第75話 「ソードマジック!」
身体が熱い…底から炎の力が沸き上がるこの感覚!
光太と心を通わせて、遂に手に入れた超人モード!
「見ててよ光太…!」
殴ろうと意思を持った時、既に天音を殴っていた。
炎を推力に使うことで、僕はこれまで以上のパワーとスピードを手に入れたみたいだ!
「か、肩が外れそうだ…!」
強くなったのは良いけど反動が大きい。慣れるのに時間が必要だ。
「…!」
天音の腹に深くパンチが入っていた。声も出せない彼女の目からは涙が溢れている。
「オリャアアアアアア!?」
右足を振り上げようとすると、その場で身体が後ろに回転してしまった!
「ナイン!逆噴射!全身にバーニアが付いたイメージだ!」
足の前側と背中から炎を出して、ゆっくりと回転を止めた。パワーアップしたのは良いけど使うのが難しい。
蹴りで打ち上げた天音はずいぶんと高く上がっていた。しかし彼女も炎の力で宙に停滞している。能力の扱いに関しては相手が上だ。
「義脚が壊れてるぞ!」
「本当だ!なんてパワーなんだ…」
天音の身体が無数の何かが発射された。打ち上げられたと思ったらこっちへ向かって来ている。まるでミサイルのような…
「ナイン動け!当たるぞ!」
「う、うん!」
少し動こうとしただけで強い炎が噴射され、僕の身体は近くにあった山の斜面に激突した。
「うあああもうやだこの力!ムカつく!バカ!」
「おい!そっち行ってるぞ!」
怒ってる場合じゃない!僕は下へ炎を向けて、ロケット花火のように勢い良く空へ上がった。
天音が発射した炎のミサイルも僕を追って上がっている。こうなったら彼女を倒して追尾をやめさせるしかない。
ビジュン!
炎の力を一瞬だけ強くして、大きく浮き上がった。天音よりも高い位置に上がってしまった。
狙いを定めると再び炎を噴かして距離を詰める。一瞬にして敵の真正面だ。
ダァン!
僕は高速の拳を振るう。しかし天音はそれを受け止めた。
「二度も食らわないわ」
「食らええええええ!」
パワー全開!このままこいつを地面に叩きつける!
バビュヴヴヴン!
地面に向かうように炎を噴射。天音の逆噴射にも負けずに、彼女の身体を地上へ運んだ。
「そんな!?魔獣の力がパワー負けするなんて!」
「ウオオオオ!アラァ!!!」
地面が砕けて土が跳ねる。
天音も炎を噴射して抵抗していたのに、それもお構い無しの力強い叩きつけだ!
「すげーよナイン!」
「下がってて光太。こいつまだ動けるよ」
こいつがたとえアン・ドロシエルの仲間だとしても人間だ。ロイドの時みたいに摘出してあげられたら…
「もうやめてよ。君のその気持ちを利用して、アン・ドロシエルは悪いことをしようとしているんだ。光太との間に何があったのか知らないけど…力になれるなら僕も相談に乗るよ。だから──」
グサグサ
僕の背中に何かが勢いよく刺さる。身体を貫通し、正面から炎の刃が突き出ていた。
忘れていた。僕はさっきまで彼女の攻撃から逃げていたんだ。それにしてもこの姿、喰らった炎をエネルギーとして吸収できるのか。おかげで助かった。
「ナイン!?大丈夫か!」
「うん…」
「彼の名前を軽々しく呼ぶな…この忌々しい雌虫!」
こういう人と戦うのは初めてだ。話し合いを望んでも耳を傾けてすらくれない。悪い人じゃないはずなのに、邪悪という言葉が似合ってしまう人。
「僕を殺した後はどうするつもりだ」
「光太の大切な物を残らず壊す。学校、友達、そして家族…みーんなみんな、壊してあげるんだ…そしたら私のこと、憎くて忘れられないでしょ」
悪い人とは思いたくない。でもこの人は危険だ!
「ならば僕はお前を倒す!」
ブワン!
天音を空へと投げ飛ばした。ユニークスキルのせいで魔法は使えないけど、今の状態なら技を撃てる!
確実にトドメとなる一撃、ソードマジックが!
「ソードマジック!」
その時だけは意識せずとも、炎のコントロールが完璧だった。
天音を目指して一直線に飛び上がり、上昇し続ける彼女を追い越した。
この拳で文字通り、最大火力の一撃を放つ!
「烈火!焼熱拳!」
炎を操れる今の僕ですら熱いと感じる右拳。それを上がって来た天音の背中に思い切り叩き込む!
ボガアアア!
天音の炎すら飲み込んだ僕の火炎は、彼女の身体を突き抜けて一直線に地面へ到達した。
「どうだ!」
必殺技を喰らった天音の身体から魔獣の要素が消えていく。今の一撃で彼女の中にいた魔獣を倒せたみたいだ。
「チッ!こんなはずじゃなかったのに!」
「まだ動けるのか!?」
そんな!?あの一撃を喰らって動けるはずがない!
「魔獣の命を使って生き延びちゃった…ごめんアンさん!」
「逃がすか!」
さらに炎を放とうとしたが、突如空中に出現した謎の裂け目に天音は逃げ込んだ。そして裂け目はすぐになくなってしまった。
倒せなかったのは惜しい…けれど今は、あの強敵に勝てた事を喜ぼう。
僕達は戦いが終わってアパートへ戻った。サヤカは魔法で傷付いた皆の回復を続けている。もちろん、光太を助けてくれたバリュフとノートの回復もやってもらっている。
「…ふぅ…」
「サヤカ、休憩した方がいいよ。魔力がなくなっちゃうよ」
「次がいつになるか分からない。急いで戦えるようにしないと…」
光太から話は聞いた。アン・ドロシエルの野望と彼女に仕える7人の駒。きっと残りの5人も強力なユニークスキルと魔獣人という形態があるに違いない。
「けどあの炎上してるナイン強かったよな~」
光太の言い方に凄い語弊がある気がする…
「超人モード、使えるようになって良かったな」
「………うん。光太のおかげだよ。あの時、僕一人じゃ諦めてたかもしれない…一緒にいてくれたからあの奇跡が起こったんだ」
「俺も諦めてた。一緒に戦ったから勝てたんだ」
本当、君には助けられてばかりだ…ありがとう。
「そうだ。脚は大丈夫なの?」
「あぁ、戦ってる時にも違和感はあったけど…お前が強くなってから興奮し過ぎて忘れてたわ。お前こそ、義脚どうすんだよ」
「大丈夫。こういう時に備えて予備は沢山造ってあるんだ~」
痛み止めの錠剤が入った瓶を光太に持たせることにした。しかし天音との過去という心理的な要因で痛むのなら、きっとまで解決できていないはずだ。
光太と一緒に戦って手に入れた奇跡の力、超人モード。僕はこれを完璧に扱えるようにしないと…