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第四話 彼と彼女のバイオリンケース


それから5分程度で村についた。


まあバイオリンを弾いたときに結構な人数ががきてたから、割と近かったのだろう。


村は簡単な柵で囲まれていて、木材で作られた20戸ほどの家があるが、いくつか石造りやレンガ造りの建物がある。


俺の正面には木で作られたドアがあるが、村にいた人に開けてもらい、ぺこっと一礼しながら馬車に乗って村の中へ入っていく。


村に入ってすぐに、大きな広場と遊んでいる子供たちと、奥に他とは雰囲気が違うレンガ造りの大きな建物が見える。


そしてその広場から東西南北に分かれる道がある、なるほど……東西南北で区画を分けているのか。


アルデンは西に馬車を進める、ほかの建物より大きくて頑丈そうな建物が見えるし、西側は商業区画的なものなのだろう。


小さな畑やお店、役所のような建物もあり、小さな村ながらも自然のぬくもりを感じるとても居心地がよさそうな場所だと感じた。


「ん……?」


村人たちがジロジロとこちらを見ている。


そりゃあそうだ、こんな変な恰好をしたやつがいきなり村に入ってきたのだから怪しくみられるのは当然のことだ。


でも、怪しむ目線だけではなく、俺の演奏を聴いた人は割と好意的な目で俺を見ていることが伝わってきた。


そんなことを考えている間に、アルデンの商店らしきところに到着した。


「ここが俺の住んでる『リョク村』だ! どうだ、いいところだろ?」


と、馬車をしまいながらアルデンは意気揚々と言う。


「そうですね、とても素晴らしいところです。」


「はっはっは、そりゃあよかった。村長には俺から話を通しとくからよ、とりあえずお前さんは衣服工房に行って服をもらってこい、そんな服じゃ落ち着いて寝れないだろうからな。工房はここから左に行くとある、すぐに見つけられるはずだぜ。」


「え、俺がいきなり行っても怪しまれるだけですよ!」


「大丈夫大丈夫、行ったら分かる!」


「……?わかりました。」


アルデンがそう言うので、何もわかっていないがとりあえず衣服工房に行ってみることにした。


「あっ……あの建物かな?」


言われた通りに進んでみると、ほかの建物とは一風違った、オシャレな建物が見えてきた。


外から少しだけ様子を見てみると、40~50歳くらいの女の人が裁縫機を使っているのが分かり、ここが衣服工房なのだと確信した。


「すみませーん……」


俺は少し緊張しながらも、正面入り口から顔をのぞかせて呼びかけた。


「はーい!って、あんたあのバイオリンを弾いてた演奏家じゃないかい! 本当にさっきはすごかったねぇ。私は『リリモ』だよ!よろしくねぇ! なに? 服をもらいに来た? もちろんさ! あんだけすごい演奏聴かせてもらったんだから少しはお返しがしたいと思ってたんだよ!」


こっちが何かを話す前にどんどん迫ってきて、手を握ってブンブンと上下に振られる。


「あ、ありがとうございます! ありがとうございますって! 痛い痛い! 折れちゃう!」


気前がよくて優しい人でよかったな、とほっとしつつ、もう少し握手は落ち着いてやってもらいたいものだと思った。


そのあとは、自分の身長や体格を調べて、自分に合う服をくれた。


色はくすんだ茶色のような感じで、綿や麻を使っているような感触がして心地よい。


そうしてそろそろアルデンさんの店に戻ろうかといったところで、作業場の奥でピンク色の何かが置いてあることに気づいた。


「ああ、あれが気になるかい?」


俺がちらちら見ているのを察して、すぐに案内してくれた。


さっき気になったものを手に取って見てみると、


「これは……バイオリンケースじゃないですか!? なんでこんなものがここに…!?」


それは鮮やかなピンク色の、肩にかけて背負えるリュックサック型のバイオリンケースだったのだ!これには俺も興奮を抑えきれずに大きな声が出てしまう。


しかも革製で、作りもしっかりしているためかなり高価そうな品物だった。


「この村には一人バイオリンを演奏してる子がいるんだ、それは昔、その子が欲しいっていうから作ってみた試作品さ。完成品は今でもその子が大切に持ってるよ。」


「この村にもバイオリンの奏者がいるんですね……! 会って一度演奏を聴いてみたいなぁ…」


と、そんなことを口に出すと、そのピンクのリュックの隣に、綺麗に保たれている黒いバイオリンケースがあることに気が付いた。


そういえば俺、現世にいたときはもちろんケースを持っていたんだが、こっちにきたっきりずっと手で持ってたんだよな……


……チラッ


馬車に乗った時も、本当はケースに入れておくのが最善だけど、状況が状況だしで荷台においてたよな…


……チラッ


「それ…あんたにやろうか?」


「エ!?」


いきなり思いもしない言葉をかけられ、ひょうきんな声が出てしまった。


「い、いえいえ! 服をいただいたのに、さらにそんな高価そうなものいただけませんよ…」


「なに言ってんだいあんた、今まさに子供みたいなキラキラした目でそれ、見てたじゃないか。

……本っ当にバイオリンが好きなんだねぇ、もってきな! 大サービスだよ!」


「本当にいいんですか……?」キラキラ


「ああ、それもただの試作品だからもってくといいよ。」


「あ、ありがとうございます! この恩はどこかで絶対返しますから!」


「ふふ、じゃあこの村で演奏をするときは聴かせてもらおうかねぇ。」


「はい! ぜひ聴いてください!」


そんなやりとりをしながら俺は工房を出る、辺りはもう日が落ち始めていて、夕方になっていた。


「本当にありがとうございました!」


「ああ! またおいで!」


俺は心から感謝しつつ工房をあとにし、ケースに入ったバイオリンと、新しくもらった服を持ってアルデンさんの店に向かって歩き始める……



………


「この村にも昔、お前みたいな演奏家がいたよ……。

今はもうどこかに行っちまったが、それはそれは本当にすごい演奏だったよ。

あの黒いバイオリンケースは……最後に彼が残していったものさ、『俺に並ぶ演奏家が現れた時に渡してくれ』なんてクサいセリフを吐きながらね……。」


私は、黒いバイオリンケースを背負って歩く彼の背中を見ながらそう呟いた。

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