第64話 「お金はおっかね~」
シャイアラ医療国へ行ったがナインの脚を治すことは出来ず、現在は義脚を装着しての生活を送っていた。
「脚大丈夫か」
「も~大丈夫だって!」
平気そうにはしているが…実際はどうなんだろうか。身体を欠損した事のない俺に、彼女の痛みは理解できない。
「そんなことよりも僕達お金がないよ。そろそろ何かやって稼がないとマジでヤバイって」
「家賃も俺達で払わないといけなくなったからな~」
昨日、父親から電話が掛かってきた。どうやら再婚するそうだ。それで高校の学費しか支援出来なくなるので、アパートの家賃は自分達で払わないといけなくなったのである。
「久しぶりに鉄板焼き屋出すか?」
「あんな赤字商売二度とやらない」
「だな。まあアルバイトしかないだろ。お前毎日家でグータラしてるんだし、たまには汗水流して来い」
「めんどくさ~!一攫千金狙おうよ!宝見つけて大金持ちになろうよー!」
そう言えばそんなこと一度あったな。大金手に入れて、その後どうしたんだっけ。
「動物を盗んで海外に送る」
「却下」
「人気商品を沢山買ってその後──」
「却下」
「お年寄りの家に電話──」
「却下」
「犯罪ばっかじゃねーか!」
「貧富の差で出来上がった新時代の商売だよ…」
コンコンコン
「ナイン、入るよ」
ノックをしてサヤカが入って来た。なんだか疲れている様子だ。
「物を人に変える杖ってない?」
「あるよ。けどどうしたの?」
「バイトだけじゃお金足りないし、ゲーム作って売ろうと思ってるんだよね」
ゲームを作るだって!?
「へー!面白そう!どんなゲーム?」
「う~ん…擬人化させた何かで戦う…みたいな?最近の流行りに乗ろうかなって」
「僕で良ければ協力するよ!あと光太も!」
「お、俺も!?」
何を擬人化させるか。そのアイデアを見つけるため、俺達は町を巡ることになった。
「というわけでこれ!ヒューマンチックトランスフォーム・ワンド!」
「名前長いな!?」
「まずはあれで良いんじゃないかな?」
サヤカが野良猫を見つけた。まあ、動物の擬人化は定番だよな。
「性別は女。子どもで甘えん坊。おっぱい大きめ。耳は猫耳であとは…」
「なにそれ、そんな都合良く設定も出来るの?今度貸して欲しいんだけど」
「えいっ!」
ナインが杖を振ると光線が発射された。それを受けた野良猫は、1000年に1度会えるかどうかの美少女に変身した。
「…あれ、人間になってるニャ?」
「かわいー!こんにちは!」
「ニャニャニャ!?あなたが私を人間にしたのニャ?お願いニャ!元の姿に戻して欲しいニャ!」
「えぇ~なんで?」
「人間は愚かニャ動物ニャ。そんなやつ、転生してもなりたくないニャ…なんでこっち見てるニャ!気持ち悪いニャ!死ね!」
猫は速攻で元の姿に戻された。そして去り際に威嚇をして行った。
「うーん…じゃああのカラスで良いんじゃないかな」
今度はゴミを漁っているカラスに目を付けた。
「カァー!」
「逃がすか!」
飛び立とうとしたカラスはバナナの皮を咥えていた。そして杖の光線は、カラスが投げ捨てたバナナの皮に命中してしまった。
「そんなバナナ~!なんでアタシニンゲンにナテルの~?」
そして今度もまた、凄い美少女が誕生してしまった。
「でもコレなら!ユメだったゲイノウジンなれちゃうネー!ヒャッフー!」
バナナは大喜びで走っていった。
バナナの皮が芸能人…売れるのだろうか?心配だ。
「どうサヤカ?」
「うーん…イメージが固まらない。もっと別の物を擬人化してみよう。例えば車とか」
そうして俺達は中古車にやって来た。
…なにナチュラルに売り物を人に変えようとしてるんだこいつら!?
「あれ?この店の前だけ街路樹がない…まあいいや。やっぱり擬人化するならカッコ良くだよね!」
「うん、あのスポーツカーとかどうかな?」
売り物だというのに迷いがない。光線を受けたスポーツカーは陸上競技用のユニフォームを着た美少女に変身した。
「おっと…どうして人間になっちまったんだ?まあいいや。これで自分のペースで走れるぜ」
「ナイン、せっかくだからライバル増やしてあげようよ!」
サヤカに唆されたナインは、さらに他の車も人間に変えてしまった。
「ちょっと胸デカイからって良い気になってんじゃないわよ!」
「あの峠に一番に着いたやつがリーダーだ!」
そして車だった少女達の駅伝が始まり、並んでいた車は一つも残らなかった。
「あーあー」
「きっと一位になった娘をセンターにしてライブだね」
「どうすんだよおい。売り物全部なくなって店の人泣いてるぞ…」
「だったらえい!」
そして最後に店そのものが美少女となり、泣いていた店長を優しく励ました。
「…なんで全員美少女なんだよ」
「擬人化なんてとりあえず美少女のガワを着せれば人気出るんだよ。ほら次行くよ」
そしてあらゆる物が擬人化され、街は大パニックに陥った。
「どうするんだよナイン!」
「リセットアンドネクストを使えば全部元に戻るし大丈夫だよ」
「う~ん」
サヤカが閃かない限りナインは目に留まった物を全て擬人化してしまう。リセット出来るとしても、これはやりすぎだ。
「今度はあのマンションだ!」
「いい加減にしろー!」
そして俺はリセットアンドネクスト・ワンドを取り出して振った。大パニックは全て無かったことになり、俺達は次の日の朝へ…
「ふあぁ~…」
「おはよー光太ー」
今日も良い朝だ。素敵な1日になるといいな。
「…あれ?…日付飛ばしたな!?」
「あれ以上やったって何も思い浮かばねえよ!」
ナインが状況を理解したところで俺達は下の部屋へ向かおうと部屋を出たが…
「…なにこれ?」
アパートの前と庭が耕されていた。
「あー私達ゲーム創るの諦めて野菜売ることにしたから」
「場所を考えろよ!?ここ賃貸だぞ!大体何が育つんだよこんなところで!」
サヤカ達は何かの種を植えている。
金は今必要なんだ!それなのに何ヵ月か後になってようやく売り物になる野菜を今から育て始めてどうするんだよ!間に合わねえよ!
「ナインお願~い!」
「僕の杖で大きくしてあげるよ!」
また変な杖取り出した…今度は何するつもりだ?
「えいっ!えいっ!…あれ?えええい!」
ドゴオオオオオオオ!
大木なんて物じゃない。畑に植えた植物は超巨大な樹木となった。根が地上を破壊し、葉が太陽を遮っている。もうこの街は終わりだ。
「…ナイン?」
「ごめんなさい反省するから角を強く握らないで…」
そしてまた全てがリセットされ、次の日へ…
「また朝か…」
憂鬱な朝だ。あれ?ナインはどこだろう。先に起きてるみたいだけど。
「うん!これでもう立派な大人だよ!」
アパートの外にはナインと四人の大人が立っていた。サヤカ達に似ている気がするけど、あの人達は…
「ナイン、そいつら誰だ??」
「サヤカ達だよ!魔法で大人にしたんだ!」
「ほへ~」
…もう何が起こっても驚かない人間になってしまった。慣れって怖い。
「それじゃあ光太、財布借りてくね」
「は!?それ俺の財布!お前ら何するつもりだよ!」
「「「「ギャギャギャギャギャンブル」」」」
口を揃えて走り去る四人。追い掛けようにも、ナインがガッシリと押さえつけてきやがった。
驚いたわ!人の金で賭博ってどんな倫理観してるんだこいつら!?
「見逃してくれ光太!これで失敗したら明日から僕とジンも働かないといけなくなるんだ!」
「いや働けよ!なに絶体絶命みたいな感じで泣き叫んでるんだよ!?」
「やだー!働きたくなーい!」
「私は競馬、ジンはパチンコ、ツバキは競艇、ツカサは競輪!大金手にして未来を掴もう!」
「「「おー!」」」
そして夕方。一文無しになったサヤカ達が帰って来た。俺の手元には、空になった財布だけが帰って来た。
「はぁ…明日からもやし生活ね」
「お前らそこに並べ!ナイン!テメェもだ!」
こいつら!もう絶対に許さん!
「こ、光太?そんな大きな声出して怒ると身体に良くないよ?」
「俺の身体より自分達の身体を心配するんだな……これからお前らにいらない臓器を尋ねる!俺が聞いたら答えろ!そしたらこの包丁で切り抜いてやる!」
「臓器売買!?今までで一番悪いことだよ!」
「黙りやがれ畜生!それが嫌ならこの街に住んでるやつらに片っ端からカツアゲして来やがれ!」
「それじゃあ俺行ってきま~す」
「ちょっとジン!素直に行くなよ!」
「光太、僕達恐喝なんて酷いこと出来ないよ!」
「俺の財布を空にしてええええええええ!酷い事が出来ないだあああああああ!?しかも通帳見たら、貯金してた分まで使いやがったなああああああ!」
臓器は外国人に高く売れる!こいつら4人から1つずつ臓器を切り落とせばしばらくは生活に困ることはない!
「さあどうするお前ら!」
「誰か一人を選んでその人を海外に売れば良いんじゃない?」
「ほう…面白い。ならいっせーのでいらないやつを指させ!そいつを売り飛ばす!」
「「「「「いっせーのーせ!」」」」」
この中で一番必要とされてないのは…
俺だった…
「ちょっとジン!なんであたしに向けてるのよ!?」
「いや~お約束かなって?」
「光太いらねえよ!身体バラして売り飛ばそうぜ!」
「…売れるのかな?」
「ごめんねー光太」
「マジで許さねえ!だったら逆にお前らを売り飛ばしてやるよ!」
情け無用。俺は生きるために5人を相手に立ち向かった。
「恩知らずがあああああ!」
「ザコがよおおおおおお!」
ブルルルルン…
「あれ、大屋さんだ」
殴り合いに発展する寸前。大屋さんが乗っていたバイクが停まった。そして相変わらず、あの人はヘルメットを外さずにやって来た。
「ちょっとちょっと、子ども達が喧嘩してるって文句言われちゃったんだけど!頼むからトラブルだけはやめて!」
「あ…ごめんなさい」
「あの、今月の俺たち揃って家賃払えそうになくて…少し待ってもらえませんか?」
「あ~それだったらもうタダで住んでて良いから。あんまり酷い生活態度だったらお金取るけどさ。頼むからトラブルだけはやめて?」
「お金払わなくても良いんですか?!」
「うん、いいよ。君達の事情は大体分かってるから」
地獄に仏だ。まさか家賃を払わなくて良くなるなんて…
「頼むからトラブルはやめてよ!?」
大屋さんは念入りに言うと、バイクに乗って行った。
「…アノレカディアに狩りへ行こう」
「それしかないな」
「これからしばらく野草生活だから。あとジンはこれから一ヶ月は単発バイトね」
「えぇ、俺が!?」
俺達は狩りへ。サヤカ達は極限まで節約をするという形でこれからを乗り切ることにした。
お金はなくてはならない物だけど、その恐ろしさが身に染みた。
「お金はおっかね~」
「は?エサにするよ?」
それにしても魔物の味、口に合うだろうか。