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第85話 「お前なんかにやらせはしない」

「ナイン、正面の敵を兵長と呼称」

「分かった!」


 サヤカが兵長と名付けた相手は両腕の装置から縄を伸ばした。よく視ると、他の兵士よりも装備が少ない。その代わりに身軽に動けるのかもしれない。

 とにかく注意しないと…


「スターフラッシュ・ワンド!」


 杖を振ると夜空の光が輝き出して、世界が昼間のように明るくなった。


 それに動じず、兵長は縄を身長の何倍も伸ばし、僕を狙って大きく振った。

 避けられる速さではある。このまま突撃して叩く!


「危ない!」


 ビュン!ビュン!ビュン!


 サヤカが声を出さなければ重傷を負っていた。縄が推力も無しに突然加速して僕を狙って来たのだ。


「油断しないの!」

「助かった!」


 まだ仕掛けがあるかもしれない。しかし今度は痛いのを我慢してでも殴ることを決めた。 


「真っ正面から来るか」

「サイス・ワンド!」


 刃と柄のサイズを調整できる鎌を持って走った。兵長の操る縄は僕を退けようと激しく荒ぶった。


 ベシン!


 縄が腕に当たった!かなり熱い!


「フロスト!」


 しかしサヤカが氷の魔法をやけどした部分に当ててくれたおかげで、とりあえず大丈夫だ。

 距離が近くなると、兵長は縄を縮めて手軽に振り回せる長さにまで短くした。


「フンッ!」


 振り上げた鎌は避けられて、さらに縄が巻き付く。しかしそのまま敵に押し込み、防御するために腕を使わせた。


「片足だけでよく動くな」

「あなた達はウォルフナイトを利用しているんだ!」

「彼は自らの意思で戦ってくれている!その力を正しく使おうとする良心を持っているんだ!」

「あなたはその良心を利用しているだけだ!」


 兵長の蹴り上げが下腿部のない欠損部分に命中した。バランスを失って倒れてしまったが、振り下ろされる縄を見てすぐに動き出していた。


「彼は魔獣によって家族と未来を失った!私だって皆だって!魔獣は殺さなければならない存在なんだ!」

「素人が首突っ込むなって言ってんの!」


 兵長の背後に回ったサヤカが魔法を放ち、背中に命中させた。姿勢が崩れたところで僕は杖を抜き、落ちていく首元を受け止めた。


「データブレイク・ワンド!」

「出力が落ちていく!?」


 機械を破壊できる杖で装備に異常を起こした。これで少しは倒しやすくなるはずだ。


「インフェルノ!」


 さらにサヤカが炎を撃ち込んだ。

 これで装着者に大ダメージを与えられた!動けない今がチャンスだ!ウォルフナイトの正体を暴く!


「させないぞ!」


 しかし兵長は腕を振り上げて縄を伸ばし、僕とサヤカの首に着火した縄を巻き付けた。なんとか逃れようとしたが、縄は力強く僕らを絞めつけた。


「インフェルノ!インフェルノ!インフェルノ!」


 サヤカが何度も炎をぶつけるが、上がった腕は下がらない。装備に補助機能が付いているのか、それとも火だるまにされても動けるような精神力があるのか…


 けれど僕達も負けられないんだ。


「やりなさい!」


 バギィン!


 光のマントを発生させていた装置に刃が刺さる。ウォルフナイトの直上からブレードを握るジンが降って来ていた。


 ジュゥゥゥン………


 すると光が消滅を始めた。ウォルフナイトは既に人間の姿に戻っているはずだ!正体さえ分かれば、撤退しても問題ない!

 それと同時にスターフラッシュ・ワンドの効果時間が切れたことで、夜の暗さが戻ってきた。


「ジン!ちゃんと顔見てよ!」


 僕とサヤカで兵長を取り押さえた。一緒に焼かれることになるけど、正体を掴めたら勝ったも同然だ!


「やめろ!放せ!」

「動くなよ!僕たちだって熱いんだから!」

「暗くて見えないな…」


 ガッ!


 地面に着地する瞬間、ジンが攻撃を受けた。


「ウォルフナイトに戻ってる!?」


 ダメージを受けて人間に戻っていたはずのウォルフナイトが、立ち上がってジンの胸を切り裂いていた。


「後は任せる!」


 ジンは持っていた刃で、僕達の首に巻き付いた縄を切断。胸の傷口を蹴られて地面に倒れた。


 戦いが振り出しに…それよりも不利な状況へ転がった。


「ガルル…」


 ウォルフナイトは僕達を狙っている。後ろにいる兵長は気にも留めていない様子だ。

 これはヤバイかもしれない…身体を焼いたせいで体力はない。魔法の杖は使えて残り1本だ…


「…えっ」


 なんだ…魔獣の魔力をもう一つ感じる。すぐ近くからだ!


「勝負が決まりそうなところに悪かったね」


 暗闇に月の光が差した。そして手と足が生えた雪だるまのような魔獣が歩いて来ていた。いや違う、こいつは魔獣人か!


「仲間なの…?」

「俺はアン・ドロシエルの仲間だよ。その子は俺の都合で完全回復させてもらった」


 こいつ、アン・ドロシエルの仲間って言った!それに完全回復だって!?まさかそれがこいつのユニークスキルなのか!


「ナイン!大丈夫か!?」

「こっちは全員倒してきたわよ!」


 ツカサ達が駆けつけても、今がピンチだという事に変わりはない。

 サヤカは重傷のジンを魔法で引き寄せた。どうする…ここは逃げるべきか?


「…お前は…一体…」

「あの魔獣人は君達の手に余るようだね。良かったら俺に譲ってくれないか?」


 魔獣人は倒れた兵長に近寄ると、手刀を振り下ろす。


「ガルッ!」


 それをウォルフナイトが受け止めた。単に狙いを変えただけかもしれないか、結果的にあいつが兵長を助けた。


「ガウッ!バウバウ!」

「そう吠えるなよ」


 ウォルフナイトの素早い攻撃が繰り出される。魔獣人は鈍そうな見た目の割によく動き、爪を避けていた。


「プラント・ワンド!」


 僕が振った杖の力で、周囲の植物が突然変異からの急成長を起こし、雪だるまの形をした魔獣人の手足に絡み付いた。


 逃げることに使うはずだった残り魔力で僕は敵であるはずのウォルフナイトを援護してしまった!敵の敵は味方って言うし、みんな許してくれ!


「絶対倒せよ!」

「グルオオオオ!」


 ザクザクザクザクザクザク!


 雄叫びの直後にウォルフナイトはひたすら腕を振り、獲物の身体を削ぎ落としていった。


「あらまあ」


 しかし身体はすぐに回復してしまった。ウォルフナイトを治した時のように、ユニークスキルで回復したんだ。


 ザザザザザザザザザザザザ!


 ウォルフナイトの攻撃がさらに加速していく!あんな速さで動けるなんて…あれなら再生も追い付かないんじゃないか!?


「アオオオオ!」


 ザァァァァ!ガキィン!


 微かな希望は呆気なく打ち砕かれた。ウォルフナイトの爪が折れてしまったのだ。


「俺の中にいる魔獣は物を硬くさせられるんだ。お前の魔獣はどうなんだ?」


 身体を硬化させて爪を折ったのか。


 ドガァン!


 さらに硬くなったその腕で、ウォルフナイトを強打して前へ飛ばしてしまった!

 魔獣の硬化能力と完全回復のユニークスキル!なんて防御力の高い魔獣人!


「ん…どうしてお前が前に立つんだ?」

「あの魔獣人は暴走してるだけで人の心を残してる…と勝手に思っている。力を貰ってはしゃいでるお前なんかにやらせはしない」


 雪だるまの前に立ち塞がった僕は、さっきまで倒そうとしていた敵を守ろうとした。

 こんなことをするなんて僕は馬鹿なのだろうか。いや、お兄ちゃん達だってきっとそうするさ。だからこれでいい!


「それじゃあまずはお前からだ」


 硬化した腕を後ろに引いた。

 この魔獣人のパンチを僕は両手で受け止められるか!?


 怯えるあまり、敵の前だというのに目を閉じてしまった。


「ミラクル・ワンド!」


 硬い拳は僕の顔に触れる直前で止まっていた。

 それに今の声はまさか…!


「これは…透明な壁?バリアってやつか」

「ミラクル・ワンドが俺を呼んでくれた。ナインがピンチだってな」

「光太!来てくれたんだね!」

「客の多い時に抜けたから絶対クビだぜコンチクショー!…おい、片足の義脚はどうした」


 ミラクル・ワンドを握り締める光太が、僕の右足に触れた。


「お前がやったのか…」

「ん?何のことかな?」


 僕のウエストバッグは光太へ移った。彼はバッグを巻くと、杖を別の物に持ち変えた。


「許さないぞ」

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