第84話 「ここで倒す!」
以前戦った光太の元カノ、雨夕天音は魔獣の力を行使できる姿、魔獣人に変身が出来た。
アン・ドロシエルの率いる七天星士が全員魔獣人なら、今の僕達では勝てない。
そして時折その姿を見せては暴れる獣人ウォルフナイトもきっと魔獣人に当てはまる。
その正体が七天星士の一人かどうかは定かではないが、月で発生した事故で唯一生き残った少年なのは確かだ。しかしサヤカ達がどれだけ調べても、その少年に関する情報は何一つ得られなかった。きっと隠蔽されているんだ。
けれど手掛かりはまだある。あいつを倒そうとした時に現れた謎の武装集団だ。誰か一人でも捕まえられたら…
「ナイン」
問題はそれだけじゃない。僕は未だに超人モードをコントロール出来ていない。最初の戦い以降、一度もあの姿に変身できないんだ。
パワーは絶大だが、振り回されるような戦い方では勝てない。だから力のコントロールを特訓したいのに、変身できないんじゃ話にならない。一度倒した天音もまた立ちはだかるはずだ。それまでに強くならないといけないのに…
「ナイ~ン」
アン・ドロシエルを倒す。それが僕達の絶対目標。そこまでにどれだけの困難が予想できるか…
「…お前黙ってるとムチャクチャ美人だな」
「うわあ顔面ちけえよブタ!このゲルググがよ!」
「うるせえよ!?耳元でデカイ声出すな!」
光太が隣にいた…思考と杖の開発に夢中で気付かなかった。
「どうしたの?」
「俺バイト行ってくるから」
「もうそんな時間か…いってらっしゃい」
光太が最近バイトを始めた。学校から帰って来てしばらくすると、すぐにいなくなってしまう。そして帰って来るのは夜の9時過ぎ頃なんだ。
正直言って寂しい。夜ご飯は一人で食べることが多くなった。テレビ番組も一人で観るとつまらない。
「はぁ…」
食事を終えると、光太がボンザレヌから持って帰って来たジャヌケの原石を使った魔法の杖の開発に戻る。
原石のパワーは強すぎる。きっと何度か使用すれば壊れてしまうだろう。使いどころは考えなければ。
「光太ジュース汲んで…いないんだった」
良くないな。誰かがいるのが当然って思うようになってるの。仮にもパロルートの隊員なのに。
そうしてキッチンに向かい、ラックで乾かしているコップを取ろうとした時だった。
「…この魔力は!?」
強い魔力を感じた。それもこの感じはウォルフナイトだ。
「また暴れ出したのか!」
下の部屋で暇してた四人を呼んで、僕達は出動した。
「ウォルフナイトと戦うのってあれ以来だよね」
ジンの言う通りだ。だけどこれまで色んな敵と戦って、多少は成長したはずだ。前も勝てたし、きっと今度も大丈夫。
「あの武装した集団も来るはずよ。どうするのナイン?」
「ウォルフナイトは僕に任せて欲しい。皆はあいつの仲間を止めてくれ」
「超人モードを使うつもり?大丈夫なの?」
「うん」
本当は使える自信すらない。しかしあれで戦わないと、数の少ない僕達じゃきっと勝てない。
やるんだ…今度こそあいつを倒す!
「ガルォォォォォ!アォォォォ!」
「いたぞ!一丁前に遠吠えなんてしてやがる!」
ウォルフナイトがいたのは今はもう使われていない工場の中だった。
「超人モード!………ダメか!」
「ガオッ!」
なれなかった!こうなったら魔法の杖で戦うしかない!
「ナイン!変身できてないよ!」
「しょうがない!皆は周囲に警戒!」
ダッダッダッダ!
ウォルフナイトは大きな足音と共に僕の方に走って来た。そして両腕から生える爪を武器にして、攻撃を繰り出した。
こいつ、前より動きが速くなっている!
「スパイク・ワンド!」
「ガルッ!?」
魔法の力で床と天井から大きく鋭いトゲが発生。しかしウォルフナイトは床を強く蹴って、僕の狙った位置から逃げ出した。
「ガウッ!」
ウォルフナイトはトゲを避けてこちらへ接近し、僕の右足に爪を貫通させる。さらに左足を狙って爪を振ってきたが、杖でなんとか防御した。
「スパーク・ワンド!」
ビリビリビリビリ!
接触している僕達は電撃に襲われた。だけどこうでもしなきゃ、攻撃が当たる気がしなかった。
「キュウウン!?」
ウォルフナイトは爪が突き刺さった僕の右足ごと離れて、フラフラと後ろに下がった。
「義脚返せ!」
「オーン!」
爪の抜けた足が地面に落ちた。それからウォルフナイトは匂いを嗅いだ後、何度も踏んで壊してしまった。
「あー!スパーク・ワンド!」
今度は遠くにいる敵を狙って電撃を放った。
攻撃を避けたウォルフナイトは、暗い工場の中を跳び回り撹乱してきた。
僕は片足を失い、背後から襲われたら反応が出来ない。この状況を切り抜けるには…あの杖だ!
ダッ!
背後から力強い音がして、咄嗟に杖を背中に回す。そしてガシンッ!という爪と杖の衝突音がして防御に成功した。
「ガウゥッ!?」
「ストップ・ワンドだ。これでお前は動けない…」
対象の動きを停止させられる魔法の杖を、接触と同時に発動した。しかしこいつを止めていられるのはせいぜい10秒間だけだ。
「ここで倒す!」
「させるか!」
壁を破壊して、例の兵隊が突入して来た。僕は振り向く際に背後に回るツバキを見て、ウォルフナイトに集中する事を決めた。
「ウオオオオオ!」
ダンッ!ダダダダダダダタ!
動けないウォルフナイトの胴にパンチを打った。1発で終わりじゃない。動き出してしまうその瞬間まで何度も叩き込む!
「あの盾持ちの女が邪魔で救援できない!」
「他の者を突入させろ!」
バキュウン!
後ろから銃弾の跳ね返る音がする。ツバキが僕を守ってくれているんだ。
「ナイン、頑張りなよ」
近寄って来たサヤカが僕の背中にタッチすると、打撃の威力が増して連打が加速していく。
対象にプラスの効果を発生させる、バフという分類の魔法を掛けてくれた。
「ウゥ…」
そろそろ動き出す!
「これで!どうだ!」
最後の一撃を顔面に打った瞬間、ウォルフナイトは壁を壊して工事の外へ飛んでいった。
「ウォルフナイトがやられた!」
「誰でも良い!あいつを連れて要塞へ飛べ!」
「させるかよ!」
助けに向かおうとする兵士たち。そこにツカサの投げた無数のロッドが地面に突き刺さって柵が出来た。
「行くよナイン!」
ツバキとツカサに兵隊を任せて、サヤカと共にウォルフナイトの元へ向かった。
工場の外には下半身が人間に戻りつつあるウォルフナイトが倒れていた。
だがしかし、その前にはこれまでの兵士とは全く雰囲気の違う、エネルギーで作られたマントを装備したやつが立っていた。
「…人間に戻った彼をどうするつもりだ」
「そいつは魔獣を体内に宿してる、魔獣人ってやつなんだろ。だからその中にいる魔獣を摘出して倒す」
兵士はマントの発生する装置をウォルフナイトのそばへ落とした。するとエネルギーのマントが広がって、ウォルフナイトの全身を隠してしまった。
「その人間に危害を加えるつもりはない。むしろ魔獣を摘出しないと、どんな影響が出るか想像付かない」
「何年も前に魔獣を宿したは苦しみながらも、魔獣と戦うために強くなろうと決意した。そんな彼に今さら何をしようと言うんだ」
「…あなた達が悪い人ではないのは分かった。けどその人は力に飲み込まれている!そして周りを傷付けているじゃないか!」
「黙れ…そいつらはただ傷付いただけだ。しかし私は違う!魔獣のせいで大切な物を失った!彼は両親を失い、世間からも罵られ、私に殺すように願った!」
ここで僕は光太から聞いた話を照らし合わせる。
ウォルフナイトの正体が月の事故で唯一生き延びた少年だということ。そしてその少年の両親は事故を起こしたとして袋叩き。子どもすら憎しみの的になっていたこと。
ウォルフナイトはその少年で間違いない。そう確信した。
「私達は魔獣と戦う。そのためになら…他者が傷付こうが心が痛むことはない」
話が通じる相手じゃないみたいだ。きっと工場に集まった兵隊とは違う。こいつは強いぞ…
「覚悟決めてよサヤカ…」
「ナインがいるし、勝てると思ってるけど」
ウォルフナイトの正体を暴き、なんとかして魔獣を摘出して倒す。
そのためにもまずはこいつを倒さないと!




