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第9話 「行けるなら行ってみたい!」

 いつも通りの一日を過ごし、夕食を食べている時だった。ただ点けているだけで見てもいないテレビから、速報が流れた。


「速報です。先程午後8時、フロリダから5人家族のアダムス一家が月面都市メトロポリスに移住したことにより、月の総人口が一億人に到達しました」


「え、なにこれ…こんな時間からロードショー?」

「映画じゃなくて月面都市だ。ナインは知らなかったか」


 俺が産まれる前に造られた月面都市メトロポリス。昔は宇宙に興味を持った人達が集まる小さな町だったらしいが、今では独自の法が存在していてもはや国だ。きっとそう遠くない未来、月面国家メトロポリスになったりするだろう。


「急にSF要素出てきたら異世界アノレカディアのインパクトが薄れるじゃん!まさか宇宙人と交流してたりしないよね!?」

「宇宙人ねぇ、いたら会ってみたいもんだ」

「ホッ良かった…」

「メトロポリスには俺の親戚が住んでるんだ」

「うわあああ!いきなり地球の外から新キャラを用意しようとするな!まだ僕ら以外でユッキーとお兄ちゃんしかネームドキャラ登場してないんだぞ!」


 まだその親戚とはテレビ電話でしか話したことがない。いつかお土産を持って、月まで会いに行きたいな。


「そうだナイン。魔法で月にワープさせてくれよ」

「嫌だ!色んな意味で君にはまだ早い!」

「なんでだよ。今時小学生が修学旅行でメトロポリスに行くこともあるんだぞ」


 メトロポリス行きのチケットは手が出せないくらい値段が高いんだよな…ナインの魔法ならと思ったけど、使わせてくれないなら仕方ない。諦めるか…


 ナインは食器洗いをしながら、ずっとメトロポリスに関する動画を見ていた。やっぱり、月面都市が気になるのだろうか。


「そんなに気になるのか?」

「まあね。僕達の世界はアノレカディアしかないから」

「アノレカディアってどういう場所なんだ?」


 ナインのいた世界には魔法が存在するっていう印象から、俺はRPGゲームみたいな風景をイメージしていた。


「行ってみる?まあ想像通りの場所だろうけど」

「なに?そんな簡単に行けるの?」

「今から準備すれば明日には。どうする?行ってみる?」

「だったら…行けるなら行ってみたい!」

「じゃあ食器洗いよろしくね」


 ナインはスポンジを置いて和室に入っていった。こいつ、仕事を押し付けたかっただけなんじゃ…




 次の日、和室では扉枠の形をした巨大な機械が出来上がっていた。一体、材料はどこで調達したのだろうか。


「転移魔法の杖アノレカディア・ワンド!」

「こんなデカくても魔法の杖なのか…」


 ナインがレバーを動かすと機械が起動。枠の中に景色が広がった。


「ガチョーン!ガチョーン!ガチョーン!」


 さらにレバーを動かすと、枠の中に映る景色が変化した。草原、岩場、海…俺たちの世界と変わらない物ばかりが映っている。


「やっぱり結界魔法が張られてるから、街には出られないか…」

「これ通ったら…異世界?」

「うん。同じ杖をもう1本用意したから、向こうで拠点を造ってそこに設置しよう」


 そのもう1本はどこにも見当たらない。まさか、そのか細い腰に巻いてるバッグに入ってるのか?


「良い場所出ないな~」


 ナインは何度も転移地点を選び直している。俺はもう早く行きたくてウズウズしてるのに…


「あー!良い場所だったのに回しちゃったー!」

「ナイン、どこでも良いんじゃないか?」

「えー?仕方ないな~、それじゃあここでいっか」


 映っていたのは滝だった。流水の落ちる泉には、フワフワと浮かんでいる不思議な光が見えた。


「通って良いんだな?」

「うん。万が一何かあっても僕がいるから心配しなくていいよ」


 俺は景色につま先を伸ばした。そして身体をゆっくりと進めると、俺の身体は一瞬にして景色の中へ。


 アノレカディアへの移動は一瞬だった。


「呆気ないけど…ここがアノレカディアか!」

「ようこそ。僕の故郷へ」


 青空には雲だけじゃなく、大地が浮いていた。ドラゴンと思わしき影もある。

 凄い!夢や幻覚を疑ったけど、俺が視てるのは間違いなく本物だ!


「すっげ~」

「ここはラミルダ大陸だね」


 ナインはまた新しい杖を手に持って、それを地面に突き立てていた。杖の上には見たこともない大陸の地図が表示されている。


「うん。この名のない森林に人が寄ることは滅多にないみたい。人の集まる場所も近くにないみたいだし、良い場所に出たね」


 目を凝らして森の中を見回すと、初めて見る動物が何匹もいた。


「もう1つのゲートは…あそこに設置しよう」


 ナインは滝の方を指差していた。確かに、滝の裏側なら雨風を防げるし、ゲートを置くにはちょうど良いかもしれない。


「…いや狭くね?」


 思ってたよりも狭かった。それと不思議なことに、外からは滝の内側が一切分からなかったのに、中からは外の景色がハッキリと見えた。


「ここの水はマジックミラーウォーターみたいだね。内側に光源を増やせば外の様子を安全に確認できるね」

「光源を置くって言ってるけどよ…ここ、ゲートすら置くスペースないぞ?」

「だったら、広げれば良いんだよ」


 そうしてまた便利な杖を出してくれるのかと思いきや、ナインは外に出て木材を集め始めた。


「まさか穴を広げるために道具を作るのか?魔法でいいだろ」

「せっかく身体を動かす機会なんだ。ほら、光太は丈夫そうな植物を集めて!」


 丈夫そうな植物ってなんだよと思っていたが、確かに丈夫そうな植物はそこら辺に生えていた。

 アノレカディアの自然環境は、元の世界とは全く異なるようだ。


「ナイン!これとかどうよ?」

「あ~それで良いんじゃない?この岩と木片を結んで…出来た!つるはし!さらに幸運にも手に入ったジョウブッドの樹液を塗りたくってしばらく放置」

「そしたらどうなるんだよ?」

「滅茶苦茶耐久性が上がって一生ものになるんだ」


 作業を終えたナインは樹液の付いた手を泉で洗っていた。


「お前、知識あるのな」

「もしかして今まで馬鹿だって思ってた?」

「うん」

「あのねぇ、今まで見せた魔法の杖、ほとんど自作だから」

「そう言えばそうだったな。そりゃ頭良くないと作れないか、ああいうの」

「いや、コツを覚えれば猿でも作れる。後で光太の杖を作ろうよ!」


 凄い頭の悪い会話をした気がする。別に頭が良いわけではないが、ナインレベルには堕ちたくない。


 樹液が固まったつるはしで滝裏の拡張を始めた。ナインは泉の魚を昼食にしようと、銛を持って歩き回っている。ちなみにあれも魔法の杖らしい。


 この世界の中に時差は存在しないらしい。どこでも同じ時間に太陽が沈み、月が昇るのだ。

 ナインが言うには、アノレカディアそのものが世界であって、俺の世界にあった宇宙空間が存在しないとか…とにかく理解できない事を説明してもらった。


「魚捕れたよーっておー凄い広くなってる。崩れたらどうするつもりだよ」


 作業に夢中になっていた俺は、ナインの声が聞こえてくるまでつるはしを止めなかった。

 気が付けばかなりスペースは広くなっていて、ゲートだけでなく家具も置けそうだった。


「こんな短時間でここまで掘ったのか…」

「この土地の魔力が君を強化してくれたんだ。お昼にしよう」


 昼食はナインの捕ったビレシケという魚の丸焼きだった。魚をこんな風にワイルドに食べるのは初めてだ。


「今日は初めてだらけだな…ムシャッ」

「楽しい?」

「すげえ楽しい」

「だったら僕も嬉しいよ。君を連れて来た甲斐があるね」

「それにしても旨いな。魔物って全部食えるのか?」

「うん………僕は食べないでよ!?魔物じゃなくて魔族だから!」


 この魚や森に潜む動物たちは魔物と呼ばれ、元の世界で言う人間以外の動物である。


 サキュバスであるナインや、この世界に存在するというエルフやマーメイド、ケンタウロスなどの知的生命体は魔族と言う。しかし人間は魔族には含まれないのが、なんとややこしいことか。


「ごちそうさまでした。それじゃあ光太!君だけの魔法の杖を作ろう!」


 ナインが先程のつるはしを持って来た。これからどうやって魔法の杖に仕上げるのだろうか。


「光太はどんな魔法が使いたい?杖を振るだけで出来たら便利だなって思う事とか」

「いきなりだな。う~ん…」


 空は飛んだしワープも出来たし、ナインが持ってる魔法の杖があれば事足りるんだよな。


「…魔法の杖はいいや」

「え!どうして!?」

「お前の杖があるし、それにこれはここに来てナインが作ってくれた物だから大切にしておきたい」

「そう言うならこのままにしておくよ。大切にしてね」


 魔法の杖に比べたら、つるはしなんて大した物じゃない。けどこれは大切しておきたいんだ。


 それから、俺たちは元の世界に戻って来た。どうやらアノレカディアとこことで時間の流れに違いはないみたいだ。


「ありがとう、ナイン」


 つるはしは一応新聞に包んで、クローゼットの中に隠した。また異世界に行く時に、これを持って行こう。

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