第88話 「今でも後悔しています」
転点高校の地下にある生徒会要塞と、そこを基地にしている対魔獣組織ハンターズは、水城財閥の資金援助があって作られた。
魔獣から世界の平和を守るという約束の元、お母様は支援を始めたのだけど…
私、水城星河は組織の仲間じゃない。だからと言って敵でもない。ただ彼女達が苦手ではあった。
「酷い有り様ね…」
昨晩、街に巨大な魔獣が大量発生した際に私も現場へ向かい、ナインちゃんの仲間と共に戦った。
一体なにが起こっているのか。情報を共有するために今日は生徒会要塞に訪れた。
「あら、ナインちゃん」
「ホッシー!久しぶりだね!」
光太君も一緒だ。だけど…なんか機嫌が悪いみたい。今ちょっかい出すのはやめておこう。
「ナインちゃん、どうしてここに?」
「会長さん達と協力することになったんだ。それでまず、避難して来た人達に何が必要か聞きに行くんだ」
あの人達と協力…背中から刺されないか心配だわ。
「そっちはどうしたの?」
「お金のお話よ。両親の財閥がここに資金提供してるの」
「お金持ちって凄いね………それってつまり、ハンターズの事とか知ってたの!?」
「えぇ、そうね」
「なんで早く言ってくれないの!?じゃあ、狼太郎がウォルフナイトってことも知ってたの!?」
「え…なんの話?」
この時ようやく、以前戦った獣人の正体が萬名君だと知った。しかもウォルフナイトと、ちゃんと名前まである。
まさか魔獣の力を使える人間がいて、それがハンターズの一員だったなんて…何の報告も受けてないわ。
「気を付けろよ水城。生徒会のやつらは信用するな」
「光太うるさいよ。ごめんねホッシー、気にしないで」
こ、光太君が私を心配してくれた!?キャー!
「あああありがとう!」
あぁ行っちゃう…前より後ろ姿が逞しくなってる…
「超人モードをコントロール出来るようになれば、あいつらと手を組む必要もないだろ」
「それが出来ないから手を組んだの!」
光太君頑張ってね!私も頑張るぞ!
「そろそろハンターズへの加入を表明してくれよ。水城君」
「会長。再度言わせてもらいますが、私がするのは資金援助のみです」
生徒会長とお金の話をしに来たというのに、私はいつものように話題をねじ曲げられ、ハンターズへのスカウトを受けていた。
「それと先程ナインちゃん達から聞きました。萬名君が魔獣の力を使える存在、魔獣人に変身出来るって。学校で暴れたのは彼だったんですね」
「そうだ。君を助けたあの日よりも前から、既に魔獣人という姿を持っていた」
あの日…この人たちに出会ってしまった日だ。
中学生最初の夏休み、私は山に籠って魔法の修行をしていた。
星が綺麗に見える夜だった。用を足そうと川の近くに作った自作のトイレへ向かった時、魚の様な形をした怪物が空中を泳いでいたのだ。
お母様から話を聴かされていたのでそれが魔獣だとすぐに分かり、人里に降りる前に倒そうとした。しかし未熟な鎖魔法は魔獣相手に通用せず、私は絶体絶命の危機に陥った。
そんな時、どこからともなく現れたのが、石器時代の原始人みたく石の斧を持った萬名君。そして生徒会長だった。萬名君の攻撃はほとんど効いていなかったが、会長は鞭1本でその魔獣を撃破した。
「こんな夜に女の子が一人で何をしているんだ?ここは山だぞ。遊ぶ物なんて何もないだろう」
「修行です」
「奇遇だな…私たちもだ」
それから私は彼女達と共に修行をした。魔獣についても話を聞いて少しばかり詳しく知った。
夏休みが終わり、お母様に会長の話をした。するとあの人は彼女達を助けたいと言った。そして多額の援助を行ったのである。
それを見て私も、魔獣との戦いに協力しようと思っていた。
しかし出来上がったのは、萬名君に救われた少女が集まったハーレムだった。
まずは残念だと感じた。大金を得た事で会長は狂ってしまったのかと。しかしそれは違った。ハーレムが作られたのは事実だが、ちゃんと魔獣に対抗する準備も始まっていた。
生徒会長はただ魔獣を倒そうとしていたのではなかった。奪われた分の物をここで手に入れようとしているのだ。
家族を失った生徒会長にとって、自分の元に集まった人間は新しい家族とも言える存在だった。そして萬名君を使って関係者全員を蜜月状態にしてしまった。
生徒会長は病んでいる。彼女の思想が怖くて、だから苦手なんだ。ハンターズの人間は皆、狂っているのだ。
「あの日あなた達に出会わなければと、今でも後悔しています」
「悔いる必要はない。おかげで魔獣から人々を守る準備が出来たのだから」
「あなたはただ、自分に都合の良いように環境を整えているだけです」
これ以上の会話に意味は無い。無理矢理話を切り上げて、会議室を出た。
要塞の階段を上がり校舎に戻る。廊下に座り込む避難者達はただつらそうにしている。そんな中で、光太君はナインちゃん達と一緒に少しでも力になろうと精一杯働いていた。
会長や集まった人達も、あんな風にしていれば私も失望しなかったと思う。