表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/313

第69話 「というわけで皆、助けて!」

 空に浮く少女が現れた途端、光太の脚が急に痛み始めたらしく、僕は慌ててサヤカ達から痛み止めを貰いに行った。


 バタン!


「ノックなしでごめん!あのさ、薬…え!」


 部屋にいた4人が縄で身体を拘束されて、口にガムテープが貼られていた。

 僕は近くの棚からハサミを手に取り、一番近かったジンから解放していった。


「何があったの!?」

「急に窓からこの縄とテープが入って来て拘束されたんだ。だから俺のブレードで斬ろうとしようとしたタイミングでナインが来てくれたってわけ」


 縄とガムテを確かめたが、魔力が付着しているだけで普通の物だ。それにしてもなんでこんなことを…

 魔力が付着した縄とガムテ!?全然普通じゃない!


 ジンは小さな刃を召喚し、他の三人を縛る縄を断っていった。


「…それでナインは何の用だ?」

「光太が脚を痛がってて、痛み止めの薬を貰えないかなって」


 そうして薬を貰って部屋に戻った時、ようやく僕は自分のミスに気が付いた。


「光太…どこ!?」


 部屋に光太の姿がない。僕のウエストバッグは床に落ちていて、何の魔力も感じられなかった。普段なら残り香みたいに僅かな魔力があるはずなのに…


 窓を開けて確かめたが、空に浮いていた少女の姿はなかった。

 失敗した。光太を一人にしたのは間違いだった…


 きっとあの少女が皆を縛って光太を誘拐したんだ。目的は分からないけど、早く見つけ出さないと!


「というわけで皆、助けて!」

「うん。力を貸すよ」


 頭を下げて協力を要請すると、サヤカ達は快く引き受けてくれた。


「ありがとう!」

「ナインに協力するためにこの世界にいるわけだし」


 早速、僕は探すことに優れた魔法の杖を次々とバッグから取り出した。


「これ全部使って光太の場所を特定して!」

「手掛かりとかは?」

「そんな物ない!」


 各々が適当に杖を握って能力を発動した。それで何の情報も得られなければ次の杖へ。


 しかし光太の居場所を割り出すのはそう容易ではなく、気の遠くなるような作業を夕暮れまで僕たちは続けた…





「反応したぞ!」


 ツカサが杖を振り回してそう叫んだ。


「憎しみを検出するヘイトチェック・ワンドで!?何かの間違いじゃないの!?」

「言っとくけどちゃんと対象を光太に絞ってあるからな。間違ってたらこの杖がバグってるってことだぞ」


 光太がそれほどまで憎む人間…思い当たるのは話に聞いていた元カノぐらいだ。

 そして街の上に浮いていた少女…まさかあれがその人なのか?


「どうするの?」

「それを辿ってみよう。憎しみの源である光太がどこにいるか、先端の三次元方位磁針が指してるはずだよ」

「それ…壊れてるぞ」


 え?そんなはずはない。


 壊れていると言われた杖を僕はチェックした。間違いなくこの杖は光太の憎しみをキャッチしている。

 けれどガラス玉の中心に浮いている針はグルグルと回転していた。


「どうなってるんだよこれ」

「この方位磁針を採用した杖は他にもある。けれどこんな動きを見るのは初めてだ…」


 三次元方位磁針は指定した場所や物に、ガラス玉の中に浮いている針が向く正確性が増した方位磁針だ。針の動きが乱れるのは、指定した物が存在していない…そういうことになる。


 けれど杖が故障してるわけじゃない。光太の憎しみは確かに感知しているんだ。つまり彼は今、方位磁石の指せない場所にいる。


「光太さ、アノレカディアに連れて行かれた可能性とかない?」


 ジンは支度を始めた。確かにその可能性はある。


「ナイン、とりあえず行動してみよう」

「…そうだね。アノレカディアで杖を使ってみよう」


 アノレカディアに光太がいる。そうだとしたら、杖が探知した憎しみは時空を超えるほどの物だということだ。

 光太がそれほどまで憎む人間。どんな人なのかは知らないけど、まず間違いなく僕たちの敵だ!




 そうしてアノレカディアに渡ってみたが、今度は針が動かなくなってしまった。


「やっぱり壊れてるんじゃないのかこれ?」

「今度は憎しみを検出してない…アノレカディアじゃなくて向こうの世界にいるのか?」

「でも向こうでは針が狂ってたわけじゃない?」


 やっぱり僕の杖が壊れてるのか?唯一の手掛かりだと思ったのに。


「どちらでもない…とか?」


 ジンが気になることを口にした。


「アノレカディアでも光太の世界でもない。けど彼の世界では次元を超える程の悪意が検出できた」

「また別の世界に光太はいるっていうことか」

「別の世界と言うよりも…人の手で作り出した人工空間にいるんじゃない?」


 その通りかもしれない。それ以外に光太の居場所は思い付かない。


 バジュウン!


 向こうの世界に戻ろうとした瞬間、何かが滝の裏側にある洞窟に飛び込んできた。

 とっさに盾を構えたツバキの背後には、2つの世界を往来できるアノレカディア・ワンドが置かれている。それを狙っての攻撃だろうか。


「危うく帰れなくなるところだったわね…」


 ゲートを狙った攻撃。それを行った人物は滝の向こう側に立っていた。


「よう。サヤカとその取り巻き共。元気してたか?」

「ヨウエイ…」


 僕も含め皆がその顔を知っている。かつて通っていたネフィステイア学園の優等生ヨウエイ・フゥード。


「優等生がこんなところで何してるのかしら?」

「それよりも私達に攻撃したことに何の意味があるのか教えてくれない?」

「サヤカに攻撃するつもりはない。ただその忌々しいゲートを破壊しようとしただけだ」


 相変わらずサヤカ、サヤカ…気持ち悪いなコイツ。


「私達の邪魔をするってことはパロルートを敵に回すってことだけど」

「パロルート?あんなザコ怖くねえよ」

「お前!」


 お兄ちゃん達をザコ呼ばわりだと!?いくら優等生だからってその発言は許せない!お兄ちゃん達をザコ呼ばわりする程の力はないくせに!


「サヤカ、学園に帰るんだ。お前は落ちこぼれと一緒につるんでたから虐められただけでセンスはあった。俺と同じ人間になれるはずなんだ」

「嫌だ。帰らない」

「俺から皆に言い聞かせてやるよ。サヤカは魔法が上手なんだって」

「私は学園側に許可を貰ってここにいる。たかが生徒に連れ戻す権利はないはずだよ」

「…おいサキュバス。またゴミみたいな杖で洗脳でもしたんだろ。解け」


 怖い目だ…学園でいつもボコボコにされていたのを思い出す。腕を折られた時は本当に痛かった。

 それにしても…彼の強力な魔力の内側にさらに強い魔力を感じる。なんだろう。


「ナイン、怖がらなくて大丈夫だよ。ヨウエイ、帰ってくれないかな?私、今凄く忙しいから」

「お前はここにいるべき人間じゃない。俺と一緒に帰るんだ」


 するとサヤカは荒い口調で怒鳴った。


「キモい!帰れ!」

「通報するわよ!」

「死ねええええ!」


 サヤカとツバキに並んで僕も一言。そしたら凄い睨まれて怖かった。


「そんなに嫌なら無理矢理連れて帰るしかないか…」

「あのさぁ、私ジンと付き合ってるの。それで君には興味がないんだ。ごめんね」

「またジンか…そんな貧民街出身のどこがいい?前科持ちだぞ」

「一番は顔。それから…怒れば反省するところ、やる時はやるところ、意外とお金持ってるところ…理想の男性ってこういう人のことを言うのかな?」

「あれ、へそくりバレてない?」

「ジンより俺の方が強いぞ」

「今のジンだって強いよ」

「俺よりもか?」

「うん」


 ヨウエイはいつも使っていた上物の剣を両手に召喚すると、サヤカに向かっていく。

 ジンはサヤカの前立つと、正面に数えきれない程の刃を出現させ、ヨウエイの足を止めた。一歩でも動けば、ジンは容赦なく串刺しにするつもりだ。


「嘘だろ…こんなに召喚出来るなんて…」

「そろそろ光太探しに戻ろう。時間が勿体ない」


 戦いにもなっていない。僕が学園にいた頃よりも、ジンは強くなっていたんだ。


「待てよ人殺し!おいサヤカ!どうして自分の姉を殺した男と一緒にいられる!」

「…」

「いつの話引っ張り出してるの?」


 すっかり忘れてたけどジンはそういう環境で育ったんだった。




 窃盗の常習犯だった彼はある日、通り掛かった女性に狙いを定めた。バッグをひったくろうとしたジンは返り討ちにされたが、女性は手を差し伸べた。

 親から捨てられ優しくされることを知らなかったジンは捕まると勘違いし、隠し持っていた刃物で女性を刺し殺した。


 それがサヤカのお姉ちゃんだった。


 二人が初めて出会ったのは裁判の後だった。優しいお姉ちゃんが大好きだったサヤカは、仇を討とうとした。ジンは殺されそうになっても抵抗せず、サヤカの両親が止めに入らなければ間違いなく死んでいた。

 ジンは罪を償おうとひたすら行動した。少年院の中で反省文を書いたり熱心に仕事に取り組んだり、まるで模範囚のようにだ。

 絶対に償えないと分かっていながらも諦めなかった。


 何年か経って、サヤカはジンと再会した。ジンの方からサヤカに面会したいと連絡があったのだ。

 ジンはサヤカに会ってすぐ跪いた。改めて自分の罪を謝罪して、償うためにそばに置いて使って欲しいと頼み込んだ。

 長い時間が空き、許す準備が出来ていたサヤカはジンを一時的に使用人として家に迎え入れ、後にネフィスティア学園へ一緒に入学することになった。


 滅茶苦茶な話だけどこれは事実だ。ジンの事をサイコパスだって思ったならそれでもいい。

 ただジンは償うためだけでなく、殺してしまった女性が最期に呼んでいたサヤカを守るために使用人になる事を決めた…らしい。


 学生だった頃、お酒を飲んで酔っぱらっていた彼から聴いた話なので多少盛られたところもあるだろうけど、本当の話だ。

 二人が仲直りする時の話の最中に、ツバキの放屁で僕は笑いを堪えるのに必死で、そっちの方が印象に残ってるけど。


「こうなったら…サキュバス!お前の男を殺す!」

「光太がどこにいるのか知ってるのか!」

「お前には辿り着く事の出来ない場所だ…死体はちゃんと持って来てやる…バラしてな!」


 するとヨウエイは転移魔法を使ったのかどこかへ消えた。アノレカディアと光太の世界でもない別のどこかへ。


「光太ヤバいじゃん!?どうするんだよナイン?」


 いいや…きっと今は焦らなくていい。光太を誘拐したのが元カノなら、そう簡単に殺させはしないはずだ。


「光太がそんな簡単に死ぬもんか…とりあえず戻ろう。休憩してから次の行動を考える」


 無事でいてくれよ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ