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第61話 「っていねえ!」

 ダンジョン攻略はこれが初めてじゃない。以前に一度、ダンジョンドラゴンという体内にダンジョンを生成する魔物に喰われるという特殊なケースではあるが経験したことがある。


「ファリュウ・ランパ」


 クァグさんが空砲を撃つと、暗い道に沿って灯火が現れて洞窟内部が明るくなった。

 俺達は先へ進んだ。道中見つけた宝箱には目もくれず、光る足跡を辿った。


「魔物だ!」


 銃を向けた先には身体から植物の生えた魔物が集まっていた。


「待って!あれゴブリンだよ!魔物じゃなくて魔族!」

「本当だ…なんだあの身体は!?」

「分からない…寄生されてるのかな?」


 魔族ということは…もしかして、先に来てたボランティアのやつらか?


「ヴァッ!」

「危ない!」


 しかしゴブリンは錆びた剣で俺に襲い掛かって来た。ナインが引っ張ってくれなければヤバかった。


「どうして俺達を攻撃する…まさかあの植物に操られてるのか?」


 クァグさんは弾を撃てず、猟銃を利用した格闘で次々と襲い来る人達を殴り倒した。


「けどこの洞窟、植物なんて生えてないぞ!」

「とりあえず拘束するんだ!」


 バッグからとっさに引いたのは、輪を出現させるフープ・ワンドだった。俺は後ろに下がって、なるべく多くの人を視界へ入れて杖を振った。


 ギュウゥ!


 すると身体を通すように現れた輪が、襲ってくる人間と魔族を締め付けて拘束した。


 ピシッ!


 ナインは指先の爪で、捕らえた内の三人を引っ掻き、血が出るほどの傷を付けた。


「なにやってんだよ!?」

「ちょっと黙って」

「…ナイン?」

「血には何も混ざってない。ということはこの寄生植物が宿主に信号を送って操作してるんだ」

「ということは!植物を植えた魔物さえ倒せば彼らは元に戻る!」

「そういうことですクァグさん!」


 それを知れたのは良かったことなんだが…


「お前、肉眼でそれが分かるのか?」

「まあね」


 サキュバスって多芸なんだな~…


 このダンジョンには寄生されて操られたボランティア以外に障害となる魔物がいなかった。なので遭遇した人を次から拘束してはその場で放置。ダンジョンを出る時に連れ出すことにした。


「魔物がいないダンジョンなんて楽勝だな!」

「気を付けてくださいよ。そういう場合ってボスが魔物を食べてパワーアップしてたり、そのボスすら倒すダンジョン外からの魔物がいるケースだってあるんですから…」


 ナインのやつ、俺と話してる時より楽しそうだな…


 ダンジョンの部屋を一つ残らず捜索し、発見した全員を拘束しては帰り道へと引き摺り出した。後は植物を操るボスを倒すだけだ。

 俺達はボス部屋の前に到着。ナインは扉を押す手を一度止めて、作戦を伝えた。


「僕は前衛だ。ひたすらボスの気を引く。光太とクァグさんは隙を狙って沢山攻撃するんだ」

「分かった」

「おうっ任せとけ」


 ギィィィイ…


 石で出来た重い扉を開いた先には広い空間があった。そこには植物を生やした獣がいた。


「あいつを倒せば…!」

「ファリュウ・ビックル!」


 グァバさんが呪文を唱えると、グルグルと回転する炎が現れて部屋中を駆け巡った。

 炎はナインを避けながら、ボスだけに突撃していった。


「ウオオオオ!」


 ナインは炎上する獣へ向かって、連続でパンチを放つ。クァグさんの炎が来ると一旦離れ、通り過ぎるとまた攻撃を再開した。


「えっと…」


 余計な事はしない方がいい。俺はバッグのチャックを閉じて、一方的に攻撃される獣を見続けていた。


「トウッ!アリャアアア!」

「ファリュウ・スナイパ!」


 ナインが打ち上げた獣を炎の弾丸が撃ち抜いた。獣の身体は内部から焼かれて、灰となった。


 ゴゴゴゴゴ…


 地面が開き、タイルが上がって宝箱が現れた。ボスを倒した報酬のようだ。


「ボス倒したから宝箱が出てきた…クァグさんいります?」

「そいつは協力してくれた礼に全部もらってくれ。それより戻ろう。みんな今頃、寄生から解放されてるはずだ」


 ずいぶんとあっさり終わってしまった…


「ナイン、それどうするんだ?」

「せっかくだから貰っていくよ。新しい杖に使える素材が入ってるかもしれないし」


 沢山あるのにまだ杖を作ろうとしてるのか…


 ガチャリ…


 宝箱を開けた瞬間、ナインは驚いた猫のように飛び跳ねて、俺の方へやって来た。


「なんだ?虫でも入ってたのか?」

「ま、魔獣だ!開けた瞬間、魔獣の魔力が溢れてきた!」


 宝箱から何かが出てくる…


 シュルル…ガッ!


 植物の(つる)が天井に突き刺さる。そして中から、球根のような形をした物体が姿を見せた。


 ドクン………ドクン………


 球根はドキュメンタリー番組に映る臓器のように脈打っている。


 ドクン…ドクン…ドクン…


「光太、気を付けて。あいつ魔獣だ!さっき僕達が倒したのは、こいつに操られてたこのダンジョンのボスだ!」 

「クァグさん!っていねえ!先行っちまった!」


 ドクン!パシャン!


 球根は大きく膨らんでから破裂した。ドロドロとした液体が地面へ広がり、そこから大きな花が現れた。


「んだあいつ気持ち悪ッ!」


 ガンッ!


 そして花の中心に眼球が現れ、俺達の方を向いた。いや、睨んだと言った方が正しいか。


「あれが魔獣…ナイン!」

「頼むよ!」


 俺は杖を引き抜いて魔獣に振った。するとなんと運の良いことか、炎の弾を発射した!


「相性バッチリだ!」


 しかし、蔓で編んだ壁が炎の弾を受け止めた。花の魔獣は足元の液体と共に移動し、俺達に蔓を伸ばした。


 俺は避けたが、ナインはそれを掴んで引っ張った。引き寄せられた魔獣は、彼女の蹴りを茎に受けて、ポキリと折れた。


「まだか!」


 ナインは折ったばかりの茎を蹴って、後ろへと下がる。茎から魔獣は再生し、元の状態に戻ってしまった。


「再生能力か。だったらこの杖で焼き尽くす!」

「なら僕はなるべく付け根の方から叩き折る」

「残った部分を俺が燃やす!」


 ダンッ!ダンッ!ダンッ!


 魔獣へ向けて弾を連発。するとまた蔓の壁が攻撃を防いだ。


「オリャアアア!」


 疾走するナインが、炎で脆くなった壁を拳で貫き、魔獣の茎を殴った。

 床と天井を突き破り、敵を捕らえようと蔓が伸びる。ナインは目視せずにそれを避けては、床に近い部分から魔獣を蹴り飛ばし、叩き折った。


「良い蹴りが入った!光太!」


 俺は床から僅かに出ている部分を狙い撃った。そして一面が火の海となり、魔獣は燃え尽きた。


 シュルシュルシュル!


「え!?」


 ナインの足に蔓が巻き付いた!ここまでやってまだ生きてるのか!?


「ち、千切れない…」


 ナインが蔦を引き千切ろうとしている。そんな中、何かが火の中から這いずって出てきた。


 蔓を伸ばしていたのは焼け爛れた球根だった。先端にはトゲのような物が生えている。

 まさか…ナインに寄生するつもりか!?


「ナイン!待ってろ!」


 俺は魔獣に向かって炎を放つが全く効果がない。このままだとナインに到達する!


「どどどどどうしよう!?」

「待ってろ…何か良い杖があるはずだ!」


 バッ!


 このタイミングで取り出したのがミラクル・ワンドだった。


「こんな時にこいつかよ!」


 俺は這いずる本体へ杖を振り下ろした。しかしボヨヨン!とバウンドしてしまい、傷一つ付かない。


 このままじゃナインが…


「…あれ?そう言えばお前、義足じゃなかったか?」

「そうだったね」


 カパッ…


 ナインは蔓の絡まっていた義足を切り離し、魔獣から離れた。

 しばらく離れた場所で様子を見ていると、やがて魔獣は干からびていき、今度こそ絶命した。


「文字通り怪我の巧妙だね」

「ふぅ…良かった~!」


 ナインは義足を付け直し、俺達は来た道を戻っていった。




 クァグさんは操られていたボランティアを洞窟の出口へ集めてくれていた。


「いや~まさか魔獣がこいつらを操ってたなんてな。それにしても強いんだなお前ら!魔獣を倒すなんて!」

「まあね~!」


 疲れた…まさかダンジョンのボスと魔獣の二連戦をさせられるなんて…


 ナインはスキップトラベル・ワンドで救出した人達を次々とフィージンの街に送り返した。


「…やば、ちょっとトイレ行きたい。俺も頼むわ」


 ついでにクァグさんも…間に合いそうにない顔してたけど。


 残るは薬の材料だけだ。石動達はもう素材を集め終わっただろうか。

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