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友達宣言

 昼休み、三人と一匹は学校の中庭にあるベンチに座って弁当を食べることにした。

 真ん中に黒依が座り、左側には君彦が、そして右側には響子が座り、猫又は響子の足元でぽかぽかの日差しを気持ちよさそうに浴びながらゴロゴロと寝返りを打っている。

 三人が殆ど同時に弁当箱を開けると、なぜかみんなして互いの弁当を見せ合っていた。


「うわぁ~! やっぱり君彦クンのお弁当はいつ見てもすっごく美味しそうだね! 本当に自分で作ってるの? それにしては本格的だよ、本当に料理が上手なんだね君彦クンは!」


 黒依のベタ褒め攻撃にまんざらでもない君彦はくねくねと奇妙な動きをしながら、照れまくっていた。


「そんなことないよ~~、あ・・・ほら! 黒依ちゃんのそのきんぴらごぼうなんてとっても美味しそうじゃないか!」


「これ、冷凍食品だよ」


「そ・・・、そう」


 悪びれた様子も、傷付いた様子もなくあっさりと笑顔で認める黒依に君彦のテンションは少し下降する。

 そんな二人のバカップルぶりを横で見ていた響子は、全身に鳥肌を立てながらドン引きしていた。


(・・・何これ、何なのこの壁は!? 明らかにあたしと狐崎さんとの間に言葉では言い表し難い、分厚い壁が立ち塞がってんだけど!? これは一体何のプレイなわけ!? 置き去りプレイ? 放置プレイ? 村八分プレイ!?)


 顔を引きつらせながら硬直していると、響子の様子が目に入った君彦はすかさず気を使って言葉をかけて来た。

 黒依に見せるようなメロメロな笑顔ではなく・・・、親切そうな無垢な笑顔だ。


「あ、志岐城さんの弁当もすごく美味しそうだね。お母さんの手作り料理とかかな?」


 突然話題を振られた響子がハッと我に返ると、思わず素直に返事をしていた。


「―――――――え!? あぁ、一応自分で作った弁当だけど? それが何・・・・・・。」

「うわぁ~~っ! 志岐城さんも手作り弁当なんだぁ! すっご~~いっ!」


 響子が最後まで言葉を発する間もなく黒依の黄色い声が響子の鼓膜を刺激した。

 そんな黄色い声が響く度に、響子の苛立ちが徐々に募っていく。

 ひくひくと笑顔を引きつらせながらとりあえず我慢し続ける響子であったが、すでに我慢の限界は近いのかもしれないというのは当然、―――――――言うまでもないことだ。


(つか、この女さっさと黙らせろや猫又君彦っ! いつまでもこんな調子を続けてたら、幽霊に関するアドバイスとかが聞くに聞けないじゃないのよっ!)


 だがしかし幾度となく訪れた休憩時間の時の黒依に対する君彦の態度や言動をずっと傍から見ていたことから、君彦が騒がしい黒依を諭して大人しくさせるなんて奇跡は決して訪れたりはしないのだろうと、心の中で絶望していた。

 結局40分しかない昼休みの約20分位は弁当に関する話題で盛り上がりながら食事する、という行動しか取れなかった。

 ようやく昼休みの残り時間があと10分を切ったところで、さすがに響子の目が虚ろになって来ていることに気付いた君彦がものすごく遠慮気味に黒依を大人しくさせることに成功。


 約30分もの間よく我慢したと、響子は自分で自分を褒めたかった位だ。

 そしてやっと・・・、響子は君彦に向かって幽霊に対するアドバイスや猫又に関する話を聞けることになった。

 君彦からまず何が聞きたいのかを聞かれた響子は、とりあえず猫又が側にいない間・・・色情霊が自分にまとわりついていることに関して聞くことにする。

 響子にとって幽霊という存在を目にしたのは昨夜が初めての体験だったので、どうしても色情霊と目が合った出来事が頭から離れずに一晩中気になって一睡も出来なかったのだ。

 普段から幽霊が見える君彦が、一体どのように対処しているのか・・・とにかくまずはその話を響子はどうしても聞きたかった。


「あたし・・・霊感とか全然ないタイプだから、幽霊なんてものを見たのは昨日が初めてだったわけ。だからこれから先も幽霊を気にしないで生活するにはどうしたらいいのか、それを聞きたいんだけど・・・。あんた確か普通に幽霊が見えるって言ってたわよね? 一体どういう風にしたらそんな普通に出来るわけ!?」


「う~~ん、オレの場合物心ついた頃にはすでに幽霊とか見えてたから・・・あまり意識したことはないんだけど。普段見えないものが急に見えたりすると、やっぱり気になるものなのかな」


「あったり前でしょ!? あんたの場合はどうだか知らないけど、あたしなんか女の幽霊がべったりとまとわりついてんだから・・・っ! それを考えただけで気持ち悪いわ、気になって仕方ないわ、とにかく気が散ってしょうがないのよっ!」


「いいなぁ~・・・、あたしなんか霊感全然ないから幽霊なんて見たことないし・・・。てゆうかあたしの場合は幽霊が見えるようになりたいんだけどな」


「・・・悪いけど、今はちょっと黙っててくれない!? こう見えて本当に深刻に悩んでんだから、休み時間も残り少ないんだし・・・」


 これ以上黒依のペースに巻き込まれないように、響子はすかさず口止めした。

 拗ねた表情を見せながら「え~~」と言っていたが聞こえないふりをする、君彦に至っては本当に申し訳なさそうに謝っていたが。


「確かに家でくつろいでる時位、幽霊にまとわりついてほしくないって気持ちはわかるけどね。・・・オレは幽霊がハッキリ見えるから直接出て行くように言ってるんだけど、志岐城さんの場合は勝手が違うしなぁ」


「・・・ハッキリ言うんだ、出て行けって・・・、幽霊に」


 少しイメージと違っていた。

 響子はてっきり部屋の四方に幽霊を退散させるお札を貼っているとか、何か霊的なもので幽霊を退けているものとばかり思っていたのだが、どうやら君彦の口ぶりから・・・まるで近所の子供に言い聞かせる程度の、注意をする的な行為で幽霊を追い出しているだけという事実を知って響子はほんの少しだけ、君彦にアドバイスを求めたことを後悔している。


『間違ってもインチキ霊媒師から買った札を、部屋中に貼り付けたりなんかすんなよ? あれは素人がやっちまったら幽霊を逆に刺激するだけになるからな、ま・・・幽霊に喧嘩売っちまうようなもんだ』


「え・・・、そうなのか?」


「あんた、知らなかったの?」


「まぁ、オレはお札に頼らなくても大体の幽霊は口で言ったら言うこと聞いてくれるから・・・。でもお札がダメとなると・・・、やっぱり幽霊の存在を忘れるようにするしかないんじゃないかな。志岐城さんは幽霊が常に見えてる状態なの?」


 響子の悩みに対して真剣になって相談に乗る君彦の姿勢だけは買っていたが、それでも確実な方法を考え出してくれないことにはどうしようもない。


「え~~っと・・・あたしが見たのは鏡ごしだけだったけど、それ以外は別に」


「それじゃ、鏡ごしにだけ気を付けて・・・それ以外は幽霊の存在を忘れるようにすることは出来ないかな? 最初は無理かもしれないけど、慣れればどうにかなるかもしれないよ」


 猫又を借りるわけにはいかない、そう考えたらやはり慣れるまで我慢するしかないのかもしれない。

 響子は眉根を寄せながら難しそうな顔をする、同じように君彦も両手を組んで必死に考える、黒依に至っては二人の顔を交互に見つめながら首を傾げているだけだった。


「ねぇ、やっぱりほんのちょっと話すだけじゃ解決方法を見つけるのは難しいんじゃないかな? これからもお話しする機会を増やしてみんなで考えて行けば、もしかしたらもっと良い方法が見つかるかもしれないよ」


「・・・狐崎、さん」


 響子はとても意外なものを見た気がした。

 まさか黒依が自分の為にほんの少しでも、何か良い方法がないかを考えてくれていたとは思っていなかったからだ。

 しかしこの言葉に誰よりも賛同したのは他の誰でもない、―――――――君彦だった。


「さっすが黒依ちゃん! その通りだよ、うん! 志岐城さんに何か困ったことがあったらオレや黒依ちゃんがいつでも力になるし、これからも友達として一緒にいれば話す機会もどんどん増えるよね。だから諦めないでこれからも色情霊をどうしたらいいのか、一緒に考えて行こうよ!」


 さっきまでイヤでたまらなかった黒依が響子に向かって笑顔を見せ、君彦は真っ直ぐな瞳で宣言した。

 この二人が自分の為にここまで親身になってくれていることに、響子は不覚にも感動してしまっている。

 しかし長い間他人との交流をあまりしてこなかった響子は思わずそっぽを向くと、唇を尖らせながら不服そうな口調で君彦の言葉を受け入れた。


「ま・・・まぁ、そこまで言うなら・・・別にあたしはそれで構わないけど」


 響子の言葉になぜか二人は異常に盛り上がると、勝手に友達宣言をされてしまった。

 しかし悪い気のしない響子は苦笑いを浮かべながら初めて黒依と握手を交わす、当然君彦には触れることさえ出来なかったが。

 そんな光景を他人事のように見つめていた猫又は呆れたような表情を浮かべながら、ぼそりと呟いた。


『お前等・・・、中学生の青春日記じゃあるまいし・・・熱いねー』


 それからタイミング良く始業ベルが鳴ると、三人は仲良く教室へと戻って行く。

 当然猫又は、学校にいる間は君彦ではなく響子の方へと付き添うことになっていた。 

  


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