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ギルド特別補佐

カルシュたちが見上げる先、斜め後方に、彼女はいた。カルシュが叫んだ。


「ミユナ!!」


 水着のようなインナー、コートのようだが通気性がよい軽い黄色のアウター。後方が跳ね上がったショートヘアー、黒髪に内側がうすピンクのツートンカラー。下がり気味ながらぱっちちりとした漫画のような青い瞳。長いまつげ、ツンとしたまゆげ、ぷっくりとした下唇。おっとりとしたまなざしのやさしげな曲線の輪郭。彼女は神出鬼没の“ギルド特別補佐”ミユナである。




「グギギ」


 ロジーが歯ぎしりをたてる。カルシュはロジーに叫んだ。


「ふざけている場合じゃない!!加勢するぞ!!」


 そういった瞬間、二発目の弾丸が破裂音をあげ、カルシュの耳元をかすめていった。


「冗談じゃない、臆病者の手助けなんていらないわ、それにあなた限界でしょう、早く逃げなさい」


 ミユナは、卑屈じみた顔をするでもなく、無表情ぎみにそういった。


「くっ……」


「いまは引いて!」


「でも……」


 そういいかけた瞬間、カルシュは背後に巨大なものがたち、それが自分の目の前に影をつくってふりかえる。


「だからいったでしょ、つかれたなら引きなさい、今のあなたは無能なんだから、そいつの再生力は“コア”を潰さなきゃ無理よ」


 そしてミユナは容赦なく、続けて胸元当たりに二発弾丸を打ち込んだ。


「くっ……」


「旦那様……」 


 心配するロジー、カルシュは切り替えて右手を振り下ろして周囲に叫んだ。


「皆!!引くぞ!彼女にまかせれば安心だ、いったんひいて、体制を立て直す!皆、サトナ!!バイクにのって!!」


 サトナはキラをのせ、カルシュはロジーをのせ、めいめいにバイクに乗り込むと、ひとことカルシュは謝った。


「すまない!ミユナ」


「まあまた貸しってとこね、これにこりたら私の彼に……」


「ちょ、今は子どもがいるんだから」


 純粋な目をむけるサトナ、ため息をついてミユナは続ける。


「紀元前から文明が存在して、何かと複雑らしいわね、この星は、でも彼は特殊だから、この星の問題は必ず解決する、大丈夫、彼は隠し事をしているだけ、もしもの時には役にたつから」


 ニコリとサトナに微笑むと、サトナも安心したように笑った。




 バイクは走り出す。先頭はサトナのバイク、遅れてカルシュのバイク、カルシュは、しばらく走ると徐々に目の前が蔵つくのを感じた、ゆらゆらとゆれて、力なくロジーにいった。


「ロジー、運転を頼む」


 その瞬間、彼の上半身は力をうしない、バイクは一瞬ふらついたがロジーの機転により、すぐに姿勢を持ち直した。


「ちょっ!!」


 そしてロジーの操作するガジェッドからアームがでると、それはすぐにカルシュの上半身をバイクに固定するのだった。




 一方ミユナは、コアが露出し完全に破壊された星間アーマーの前にたっていた。


「ふむ」


 だが、そう一息ついた瞬間、彼女の背中で砂がもりあがる。


「だれっ!!?」


 気配を感じたミユナは距離をとりながら翻って銃口をそれにむけた。そこには、もうひとつの星間アーマーがいた。彼女はつぶやいた。


「仕方がない、“オーバーライド”するしかないか、頼むよ、相棒」


 相棒とよんだ彼女の兵器は、彼女の背丈の二倍もあり、ところどころデコレーションの施されたピンク色のライフルだった。




 カルシュは、バイクの上で意識を完全に失うまえに、少しの疑問がうかんだ。


【あの子、キラは……何者なんだ、あの影は……サトナさえも覆っていたきがしたが】




 ふと、カルシュは長い夢をみた。キネクという彼にとって大事な少女の記憶


 ―"カルシュには非凡の才がある”―


 少年時代の記憶に深く刻まれたもの。内側黒色の金髪ショートボブ、素朴で優し気な顔をした少女が背中で両手を組み、振り返り満面の笑み。二人は同じ教会で育てられたみなしご同士、幼馴染。家族のようであり、お互い特別な存在だ……少女は幼いながら特殊な力をもち、異彩を放っていた。カルシュにはそれがどこか恐ろしくもあり、あこがれでもあった。それは話術。それは周囲を感動させ、人に希望を与え、夢を見せた。彼女にはその才能があった。まるで天使のようだと人々は褒め叩いた。が、少女は体が弱かった。




 そして、人の注目を浴びる一方、隠し事をする事も多かった。人に力を与えるが、自分には自信がさげ、夢は星間冒険者、誰より冒険者に憧れていた。その隠し事が大きな事件に発展するとは、カルシュも、カルシュを育てた神父も考えていなかっただろう。




 彼女は14の若さで一人で仕事をしており、教会や、貧しい人々にお金を渡していた。そのことに周辺人物やカルシュが気づいた頃には時すでに遅し、彼女は一人で故郷をとびだしてしまった。そして、戻ってきたころには……ぼろぼろで、襲撃者に追われていた、一人で冒険をし、金を稼ぎ……その襲撃者に殺された。ひどい記憶、二人の故郷、パイプだらけの貧乏でスラムあふれる工業星で……彼女は、少年や仲間に隠れて無茶をして死んだのだ。念願の“冒険者”になった変わりに多くの物を失って。


《キネク!!どうして!!》


 泣きながらとう少年時代のカルシュ、その腕の中体を鮮血に染めながら少女は笑った。体はぼろぼろ、骨は折れ、もはやその息も僅かといった様子。かすれた声で彼女はいった。


「あなたより、遠くに行きたくて」


 彼女が息絶える前、そこで少年は少女の最後をみた。サイボーグたちに追われ、賢明に戦った。袋小路に追い込まれた彼女は、科学魔法を使い宙を舞い、サーベルを手にサイボーグをすらりとかわし、捌き、一人で大勢の人間を巻き込まないように、最後は光の科学魔法で彼らを全滅させた。それはまるで彼女の憧れそのもの、星の輝きの様に美しかった。




 しかし……カルシュの脳裏にもう一つの姿があった。事が終わるとその惑星に降り立ち、パイプのからまる高所からこちらを見下ろしていた女。光魔法の残骸があたりをチリチリと照らす中。燃えるような赤の髪と赤の左目、右目と左半身がサイボーグの海賊―“レッドステート”のリーダー、“ネロ”彼女が自分と彼女を見下ろして笑っていた。彼女こそが、青年が復讐すべき相手、命を奪った連中のリーダーだった。その顔は非凡なほどにきらびやかで、小動物のように小ぶりな鼻、小ぶりで美しくぷっくりとした唇、大きく妖艶なめじりとまつげ、なによりその瞳は、今までどこでだって見たことがないように―暗い損失と深淵を抱えたように―遠くをみていた。今人を襲撃し、殺したというのに。




 少年だったカルシュはその光景に強い恐れを抱いた。それは、美しいと思えるほどに。だがもはや自分は、少女にふれることも、話すこともかなわない。その喪失感とともに。

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