取引
翌朝から、会議はひらかれた。村の重役とロジーとカルシュ、キリや、サトナがいた。
「それで君たちは、宝をさがしていると」
「ええ」
「その形状は?」
「これです」
カルシュは写真をみせる。三日月がたのアクセサリー。どことなくファンシーな星の装飾のあるデザイン。
「あ……」
そのとき、キリという少女がまえにでてきて、ポケットから何かをとりだし、さしだした。
「お……」
「あっ……」
カルシュ、ついでロジーが気づく。カルシュがそれに手を伸ばそうとした瞬間、少女はそれをひっこめた。紛れもない、それは探しているアクセサリーだった。
「物々交換……」
カルシュは正面にすわるヘイ爺にめをむける。ヘイ爺は渋い顔をした。
「これこれ……サトナの恩人になんて失礼なことを、恩を仇で返すようなことを……といいたいところじゃが……こちらも貴重な武器と砲弾をうしなったわけじゃしな……すまないが……」
落ち込むカルシュ。ここまできて見返りも、ギルドからの報酬もないとは。
「が……」
ヘイ爺が語りだした。
「なあ、キリよ、お前探し物があったそうじゃないか」
「ん?……たしかに」
「それを探しだしたら、彼にそれを渡してやってほしい」
カルシュの顔がほころぶ。
「それって、何です?」
少女は眼鏡で隠れた瞳で、訴えかける。
「親の形見……かなあ……古い拳銃で、銃としての機能はもうないんだけど」
「かなあ……って」
ふと、カルシュは周囲に目をやる。圧のある視線がそこら中から自分にとんでくる。もしかしたら、この村には独自の文化があるのかもしれない、いちゃもんをつける必要もないし、気分を悪くする必要もない。ようやく報酬にありつける機会をえたのだ。
「わかったよ、やるよ」
それから三日ほど、カルシュはキリと、ついでについてきたサトナ、ロジーとバイクで旅をした。野生のクマに襲われたり、巨大な崖から谷底に落ちそうになったり、
そしていよいよそこにたどり着いた。
数十メートルある崖の上から見下ろす。砂漠地帯にくらべればほんのりと緑のひろがるそこは初めにめにした簡素なアンドロイドたちの集落らしかった。そのひとつなのだろうか。渓流の中、穏やかな暮らしをしているようだった。古来の牧歌的な生活。狩りや小規模な農耕牧畜など、のどかな風景がひろがる。
キリがいった。
「あそこに、あるわ」
指さした先に、たしかに“ソレ”はあった。古びた拳銃、子供がぶら下げていた。
カルシュはとまどった。
「俺はアンドロイドに取られたなんてきいてないぞ!!」
「あいつらは、“人でなし”だから」
「どういう意味だ?」
「もともと人なのよ、あたしたちと犬猿の中の……私たちが力をつけて南半球を支配してから、おびえて暮らしているの」
「でも、子供が……」
カルシュが、とまどうとキリは、追い打ちをかけるようなことをう。
「もしあれが、彼らのいう宝ものなら」
「だから何?怖いの?奪わないの?私たちの因縁に口をだすの?部外者のあんたが、あんたは、暮らしのためにここにきた、私たちだって、暮らしのためにいがみ合っている、何もアンドロイドたちを殺せとはいってないでしょう」
「しかし……」
キリは大きなため息をついた。
「まったく、とんだこしぬけね、褒められるような生活もしていなくせに」
カルシュは、胸の中に湧き上がるものを感じて、集落にとびおりた。数十メートルの崖の高さももろともしない。カルシュが叫んだ。
「やってやるよ!!俺もひとでなしの一味さ!!」
ざわつく集落、そしておんぼろの拳銃をもっているこどものまえにのりだす、周囲を大人たちが取り囲むなか、ひとこと放った。
「その拳銃、俺にくれないか」
「やだといったら?」
だがカルシュは、怯みもしなかった。
「すまん!!」
すさまじいスピードで、地面にほうりだされていたそれをかっぱらうと、ジャンプしてバイクにとびおり、わざとエンジンを大きくかけて、アンドロイドが追いかけてくるのをまった。
そしてサトナににつげた。
「キリをのせて、先に帰っていてくれ!!」
それから二日ほどバイクにのって、アンドロイドをふりきった。幾度も幾度も、彼は容赦ない襲撃と銃撃をうけたが、すべてをロジーの協力のもとに振り切ったのだった。