第74話 「ぶっ飛ばせ!」
空に炎の十字架が発生し、ナインはそこに貼り付けにされる。背中を焼かれながら、手足には炎の杭が打ち付けられた。
「やめろ!俺が狙いなんだろ!」
「だからこいつを殺すんだよ…ちゃんと見てあげなよ。この苦しそうな顔、焦げていく肌…光太が強かったら助けてあげられるのにね」
足元に散らばっていた杖の中から、アイス・ワンドを拾った。炎の威力を少しでも弱めようと杖を振ったが、何も起こらなかった。
「アンチウィザード、忘れちゃった?」
「ハッ!…ナイン!しっかりしろ!」
「熱い…」
「ナイン!」
ナインに変化は起こらない。ファーストスペルも無効化されている。
それにあんな焼かれた状態じゃ心を一つにする余裕なんてない!
ザアアアアア…
雨が降り始めた。俺達の頭上には不自然に雲が集中している。どうやらアンチウィザードの範囲外にいるサヤカが雨雲を集めて来たみたいだ。
しかし雨粒は天音の身体から発生する高熱で蒸発していた。
「…雨の日のこと覚えてる?私の傘、盗まれちゃった時のこと」
覚えている。傘がなくなったと泣きそうになっていた天音を、傘に入れて家まで送っていったんだ。
けどそれがどうしたって言うんだ!
「…ナインを燃やさないでくれ!ちゃんと謝るよ!金が欲しいなら死ぬ気で稼ぐ!ストレス発散に使ってくれていい!お前の言う通りに生きるから、もう何もしないでくれ!」
「もう遅いよ」
十字架の炎が強まった。ナインは悲鳴を出すことなく目を閉じている。
「…そこで見ててよ。自分のせいで大切な人を焼き殺す、君のことが大好きな私を!憎くて大嫌いで殺したくてたまらない私を!ねえ!」
「ナイン!…ナイイイン!」
俺はこのままナインが焼かれるのを見ていることしかできないのか…
熱で雨粒は全て蒸発している。しかし俺の顔は悔し涙で濡れていた。
「くっ…止めろよおおおおお!」
バカだな…天音に叫んだって何も伝わらないって昔から知ってたはずなのに。ごめんなナイン。杖を一つダメにするぞ。
アイス・ワンドも魔法が使えなければただの杖だ。それを宙に向かって放り投げると、火の粉をもらって発火した。
「ナイン!お前が燃えるなら俺だって燃えてやる!」
そして俺は燃える杖を握り締めた。熱くて苦しくても決して放さずに。そして身体に炎が移った。
「うぅ…」
「なにしてるの光太!やめなさい!」
あいつには言葉が伝わらない。聞く気がないんだ。だから俺も天音の制止を聞き入れなかった。
「くっ!…あああああ!」
ボワアアアアアア!
バチバチバチバチ…
「光太…」
ナインと同じように身を焼いた。するとナインの声が鮮明に聞こえた。
身体を焼いた俺が生きているのかは分からない。それでも確かに、ナインが名前を呼んだ。
「ナイン…」
「なんで君まで燃えてるんだよ…」
「お前が焼かれてたからな…」
俺達にはもう力がない。ナインは魔力も切れて、アンチウィザードで俺のファーストスペルも無効化されている。
「物凄く熱いよ…こんなつらいの初めてだ」
「俺もだ…死ぬほど熱い」
天音は愛に対して情がなく熱だけと俺は思っている。だとするとこの炎は天音の愛だ。周りの物を全て傷付けようとする愛の業火。
俺の人生を滅茶苦茶にしたこいつに、ナインまで奪われるのか…
嫌だ…そんなの絶対に嫌だ!
「そうだ光太…こいつを倒せなかったらきっと、大勢の人が犠牲になる!諦めちゃダメだ!」
ここで諦めればナインが死ぬぞ!
まだ生きているんだ!まだ諦めるには早い!
「ウオオオオ!」
手を掲げた。そして魔法が無効化されるこの空間で奇跡が起こった。
「ミラクル・ワンド!」
奇跡を起こす魔法の杖、ミラクル・ワンドが現れたのである。
今までこの杖はナインを守るために力を発動した。このミラクル・ワンドとは、ナインのために力を発揮させる魔法の杖なんだ!
「ナイン!俺達はこの程度じゃないはずだ!」
自分で言ったけど何が愛の業火だ!あいつは自分のためなら何でもやる最低極まりない人間だ!女の姿をしてるだけの魔獣みたいなやつじゃないか!
「ナイン!お前は天音とは違う!いつも誰かのために戦ってきた!たかが熱いだけの怪物なんかより、正義の情熱を持ったお前の方が強いんだ!」
「うるさいなぁ…そろそろ殺そ。見てなよ光太!」
「そんな炎なんかよりも強く!熱く!」
愛だけの熱がなんだと言う。俺たちには友情という情熱が燃えている!
「光太…熱で頭がおかしくなったの?」
燃えろ…もっと燃えろ!
「燃えろおおおおお!ナイイイイイイイイイン!」
「こう…た」
次の瞬間、ミラクル・ワンドが眩い光を放った!
俺の叫びを聞き入れて、また想像も出来ないような奇跡を起こすつもりだ!
「ふん…つるはしがなんだって言うの…!?な、なに!?どうなってるの!?」
ナインを捕らえていた杭と十字架の炎が、ナインの額右側から生えている角に吸収されている。
「アンチウィザード!…吸収が止まらない!?魔法じゃなくてスキルなの!?」
何か分からないが今、目の前で奇跡が起こり始めている!
「ナイン!生きてるよな!」
「あちち…まだ熱いや」
生きてるぞ!ナインは生きてる!
それでもナインは燃えていた。しかし炎に焼かれているというよりは、ナインの身体から炎が出ているみたいだった。
炎を吸収してパワーアップしたのか?
「な、なんなのよそれ!?」
白かった髪がファイアーパターンの様に変化している。角は揺れて、ナインが炎そのものになっているみたいだ。
「それにしてもなんだよその姿!凄く強そうだぞ!」
「姿が変わったぐらいで調子に乗るな!殺してやるわ!」
炎の短刀を生成し、天音はナインの首を狙った。
しかし天音の振った短刀は首に到達する前に形が崩れ、ナインの炎に飲み込まれていった。
「なによ…あんたも魔獣人なの!?」
「違う。僕のこれは…超人モード!」
超人モード。それはナインのお兄さん達が変身する別の姿の名称である。
俺が会ったことのあるダイゴさんとは全く違う感じではあるが、確かにあれは超人と呼んでいい姿だ!
あれはナインが手に入れた超人モードなんだ!
「ぶっ飛ばせ!ナイン!」
「おう!」
ボオオオオオ!
ナインの角が戦意を表すかのように強く燃える!
俺達の情熱が新しい力を呼び覚ましたんだ!




