「え~っと・・・春山、違うんだよ」
「てゆうかぁ、誰も君彦クンのことバカになんてしてないと思うけど?」
一人で勇んでいる不良―――――――春山に向かって、君彦が苦笑いを浮かべながら仲裁に入る。
黒依は黒依でのほほんとした口調のまま春山の暴走を面白がるように見つめていた。
「だけどよぉ! さっきこいつら・・・っ!」
「あれはいつもの冗談みたいなものじゃないか、別にイジメとかそんなんじゃないって。だから落ち着けよ」
君彦の言葉に大人しく従っている不良、そんな光景を眺めながら響子はますますわけがわからなくなっていた。
そんな響子の存在に気付いた黒依が駆け寄って来る、君彦はまだ春山を落ち着かせようと必死な様子だった。
「あ、志岐城さん・・・一体どうしたの? そんな所で~」
「え? あ、いや・・・何かわけのわかんない展開が繰り広げられてるなぁ~って思って。てゆうかあの不良と猫又と、一体どういう関係なわけ?」
響子が春山と君彦の方に指をさして怪訝な表情を浮かべる、黒依はそれを見て納得したのか笑顔になって説明した。
「あ~春山竜次クンのこと? 大丈夫だよ、あれって別にケンカとかしてるわけじゃないから。春山クンはね、施設で君彦クンと一緒だったんだって~。あたしはよく知らないんだけど最初春山クンは君彦クンのことをイジメてたらしいのね。でもある時、春山クンが心霊体験で悩まされてたことがあって・・・それを君彦クンに助けてもらってからは、イジメるのをやめて君彦クンとお友達になったみたい。今ではすっかり君彦クンのボディガード気取っちゃって、ああやって事あるごとに勝手に首を突っ込んで来るようになったの」
「―――――――え?」
黒依の説明の中にいくつか聞き捨てならない内容が含まれているような気がした。
どこか言葉の中に棘があったような・・・、そんな気が。
「ま・・・まぁともかく、あれはいちゃもんつけられてるとかそういうんじゃないんだ」
「そ! だからそんなに心配しなくても大丈夫だよ?」
そう返され、響子は飛びのくように後ずさりすると顔を真っ赤にしながら否定した。
「なっ! 別にあたしはあいつがどうなろうと知ったこっちゃないわよっ!? 心配とかなんて全然してないんだから!」
しかし黒依はそんな響子のオーバーリアクションにも動じずにっこり微笑んだままだ。
昼休みに友達宣言されたとはいえ、どうにも黒依といると調子が崩れてしまうように感じる響子は口をへの字に曲げて視線を逸らす。
「・・・つーか、あたし猫又探しに来たんだった・・・」
ようやく用件を思い出した響子はそのまま問答している最中の君彦の元へ歩いて行くと、威風堂々とした態度で声をかけた。
「ちょっと! 猫又君彦! あんたの猫又探しに来たんだけど、一体どこにいるわけ!?」
なぜこんなに偉そうな態度を取ってしまうのか、響子自身にもよくわからなかった。
ただどうしても媚びるような態度や友達感覚で話しかけることに抵抗を感じていた響子は素直になれず、どうしても君彦・・・異性の前では壁を作るような態度を取らずにはいられなかったのだ。
そんな響子の態度に当然、君彦至上主義である春山竜次も黙っていない。
「あぁん!? どこの誰か知らねぇが何だその口の利き方わぁっ!?」
勢いよく振り向いた先に仁王立ちで立っていた響子を見るや否や、春山竜次の時が止まる。
目をぱちくりさせて動きが完全に止まっている春山に、君彦が一体どうしたのかと声をかけるが何も反応しなかった。
響子は無意識に異性から間合いを取るクセがついていたので、勿論一定以上の距離を保ちながら―――――――もうひとつのクセである股間凝視も発動させている。
だが響子の視線に気付くことなく春山の体温は急激に上昇していき、顔は真っ赤になっていた。
(ビ・・・ビ・・・、ビュリフォォオ―――――――ッッ!!)
春山の鼓動は最高潮に達し、完全にハートを射抜かれてしまった様子である。
そう・・・春山竜次はものの見事に響子に一目惚れしてしまったのだ。