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第79話 「え…そうっすか」

「ふぁあ~………もう朝か…あれ?夜だ」


 俺とフォルンは日本の空港からプライベートジェットで飛び立ち、今は雲の上にいた。

 それより起きた時の感覚…ナインのやつ、リセットアンドネクスト・ワンドを使ったな?

 日本で何かあったのかな…心配だ。


「光太様、まもなくボンザレヌ空港へ着陸します。シートベルトをお締めください」


 向かい合う席にはフォルンがいる。こいつ、昨日の夜にこの飛行機に搭乗してから一度も動いてないな。

 あれ?時差があってボンザレヌは今が夜で…昨日の夜で合ってるのか?


 夜の日本を飛び立ったプライベートジェットは、夜のボンザレヌへ着陸した。

 ボンザレヌの人口はおよそ70万人。俺の父親、母親は離婚する前からこの国の発展に力を貸していたそうだ。

 その後はまた車に乗せられて、都市の中に建つハザニア城にやって来た。


「都会のど真ん中に城がある…」

「こちらです」


 城の中には兵士…ではなく警備員の方々が立っており、俺達に向かって敬礼をしていた。

 そしてフォルンに案内された広い部屋では既に多くの人が椅子に座って、ステージの方を向いていた。

 服装に気品があって、いかにも金持ちって感じのやつらばっかりだ。


「…俺、こんな格好で良いのかよ?めっちゃ視られてるぞ」

「時間ギリギリですから。品性のないやつだとレッテルを貼られたでしょうね」


 どうして呼ばれたのか。集まっている人間が誰なのかは一切分からない。

 しかし椅子に座る時、父親と母親がお互い離れた場所で座っているのを確かに見た。その隣には新しいパートナーらしき人物もいる。


 しばらくするとステージ横の扉から若い男性が部屋に入りお辞儀をした。そしてステージへ上がり、マイクを取った。


「お集まりの皆さん、こんばんは。私は17代目国王ショトラ・ルベストーン。これより早速ですが、16代目国王の宝物譲渡の儀を始めます」

「おいフォルン、何が始まるんだ」

「この城には国王が御存命の時に入手した宝物を保管する宝物庫がございます。国王が変わる際、宝物庫は必ず空である必要があるのです。この儀は16代目の宝物をどうするかを決める儀式でございます」


 つまり遺産相続か。


「くだらない。観光して帰る」

「なりません。16代目国王が指定した人物が全員いなければ、儀は中止となります。あなたは御両親の息子としてここに招待されているのです」


 そんなことのために俺を呼んだのか。来ただけ時間の無駄だったな。


「場合によってはあなたにも宝物が与えられる可能性があるということです」

「発展途上国の宝なんて大したことないだろ」


 17代目国王は手紙を読み始めた。先代がこの儀式のために書いた大切な物らしい。


「この国は日本からやって来た二人の人物により、急激な発展を遂げた。まだ先進国とは呼べないが、それでも人々の暮らしは安定したと思う。その二人の名前は、黒金龍之介と黒金七海だ。私の宝物である大金とジャヌケの原石は二人で分けてもらうことを決めた」


 パチパチパチパチ…


 拍手が起こった。遺産の相続っていうと人が殺されたりとか物騒なイメージがある。それも大金があると明言されているのに拍手とは。

 いや、よく見たら周りのやつらがつまらなそうな顔をしている。


「チッ」


 それにしてもあいつらに渡るのだけは気に入らないな。

 社会貢献みたいに偉い事をしていれば子育てを放り出して良いってことなのか。


「…決めたが取り消した。黒金七海。そなたは不貞を働き離婚。さらに権力のために我が国の政治家と結婚した。それで不貞を揉み消すとは中々頭の回る女狐のようだな」

「え…」

「七海さんが不貞…」

「なんの話だよ…」


 あいつ、権力者にすり寄って浮気を隠していたのか。国王はそれを見抜いていたんだ。

 じゃあ宝物は父親が一人占めか?


「黒金龍之介。そなたは血が繋がっていないという理由で長男である黒金光太の育児を放棄した」

「全くの誤解です。光太はもう16歳です。私が行っているのは厳しい教育方針です。それに彼は自ら一人暮らしを望みました」


 席が近ければ殴りに行っていた。それぐらい今の言葉は不快だった。


「再婚した相手の連れ子にも同じことをするつもりか?…学費だけ出してそれ以外はバイトで稼がせてる。知ってるんだぞ」


 17代目国王は睨んでいる。今のはあの人の言葉だ。


「…本文に戻ります………よって宝物庫の宝物は、この場に集めた者の中で最も生活が苦しいと考えられる黒金光太の物とする。これが先代からの御言葉です。あの方はとても良い人でした。私のような貧民たちにも手を差し伸べて──」


 国王が先代について語り始めるがそれどころじゃない。


「おめでとうございます。宝物庫の中身はあなたの物みたいですね」

「え…そうっすか」


 周りの視線が怖かった。遅れてやって来ただけの一般人に宝物が行き渡るのが許せないんだろうな。帰りは背中に気を付けよう。

 国王の話が終わると次々と人が帰り始めていく。宝物が渡されることになった俺は、国王に宝物庫まで案内されることになった。


「俺なんかが貰っても良いんですかね…みんな気に入らないなそうだったし」

「これはこの国の初代国王が始めたことらしい。15代目までは綺麗な形をした石や自ら描いた絵画など、心の宝が宝物庫に収められた。しかし龍之介さんとナナミさんによって発展する国を見た先代は宝物庫に文字通り宝と呼べる大金とジャヌケの原石を入れてしまった」


 心の宝…それを何の血の繋がりもない、未来をを築く次の世代に託す。そんな感じで、なんかロマンチックな話をされた。


「…王様は何を入れるつもりなんですか?」

「さあ?これから色んな事を経験して選んでいくよ。絵画に惚れるかもしれないし、幸運を引き寄せた愛猫の骨を入れるかもしれない…まあ、渡される誰かが困らない物にはするよ」


 宝物庫の前に着いた。そして頑丈な扉が10分ほど掛けて開いた。広い部屋の中には銀色のケースが2つ。これが俺の物になるらしい。


「確か日本円に換算すると…1兆円かな」

「そ、そんなに!?」

「税金とかで搾取されて、残るのはほんの僅かだろうけど」


 すっげー!…ナイン達に旨いもの食べさせてやりたいな。焼き肉とか、高級寿司とか…贅沢すぎるか?


 そしてもう一つのケースには、ジャヌケという原石が入っていた。

 触れてみたが、何か不思議な力を感じる…


「先代が炭鉱の視察に行った時、そこで働いていた友人から貰った物だそうだ」

「へ~…」


 この原石から感じるのは…魔法のパワー!

 エウガスの大会で見た優勝賞品のガルバストーンと同じでこれは魔法石だ!


 どうしてこの世界で魔法石が発掘できたのか。理由は定かじゃないけど、これでナインは新しい杖を作れるかもしれない!


「…その石、気に入ったか?」

「えぇ、まあ…綺麗ですしね」


 その後、何もなくなった宝物庫の扉が閉じた。

 ショトラ王はこれから国王として多くの経験を積み重ねて、この宝物庫に心の宝を収めていくのだろう。


 そんなわけで大金を抱えてウキウキになって城を出ようと正門まで向かった。しかし何やら騒がしくなっていた。


「私の子どもがぁ~!」

「さっきの小僧はまだ来ないのか?」

「警察に連絡を──」

「するな!したら子ども達を殺すって書いてあるだろ!」


 異常事態だ。国王は招待客の元へ状況を聞きに行った。そして俺の元にフォルンが駆け寄って来た。


「何があったんだ?」

「招待客の御子息が何者かに誘拐されました」


 「なんだって?!」って叫ぼうとすると口を押さえられた。布製の手袋から甘い香りがする。


「そして誘拐犯からは、国王の宝物を受け取った少年は一人でビスト旧市街地にそれを渡しに来るようにと…」

「だったら行かないと…!」

「お待ちください…犯人は持って来るように言っただけで、子どもを返すとまでは言っていません」

「じゃあどうする」

「私が行きます」


 するとフォルンはその場で私服に着替えた。俺と身長は大して変わらず、胸は締め付けてあるので少年と呼べる姿だ。


「さあ、そのケースを私に──」

「ダメだ。俺が行く」

「こういう危険なことには慣れていますから。早く──」

「俺だって慣れてる。それにこの宝物は俺の物だ」


 狙いはジャヌケの原石に違いない。もしかして誘拐犯はアン・ドロシエルか?ガルバストーンを入手できず、これを狙ったという可能性は充分にありえる。それしかない!


「光太。それを持ってどこへ行くつもりだ」


 最悪だ…


 俺に気付いた黒金龍之介(りゅうのすけ)がやって来た。戸籍上は父親…だけど俺はこいつを父親だと認めてないからな!


「メイドさんから話は聞いた。これを旧市街へ持っていく」

「だったら俺が送ろう」

「一人で来いって犯人は言ってたんだ。まさか俺から大金を奪い取るつもりか?」

「そんなことするわけがないじゃないか!俺の子ども達だって連れ去られたんだぞ!」

「どうかな…子どもを平気で捨てた親だ。連れ子より金を選ぶ可能性もあるんじゃないか?」

「誰が学費を払ってやってるか忘れたか!」

「払ってないと面子が保てないもんな。一人暮らしをする息子を支える、立派なお父さん」


 ガッ!


 龍之介は持っていた鞄で俺を殴った。しかし全然痛くなかった。


「けっ虐待かよ」

「いや、知人への暴力だ。お前は息子じゃないからな」

「言ってくれるな…!」


 こいつの相手をしている場合じゃない。早く旧市街へ行かないと子ども達が危ない。


「待て!逃げるのか!」

「先に逃げたのはそっちだろ!自分の血が流れてないだけで子どもを捨てた男が再婚相手の連れ子を愛せるのかよ!」


 このままケースを持って逃げることも出来る。人質になってるのがあいつらの命だったら、俺は迷いなく、いや一石二鳥と考えて逃げていただろう。

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