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第76話 「めげないで頑張ろうぜ」

 天音との戦いの最中、ナインは炎の力を操る超人モードを発動した。それから彼女と共にその力をコントロール出来るように特訓を始めたのだが…


 特訓を始めて3日目。俺達の身体は既に限界を迎えていた。


「薪届いたわよ」

「通販便利だね~」


 グツグツ…


 俺とナインはアパートの庭で、ドラム缶を使った五右衛門風呂に入れられていた。

 身体が動かせずこの熱湯から逃げ出せない。サヤカが握っているストップ・ワンドによって俺とナインは固められているのだ。


「二人とも顔が真っ赤。さくらんぼみたい」


 こんな特訓に意味があるのだろうか…大体なんで俺まで茹でられなきゃいけないんだ。


「お~面白そうなことやってるじゃん」


 ノートが102号室の窓から顔を見せた。髪はボサボサで、どうやら起きたばかりみたいだ。

 アン・ドロシエルの野望を協力して阻止するために、彼女は昨日からここの住人になった。ちなみに同居人のバリュフは魔獣出現に備えてパトロールに出るところをさっき見た。


 …ってナインが白目剥いてるんだけど!誰か気付かないのか!?


「そいつの~超人モードだっけ?実際に戦った方が覚えるの早いんじゃないの?」

「何事も基礎から。ナインはツカサの次にバカだから、こういうところを疎かにしちゃいけないんだ」

「でもこいつが退学する前に受けた最後の試験じゃ俺の方が総合点高かったからな」


 ブクブクブクブク…


 ナインが沈んでるぞ。おい!このままだと茹でサキュバスになる!




「いや~死ぬかと思ったよ」

「どうナイン。超人モードの感覚とか、何か掴めた?」

「うん。この3日間変なことやらされたけど、朝から五右衛門風呂は本当に意味分かんなかったね」


 3日も頑張ったのに何も得られてねえ!


「あの…なんで俺もやらされてるの?」

「ナインと心が通わせられるように同じ苦痛を受けてもらうため。実際にナインと同じタイミングに焼身して、超人モードが発動するキッカケになったでしょ」


 それはそうなんだけど…


「心を通わせられるように楽しいことがしたいな~」

「そ、そうそう!旨いもん食いてえな!な!」


 ナインは笑顔だ。しかしシワが増えたり目元にクマができている。今朝なんて夢でうなされてる時に温度を上げる前の冷水に投げ入れられたからな…可哀想だ。


「…そう。それじゃあ今日の特訓はなしにするね」

「ヤッター!ゲーム三昧~!」

「朝早かったしもう一回寝れるぞ~」

「その代わりアパートから出てってね」


 サヤカの言っている意味がよく分からなかった。


「夜までは一緒に行動すること。心を一つに出来るようにしたいんでしょ?なら一緒に過ごさないと」

「えぇ~?」

「嫌なら特訓続けてもいいよ」

「よっしゃあナイン。支度支度ー!」

「わーい!お出掛けお出掛け~!」


 理屈は分からないが特訓は勘弁だ。俺達は慌てて支度をして、アパートから逃走した。


「これからどうする?」

「お腹空いた~暑い~甘い物食べた~い」


 暑い時に食べる甘い物って言ったら…アイスだな。


 ひとまず、近くのコンビニでアイスを買ってから、これからどうするかを考えた。


「夜までって言ってたな。ネカフェで時間潰すか?」

「せっかく出掛けたのに質素過ぎるでしょ…遠くに行こうよ!」


 そんな彼女の提案で俺達は目的地も決めないまま、下りの電車に乗った。




 そしてやって来た場所が市外の海岸だった。


「海~!…きったねー!?」


 砂浜には俺達以外誰もいない。夏場だったら賑やかだったかもしれない。


「ナインって泳げるのか?」

「うん。光太を背負いながらでも泳げるよ」

「すげーなそれ。イルカじゃん」


 遠くで魚が跳ねた。しばらくするとそこを船が通った。


「心を通わす…か」

「どうしたの?」

「一緒に過ごせって言われたけど、それっていつも通りだよな」

「確かにそうだね。僕達ってこれ以上仲良くなるのかな…」


 ナインとの関係性は親友と呼べる辺りだ。確かにそれ以上はないと俺も思う。


「…光太、好きだよ」


 突然の告白だった。しかし俺は慌てずに返事をした。


「俺もだ、ナイン」




「ぶふっ!ないね!」

「だな!」


 恋愛の真似事をしてみたが、やっぱり違う気がする。

 俺にとってのナインはもっと別の、それ以上の何かだ。


「姉弟だね」

「逆だな。兄妹だろ」

「俺が家主なんだ。つまり俺が上!分かるか?」

「君の人生変えたの僕なんじゃなかったっけ?お世話してるのも僕だし、どっちが上かってハッキリしてると思うんだけど?」


 年齢も同じ16歳だし、会話のレベル的に双子だなこりゃ。


「ナイン…一緒にいてくれてありがとう。お前と会ってから毎日が楽しくなった」

「僕も君と出会って成長出来た。君がいたから僕は強くなれたんだ」


 ナインは拳を突き出した。お互いの拳を合わせて友情を誓ったりする感じのやつだ。


 カッ…


 拳を合わせた時の音は弱かった。ナインは波の音で聞こえなかったかもしれない。


「僕たち相棒って感じだね!」

「…あぁ」


 しかし俺達の間に結ばれた絆は強いものだと俺は信じている。


「光太」


 ナインは試してみろと言わんばかりに、ミラクル・ワンドを渡してきた。天音との戦い以降、超人モードに変身は出来ていない。


「行くぞナイン!超人モード!」

「おうっ!」


 奇跡を起こせ!そう願ってワンドを掲げたが、ナインの姿は変わらなかった。


「やっぱりそう簡単にはいかないよね。何が足りないのかな~?」

「今ならいけると思ったんだけどな~…まあ、めげないで頑張ろうぜ」

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