第66話 「もう一つ依頼してもいいですか?」
灯沢が探しているトイプードルのベロちゃんは、街でも有名な暴力団、八塚組のペットにされていた。
それを知った俺と探偵のナイスさんは、その日の真夜中にベロちゃんがいる事務所の前までやって来たのである。
事務所からは光が漏れていて、人の影もガラスに映っていた。
「穏便に済ませたいですね。どうしましょう?」
「部屋ノ中ヲチェックスルニハコレ便利ネ。スモールスパイマシン・ホッパー」
ナイスさんはバッタ型のロボットを取り出して事務所の方へ投げた。そしてコントローラーとなるスマホを取り出して操縦を開始した。
「探偵ノシークレットアイテム、便利ヨ」
「すっげ~…」
スマホにはバッタの正面が映っている。階段を跳ねて上がっていき、事務所前の扉までやって来た。
「どうやって中に入りましょう…?」
「簡単ネ」
ナイスさんは足元に落ちていた石ころを、事務所の窓にぶつけた。
しばらくすると事務所の扉が開き、男が一人出ていった。その隙を逃さずにバッタは侵入成功。さあ、ベロちゃんを見つけるぞ。
「ヤクザ三人ネ。私二人、君、一人デ倒セルヨ」
「穏便に済ませたいって言いましたよね…ベロちゃんはどこだろう?」
バッタは事務所内を動き回り、ケージに入れられたトイプードルを発見した。
「見つけた!こんな窓もない狭苦しい部屋に…」
「可哀想。助ケテアゲナイト!」
しかし俺達のやることは泥棒だ。相手もヤクザだし、失敗すれば大変な事になる。
「おいお前ら。そんなとこで何してる?」
ヤバイ!さっき出てきた男に見つかった。
「デートネ。彼、マイボーイフレンド」
「こんな時間にデート…?死にたくなきゃとっとと失せな!」
そう警告した男が事務所に戻ろうと背中を見せた瞬間
ビビビッ!
ナイスさんは背中にスマートフォンを当てた。すると男は倒れてしまった。
「スタンガン付きスマートフォンネ。コレ強イネ」
「穏便にって言ったじゃないですかああああ!?」
やったしまった物は仕方がない。こうなったら事務所にいる二人を倒して、ベロちゃんを取り戻す!
俺達は事務所へ続く階段を駆け上がる。監視カメラにはナイスさんの秘密道具、ハッキングモンシロチョウが取り付き、姿が映らないように映像を改竄してくれた。
バタンッ!
「なんだてめえら!?」
「ぶっ殺せ!」
「真実ハit's more hit you!」
「ふざけてないで戦ってくださいよ!」
近くにいた男をタックルで倒し、馬乗りになって何度も顔を殴った。アノレカディアで鍛えた俺を、男は追い払う事が出来ない。
「ワーオ!ワオ!ワオ!ワオ!アメリカンスモウヒップ!」
そしてナイスさんも見事な武術で、もう一人の男を気絶させていた。
「ベロチャーン!」
さて、あまり長居はしたくない。ベロちゃんを連れて早く逃げよう。
「ん?…」
なんだこの臭い…生臭い…血の臭い!
俺は臭いを辿り、色が若干違うタイルフロアを見つけた。
「こ、これは…!?」
ぐぐっとタイルを持ち上げた。その下には血だらけになった男の身体が入っていた。
………死んでいる!
「け、警察に連絡を…いやナインか!?」
ここは暴力団の事務所だ。まず常識が通用する相手じゃないだろう。
俺は警察ではなく、ナインに電話を掛けた。
「……………ダメか」
夜中だから出てくれない。いや、喧嘩してるからブロックされてるのかも…
パシャリ!パシャリ!パシャリ!
写真を撮ってからタイルを元に戻した。完璧に、俺が触れたと気付かれないように…
「ドウシタンデスカ?ソレヨリ見テクダサイ!ベロチャンデース!」
「探偵さん。もう一つ依頼してもいいですか?」
「ナンデスカー?」
ナイスさんにアパートの住所を教え、そこにいるナインに写真を撮ったスマホを届けるように頼んだ。
ベロちゃんを回収したナイスさんは先に帰って行った。俺は事務所に残り、床下の死体に関係している物がないか隅々まで調べあげた。
そして逃げ出そうと窓の外を見た時、事務所の前には沢山の車が停まっていた。
「おいお前!どこの組のもんじゃい!?」
「ヒッ………くたばれ反社!社会の底辺!」
「んだとゴラァ!」
銃を向けられても立ち向かった俺だが、数には敵わず袋叩きにされた。
こうなってしまってはもうやれることはない。後はナインが写真を見て行動を起こしてくれるのを待つしかない。
「ケッ…どうしましょうこのガキ?」
「喧嘩売った相手が誰だか分からせてやれ」
「コンテナ送りっすね」
ナインが来るまでどれだけ時間が掛かるかな…