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第90話 「嫉妬じゃねえよ!」

 ナインは超人モードの特訓をやめて、狼太郎の訓練に付きっきりになった。

 彼女の仲間であるサヤカ達は四人でのハイレベルな戦闘訓練を行っている。俺に入る余地はない。


 そして俺は避難者の手助けをしていた。

 飯が欲しい、水が欲しい、服が欲しい。頼まれた物を魔法の杖で生産して届ける。これの繰り返しだ。

 ナインはこれが特訓だと言ったが…正直納得いかない。こうして経験値じゃなくてストレスが溜まっていくような日々が流れていた。


 ウォルフナイトは確かに強い。ナインがいなきゃ何も出来ない俺よりもずっと強い。しかし力がコントロール出来ずに何度も暴走して、少なからず被害が出ている。

 あんなやつよりも俺かナイン自身を鍛えた方が効率的だと思う。そのことも抗議したが、ナインは聞き入れてくれなかった。


「こんなに静かだったかな」


 嫌気が差した俺はアパートに戻って来た。幸い、ここは魔獣の被害を受けなかったのだ。

 生徒会要塞で部屋を用意してもらったが、どうも使う気になれない。事態が収束するまで、このアパートは静かになるだろう。


 ナインがいつも握っていたゲームのコントローラーに埃が被っている。戦いが終わったらまた遊ぶのだろうか。俺は埃を払ったが、きっとしばらくしたら元の状態に戻ってしまうだろう。


「ナイン…」

「光太」


 気配がして振り返ると、そこには以前戦った天音が立っていた。彼女の顔を見た途端、脚が痛み始めた。

 まずいぞ…魔法の杖すらない。上手くタイミングを見計らって逃げないと。


「待ってよ。別に襲いに来たとかじゃないから」

「騙されねえよ!………あっ!脚が!」

「光太、凄く寂しそうにしてるから。仲間にならないかって聞きに来たんだ」

「誰がなるか!いいか、アン・ドロシエルのやろうとしている事はこの世界滅亡だ!お前はそれに手を貸しているんだぞ!」

「そんなの別にどうでもいいよ。大切なのは光太だから」


 こいつ…どう説得しても無駄だ。やっぱり頭が狂ってるんだ!


「ナインはお前なんかに負けない。お前もいつか魔獣みたいに倒されて、そして死ぬんだ…覚悟しとけよ」

「私が戦いたいのはあんなチンチクリンじゃなくて光太だよ。君はあそこにいる戦士たちの中で一番弱いし」

「言ったな!」


 繰り出したパンチは受け止められ、そのままテーブルに叩きつけられた。嫌でも俺が無力だと分かってしまう。


「そんな光太がこれからどうなるか楽しみなんだ…あ、このゲーム機って発売したばっかのやつじゃん。ちょっとやらせてよ」

「お前がそれに触るな!」


 ナインの私物に触る天音を許せず、俺は椅子で殴った。しかし彼女は揺るがず、椅子の脚が折れてしまった。


「あ~あ…分かったよ。もう帰る。イライラさせちゃってごめんね」

「悪いと思うならここで死ね!」

「ひとりぼっちの光太に構ってあげてるんだよ?本当なら感謝して欲しいんだけどな…」


 台所に包丁を取りに行っている間に天音は逃げた。そんなに戦いたいのなら、俺がこの手で殺してやる…




 天音が去った後、ボーッとしていた。時間はあっという間に過ぎていき、気付けば夜になっていた。


「光太~いる~?」


 ナインが帰ってきたみたいだ。どうしたんだろう。


「僕らとハンターズの友好を深めるためにパーティーをやるってさ。ほら立って!」

「行かない」

「なんで?」

「楽しむ相手のいないパーティーに参加する意味があるのか?」

「僕達がいるじゃないか」

「お前はどうせ狼太郎だろ」

「え、なに…もしかして嫉妬してる?」

「してねえよ」


 はぁ…そんなくだらない理由で俺を探してたのか。早く帰ってくれないかな…


 しかしナインは部屋を出ていかず、俺の隣に座ってきた。狼太郎にやられたのか服が傷付いている。それに少し汗の匂いもした。


「なんだよ…行かないのかよ」

「大切な友達を放っておこうとは思わないよ」


 ムカつく…こっちは今凄い嫌な気分なのに余裕そうにしやがって。


「嫉妬か~…意外と可愛いところあるじゃん」

「嫉妬じゃねえよ!」

「…やっぱりパーティー行ってこようかな。なんか色々料理出るみたいだし」


 そう言うとわざとらしくスローで立ち上がり、玄関へ歩いた。


「行っちゃうかな~どうしよっかな~」


 今の言い方がかなりムカついた。俺はナインを掴んでこちらを向かせて、ハッキリと告げた。


「行くな」

「え~なんで~?」

「行くな!」


 俺にそう言わせたナインの顔はにんまりしていた。




 テーブルには魔法の杖から出てきた料理が並んでいた。


「魔法で作ったやつじゃないよ。料理したのを持って来てあげたんだからね!」


 こうなることもお見通しだったってわけか…


「いや~しかし…最近僕と一緒だからって狼太郎に嫉妬するなんてね!可愛いところあるじゃん!」

「悪いかよ」

「い~や~…でもなんでか分かんないけどゾクゾクしたよ」

「するなバカ」


 久しぶりに食べた手料理はこれまで以上に美味しかった。


「狼太郎にお昼ご飯を作ることにしたんだ。そしたら生徒会の人たちからいろいろ教えてもらって前より上手くなったんだよ!どう?美味しい?」

「うん。すっげぇぇぇぇぇぇぇッ!まずい!」

「えー!そんなー!?」


 するとナインは改まった様子で話し始めた。


「私情は挟めないよ。狼太郎の力はこの先きっと必要になる。そのためにも──」

「分かってる。もう何回も自分に言い聞かせてるし…そこまで言うなら俺はもう待つしかないよな」


 明日からナインと狼太郎を接触すらさせず、彼女を独占していたいというのが本音だ。しかしそれを伝えたところでナインの意志は変わらないだろう。


「俺、必要なのかな。お前達みたいに力はないし、生徒会のやつらみたいに武器も使えない…お前から言われて毎日やり続けてる特訓に意味があるとも思えないんだ」

「僕は君を信じてる。光太がいたから強くなれた。必殺技のナイン・ワンドも君が叫んでくれないと発動できない。光太は僕にとって必要不可欠なんだ」


 それを言われて少し気持ちが軽くなった。いくら強くても、他のやつらはこんなこと言われないだろう。


「俺も…信じるよ。ナインならちゃんと、狼太郎を鍛えてやれるって」

「狼太郎の方が終わったら今度は僕達の特訓だ。それまでは…本当ごめんね」

「謝るなよ…はぁ」


 謝るべきなのは狼太郎だ。昨日傷付けようとした時もそうだ…あいつは謝るということを知らないのか?


「約束するから!ほら、指切り!」

「「ユ~ビキリゲーンマーン!嘘吐いたら…」」

「僕の杖千本飲ますから。脅しじゃないよ?魔法で余裕だからね」

「男子水着チャレンジな?」


 こいつのヘンテコな杖を1000本か…死ぬよりも恐ろしいことになる気がする。


「男子水着チャレンジ!?すぐ女の子って気付かれるんじゃないかな?」


 ナインの小指が離れていく。このまま狼太郎の訓練が長引けば、心もこんな風に離れていってしまうのだろうか。


「僕そろそろ戻るよ。また明日ね」

「…一人だと寂しくて寝れないかも」

「いつもどうやって寝てるんだよ」

「ナイン…帰んないで」

「流石にキモいよ…スリープ・ワンド!ほら寝ろ!」


 あぁ…だんだん眠くなって来た。


「ここじゃなくて布団で…………ほら。おやすみなさい」


 ナインが行ってしまう…離れたくないのに…凄く、眠い………

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