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第68話 「助けてくれ!」

 ある日の帰り道だった。


「後ろいるぞー!」

「マークされてるぞ!」


 通り掛かった小学校のグラウンドで、サッカーの試合が行われていた。


 実は俺、スポーツ推薦で転点高校とは別の場所に行く可能性があった男なのだ。


「懐かしいなー」


 誰にも追い付けない最速のドリブルが出来ていた。まあシュートの方は滅茶苦茶だったんだけど、それも高校に行けば上手くなる…なんて思ってたら怪我で引退だからなぁ。


「………あいつさえいなければ」


 当時付き合っていた女子がいた。あいつのせいで俺は引退することになったんだ。

 あいつがいなければ、俺は今頃たくさんの友達がいて輝かしい人生を送れていたはずなんだ。


 帰ろう。思い出に浸ろうとしてたのに嫌な気分になっちまった。


「……あれ?」


 前に進めない。脚が動かせないぞ。どういうことだ?


 どれだけ前に進もうとしても、足が地面から離れない。仕方ないので、ナインに電話して助けてもらうことにした。


「脚が動かなくなって帰れなくなった。助けてくれ」

「何?また石にでもされたの?…まあいいや。こっちから召喚するね」


 通話が切れた次の瞬間、俺は玄関に立っていた。


「おかえり。歩けそう?」

「いいや。無理だ」

「えぇ~大丈夫!?病院連れて行こうか?」


 病院に行くのは断り、明日まで安静にしていることにした。




「怪我したのは可哀想だけど…サッカーやめれて良かったよ。光太には私と同じ高校に来て欲しかったし、これで勉強頑張れるね」


 松葉杖で歩いていた俺に、彼女はそう言った。サッカーが出来なくなった事への慰めは何一つなかった。


「どうして他の子と話してたの?やめてって言ったよね?」

「だって宿題集めてたから仕方ないじゃん」


 俺が他の女子と会話すると、次の休み時間には決まって俺に注意をした。怒鳴ってくる先生よりも怖かった。


「これからはずっと一緒。光太は何もしないでいいからね」


 あいつに弱味を握られてから、毎日地獄のような日々を送る事になった。




「まだ私は光太の事を愛してるよ」


 嫌だ。俺はもう会いたくない。だから知り合いのいない転点に入学したんだ。


「どうして私がやったことを話さなかったの?それって私に嫌な思いをさせたくなかったからだよね?」


 違う!言ったとしても誰も信じてくれなかった!両親に相談しても、あの人たちは仲直りしろとしか言ってくれなかった!




「…夢か」


 夢の中ではあるけど久しぶりに元カノの顔を見た。蹴ってやれば良かったな。


「光太おはよう。脚動く?」

「…ダメだ。凍ったみたいに動かない」

「今日は欠席して、病院で観てもらおうか」


 病院に行くのは昔怪我をした時以来だ。ナインが一緒に来てくれるだけで安心出来た。


 しかし診断の結果、怪我や病気などではないと判明した。つまり何もないのだ。

 念のため別の病院でも診てもらったが、言われた事はほとんど同じだ。

 脚には昔の怪我の痕跡以外に何もなかった。


 そして俺達はアパートに戻って来た。


「はぁ…昔の怪我が響いてるのかな」

「サッカー引退することになった大怪我だったよね?何があったの?」

「…言いたくない」


 ナインが俺の脚に触った。触られている感覚はなく、彼女の手で膝を曲げるとその状態で固まった。

 ナインは脚が動かなかった理由は俺の心に問題があるんじゃないかと言ってきた。確かにその通りかもしれない。


「元カノかもしれねぇ…夢にも出てきたし」

「彼女いたんだ…どんな人だったの?」

「…外見以外取り柄のない最低なやつだった。あいつを庇って俺が怪我した時は、サッカー出来なくなって良かった。これで同じ高校に行けるってほざいたり、他の女子と話したらキレるし、それで放課後──」


 ナインは驚愕のあまり声も出せない様子だった。


「…あ、あんまり気にすんなよ!もうとっくの昔の話なんだから気にしてないし!あはは」

「ま、窓…窓の外…」

「あ?なんだよ人でも歩いてるのか?」

「いいから見て!」


 全くどうしたんだいきなり…


 ナインがあまりにも怯えているので、俺も仕方なく窓の外を眺めた。何もない地味な住宅街の景色だ

 いつも通りの景色。そこにある異物が混じっていた。


「お、お、女の子が浮いてる!」

「あいつは…!?うっ!?」


 足が痛い!それよりも!住宅街の上に少女が浮いている!


 ガタン!シャーッ!


 倒れる直前に窓とカーテンを閉じてその場に伏せる。俺はあの少女を知っている。

 それよりもこの激痛!!ぶつかった時とか筋肉痛とは全く違う痛み!これは一体!?


「光太、大丈夫!?」

「脚が痛い!」

「待ってて!サヤカ達が痛み止め持ってるはずだから!」


 薬なんかいらない!一人にしないでくれ!


「ナイン…!」


 彼女が出ていった部屋に俺は一人きりになってしまった。




 非常に危険だ。空に浮いていた理由はともかく、あいつは二人きりになった時に本性を露にする。


 ガチャン…コッコッコッコッ


 扉が開いて足音が近付いて来た。身体を転がして玄関の方に目をやったが、そこに立っていたのはナインではなかった。


「好きなんだ。あの子のこと?」


 脚の痛みがさらに強く…!


「でもあの子はどうなんだろうね?光太のこと好きじゃないと思うけど…それより私は──」

「うるせえんだよこのブス!黙れ!」


 怖い…ナインはまだ帰って来ないのか!?


 目の前に立っている少女からはチビりそうなほど殺気が溢れていた。


 こいつの名前は雨夕(あまゆう)天音(あまね)。中学の頃の元カノだ!


「…帰れよ…出ていけ!誰がお前に会いたいって言った!」

「夢で言ったよね?私は光太の事を愛してるって」


 ナインのウエストバッグはテーブルの上。立ち上がればなんとか掴める。


「気持ち悪いんだよマジで…死んでくれ。俺はお前が嫌いだ!」

「死んで欲しいくらい、憎くなるくらい好きってことだよね?」

「ふざけんなよ!お前のせいで俺の人生滅茶苦茶になったんだ!忘れたとは言わせねえぞ!?」

「…それ良くないよ。そうやって不都合がある度に八つ当たりするの。仕事に失敗してDVする夫みたい」

「お前の親父と一緒にするな!さっさと消えろ!ぶっ殺すぞ!」

「確かにそうだね。あんな最低な人と一緒にするなんて失礼だったよ。ごめんね」

「ブス!ブス!ブス!鼻毛出てるんだよ!」

「え!嘘!?最悪!」


 今だ!痛みを我慢して立ち上がった俺は、ナインのバッグに手を突っ込んだ。


「あれ…」


 おかしい。中に何も入ってない。杖はどこだ?


「杖のある空間に繋がってない!?」

「ユニークスキル、アンチウィザード!一定範囲の魔法を全て無効化しま~す」


 こいつ!魔法の事を知ってやがるのか!?


「ナイン!助けてくれ!」

「…話してるの私なんだよ?他の子のことなんて考えちゃダメだよ」


 急接近した天音が俺を掴んで引き寄せた。もう二度と見たくなかった大嫌いな顔がすぐ目の前まで来ていた。


「また光太が私の物に!やったあああああ!」

「ナイ!…んっ!?」


 チュッ


 望んでもいない口付けをされた途端、酷い眠気に襲われた俺は意識を失った。

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