第83話 「ありがとう」
日本の空港に戻った俺は、行きと同じ様にフォルンの運転で家まで送ってもらっていた。
「別に電車で帰れたのに…」
「一応、最後まで面倒を見るのが仕事ですから」
この車に乗っていると抱き付かれた事を思い出して気まずい。早く着いてくれないだろうか。
「雇い主のナナミが捕まったけどこれからどうするんだ?」
「ニーナ達に誘われて、孤児院で働くことになりました。子どもを誘拐したことについては、王が裏で手を回してくださり、特に何も言われることはなく…」
「………凄い国だなぁ」
あの一件で俺に注目がされなかったのも、情報がコントロールされていたからだ。国王はよくありがちなマスコットの王様ではなく、本当に権力を握っているようだ。
倫理観がある人で良かった…
観光する時間もなく、お土産はジャヌケの原石だけになった。魔法石とは言ったけど、これで間違ってたら恥ずかしいな。
車内は例の香水の匂いで充満していた。
「…フォルン。最初会った日に俺が望んだら母親になってくれるって言ったよな」
「言いましたね。元々のプランではあなたを誘惑して惚れさせて、宝物を渡してもらうつもりでした」
「俺がなれって言ったらなってくれるのか」
「私には孤児院があります。光太様には帰る場所があるのでしょう?」
「孤児院に来ないかって言ってたよな」
「あなたが住んでるアパートには帰りを待ってる人がいるんですよね。だったら、来る必要はありませんよ」
そうだ、帰ればナインがいる。何を考えて話してるんだろう。自分でもよく分からなかった。
アパートが近付いて来た。一週間も経ってないのに、久しぶりにナインに会う気がする。
「…光太様、時間があれば遊びに来てくださいね」
「高校生に海外旅行しろってか?いくらあっても足らねえよ。暇になったらそっちが遊びに来い」
「私には孤児院の子ども達がいるので…」
フォルンは車を停めた。しかし彼女に抱かれた時の温もりを忘れられなかった俺は、名残惜しさに車から降りるのを躊躇した。
しかしフォルンは急かすことなく、ハンドルを握ったまま正面を向いていた。
最初に会った時は物凄く敵視していたのに、いざ寂しくなるとこうも甘えたくなってしまうとは、俺はなんて単純な人間なんだろう。
「…送ってくれてありがとう」
しばらく待ったが何も起こらず、諦めがついた俺はドアノブを掴んだ。
「またいつか会いましょう」
「あぁ、元気でな」
俺を降ろしたフォルンはすぐに走り出して行った。
アパートに帰って来た。孤児院ほどではないがここもボロボロだな。
急に出て急に帰って来た俺を、ナインは笑顔で出迎えてくれた。
「光太おかえり~!…変な匂いがする!臭い!」
「な、美女がつけてた香水の香りだぞ!」
「あれ?強い魔力を感じる。何か持ってる?」
俺はお土産の魔法石を渡した。それを見たナインは驚きながら喜んでくれた。
「それで新しい杖とか作れるだろ?」
「SSSランク級の魔法石と同じくらい強い魔力だ。ガルバストーン、いやそれ以上の強さ…そんな物がどうしてこの世界で発掘されたんだろう…?」
「どうだ、嬉しいか?」
「うん。光太が無事に帰って来てくれて僕は嬉しいよ」
「急に出てって悪かった。両親とは完全に決別した。もう大丈夫だ」
ナインに心配かけた事を反省しないと。それに彼女を連れて行っていれば、もっと楽に解決できたんだ。
「ナイン、いつもありがとう」
「え、どうしたの急に…なんで泣いてるの!?」
「色々あってさ」
「入りなよ、夕飯出来てるよ」
こうして俺の短い旅は終わった。