第72話 「あいつを倒したい!」
ノート達がやられて絶体絶命のその時、ナインとその仲間達が現れた。
相手は魔獣の力を持った人間、魔獣人に変身した天音だ。強そうな見た目をしているが、ナイン達は強いんだ。負けるはずがない。
「バッグから杖が取り出せないや。ツカサ、ロッドちょうだい」
「1本に付き500ナロ」
「どうも~」
ツカサのロッドを受け取ったナインはグルグルと振り回す。ただの棒なので魔法は使えないが、武器があるだけマシなようだ。
準備が整ったその時、突然天音が燃え始めた。
「あああああああああ!」
「おい!いきなり炎上したぞ!」
「凄い魔力だ…」
ツバキは大きなシールドを5つ並べた。これならどんな強力な攻撃を撃たれても耐えられる。
「あああああああああ!」
「あれってあんたの元カノなんだっけ?」
「そうだ!」
「情熱的ね」
情があるのなら俺は傷付いていない。あいつは愛に対しては熱しかなかった。自分が幸せと感じればそれで良いという自己中心的な考え。俺はその熱で焼かれた被害者だ。
「…なにこの壁?邪魔なんだけど」
ジュウウウウウ…
ツバキの盾が溶け始める。ナインは俺を抱き上げると、その場から逃げ始めた。
「光太を返してよ!」
「元カノなんでしょ!どうにかしてよ!」
「無理だ!俺にはどうすることも出来ない!」
中学校の階段で女子が転落して大怪我をするという事故が相次いで起きた。しばらくしてその怪我人は、俺と仲良く話したやつだと気が付いて戦慄した。
そして一度だけ、天音が背中を押して突き落とす瞬間を目撃した。すぐに気付かれてその後…思い出しただけでゾッとする。
「ツバキ!ツカサ!ジン!ひたすら武器を生成して時間を稼ぐんだ!」
魔法を封じられたサヤカは指示出しをしている。三人の武器召喚は魔法ではないのか、アンチウィザードの中でも問題なく発動出来ていた。
しかし三人が頑張っても天音は止まらない。しばらくすると炎のヘイローが頭上に出現し、追ってくる速度が上がった。
「光太は私と一緒にいたいって言ってるじゃない!!だから返してよ!」
「言ってねえよ…」
「…光太、嫌われるんだ!」
「なに!?」
「君が好きであんな風になってるとしたら、逆に嫌いなれば落ち着いてくれるかもしれない」
「そうか………やってみる!」
考え付きもしなかったアイデアだ!天才かよ!
「おーい天音!俺はお前が嫌いだ!」
「…」
「気持ち悪いんだよお前!だから俺以外に話せる相手いなかったんじゃねえの?高校はどうだ?そういう相手いるか?俺は…いまああああああああす!灯沢と!水城と!石動!みんな美少女です!ハーレムかよ!く~!」
「ユッキー達を巻き込むな!」
「とにかくお前が嫌いだ!もう二度と関わらないでくれ!」
「灯沢?水城?石動?だったらまずはそいつらから殺すことにするよ」
そうして天音は進行方向を変えた。これで一件落着…じゃねえよ!
「やべえええええ!ターゲット変わっただけじゃねえかあああああ!おいヤンデレ!こっち向け!」
「光太!僕を狙うように言うんだ!」
「お、おう!…でもやっぱナインが一番かな?…可愛いし凄いし!ヒステリックな誰かさんと違ってしっかり者だ!」
「こっち向いた!…ほ、ほどほどに頼むよ?」
「…無茶苦茶にされて真っ暗だった人生を変えてくれたのはナインだ。会わなかったら俺は今頃生きてない…いや、会う運命だったのかもな。死んでたとしてもアノレカディアで転生して、友達になったと思う」
「…へへへ」
「ナインは俺に希望を与えてくれた!けどお前はどうだ!?ただ奪っただけじゃないか!返せよ俺の脚!俺の未来!」
そうだ。あいつのせいで俺の人生は滅茶苦茶になったんだ。絶対に忘れちゃいけない…
なんとしても天音を倒すんだ!
「だったら奪い続ける!その女も殺す!」
「お前みたいなザコにナイン達が負けるもんかよ!」
ジン達が召喚した武器が天音に向かって飛んでいく。しかし一つとして本体に到達せず、目の前で溶かされてしまう。
「あの炎は魔法なのか…?」
「だとしたら元カノの魔力が有り余ってるのはおかしい。きっと魔獣の能力だ」
つまりあいつは、炎の能力を持つ魔獣を宿しているのか。アンチウィザードっていうスキルも厄介だし、参ったな…
「…ナイン、スキルを無効にする魔法の杖ってあるか?」
「あるよ」
だとしたら…今思い付いた作戦が有効かもしれない。
「ナイン!ユニークスキルの効果範囲から出ろ!」
「…そういうことね!」
「だったら俺達は足止めか!気合い入れてくぜ!みんな!」
ツカサ達にはこれから少し頑張ってもらうことになる。頑張ってくれ!
ナインは俺を抱えて、目標である天音から遠く離れた場所に移動して来た。
「…そろそろどうかな」
「ナイン!」
「!…もう大丈夫みたい!バッグも開く!」
ファーストスペルにナインが反応した。これなら次の段階へ進める!
「俺のファーストスペルの発動条件。それはきっと俺とお前の気持ちが強く、そして一つになっていることなんだ…俺はあいつを倒したい!」
「そりゃあ僕だって!」
マナサ島を転移させた時、自分勝手な人達に怒っていた俺達の気持ちは一つだった。
そして気持ちが一つの今なら、必殺技であるナイン・ワンドも放てるということだ!
「ナイン・ワンドは必要な能力を持った魔法の杖を一つに合わせて、一時的に新しい杖を誕生させる魔法だ。ナイン、天音を倒すために必要な能力をイメージするんだ…」
「あいつを倒すために…必要な能力…」
「考えろ!ナイン!」
俺はひたすらファーストスペルを唱えて、彼女に力を送り続ける!
「必要な杖はなんだ!ナイン!」
「スキルを無効化するスキルキャンセラー・ワンド!それから…」
急げ…みんながやられる前にあいつを倒せる魔法の杖をイメージしてくれ!