第60話 「襲われたりしてないよな」
ナインのスクリュー・ワンドのおかげで、シャイアラ医療国からマナサ島まで時間は掛からなかった。元々、目で確認出来る距離だったからというのもあるだろうが。
「ナッコーはアイテムボックス係ね!」
「荷物持ちですね。分かりました」
この砂浜に落ちている貝殻も薬に必要な物だ。俺とナインはとにかく拾い集めて、石動の持つ箱へ収納した。
「この箱全然重くなりませんよ。凄く便利ですねこれ」
「結構集めたな…どうだナイン、まだ必要そうか?」
「うん。10トン近く…」
10トン!?そんなに集めてたら日が沈むだろ!
「なんか収集が楽になる杖はないのかよ?」
「う~ん…そうだ!あれがある!」
ナインは腰に巻いていたバッグを漁り始めた。今回はどんな杖を出してくるのだろうか?
「…あ、こっちじゃないや。光太、後ろ並んで」
「こっちじゃないって…それ使うのかよ!?」
魔法の杖を出し入れするウエストバッグではなく、2つの物を出し、それを合体させて活動させるボディーバッグ。説明が難しくてこれぐらいしか言えない。
「石動は並べないのか?」
「消費する魔力が多いからナッコーじゃ倒れちゃうよ」
ナインは腰に両手を当てた姿勢で直立し、その両肩に俺は手を乗せた。
「上段馬、発進」
ヴィィィイ!
チャックが降りた。そして中からレーダーの付いた四輪車が2台飛び出した。
「続いて下段鹿、発進」
「ワンワンワン!ワン!」
「ワンワン!」
鳴き声と共に、今度は2匹の犬が出てきた。この姿はダックスフンドという犬種だった気がする。
「馬鹿!ドッキング!」
そしてレーダーが首輪に変形し、2匹の犬にくっ付いた。
「レーダックスフンド馬鹿!」
「いや流石に無理がある合体だろ!これで素材集めが効率良くなるわけないだろ!」
上段馬と呼ばれる物と下段鹿と呼ばれる物が合体し、2つの特徴を合わせた馬鹿になる。これがボディーバッグの能力だ。
しかしあまりにも癖が強くて…俺は好きじゃない。
「よしよし。それじゃあ君達、レーダーの指示通りに動いて素材を集めて来てね」
ナインはレーダーに必要な素材が書かれたメモを読み取らせた。
「ワンワン!」
「あ、私もですか」
ダックスフンドは棒立ちしていた石動を呼んで、素材集めに出発していった。
「それじゃあ素材集めはナッコー達に任せて、僕らは帰って来なくなった人達を捜そう」
「お前の角で魔力とか感じ取れないのか?」
「それが…魔物が沢山いるみたいで、色んな魔力がごちゃ混ぜになってるんだ」
魔物が沢山いる…なるべく遭遇したくないな…
「石動一人にして大丈夫なのか!?」
「僕のバッグから出た犬がいるし…ナッコーは大丈夫だと思うよ」
普通の犬より強いのか…でもあんな小さい犬なんだぞ?本当に大丈夫なのか…?
「うーん…フットプリント・ワンド!」
ナインは今度こそウエストバッグから杖を取り出した。足の形をした装飾が施された杖だ。
「これで足跡を辿ろう。対象を人間と魔族に絞って…えいっ!」
ナインが杖を振ると、そこら中に発光する足跡が出現した。俺達より先にこの島へ来た人たちの物だ。
それを辿って行方不明になった人たちの捜索を始めた。しかしマナサ島の魔物は狂暴で、一筋縄ではいきそうになかった。
「エイッ!デリャ!トォリャアー!」
「ウオオオオ!喰らえ!」
森の中で戦闘が始まった。ナインは素手、俺は魔法の杖というスタイルで魔物を倒していく。しかしどれだけ倒しても勢いは止まらなかった。
「倒しておけば素材は後でナッコーが拾ってくれるだろうけど…イテッ!」
ナインが攻撃を受けて怯んだ。俺は彼女を守ろうと、高速で動き回るクワガタに魔法をぶつけた。
「大丈夫か!?」
「掠り傷!だけど流石に疲れてきたね」
「近くに巣でもあるんじゃないか?」
俺達はいなくなった人たちを見つけないといけないのに…!こいつらが邪魔すぎる!
「ファリュウ・ワーカラ!」
ボオオオオオオオ!
どこからか呪文が聴こえた。それと同時に、龍の形をした炎が飛来した。
ボワアアアアアア!
そして炎は俺達を囲んで円となり、外にいる魔物を全て焼き尽くしてしまった。
なんて威力だ…
「お前ら、大丈夫か?」
猟銃を持った男が現れた。どうやら呪文を唱えたのはこの人みたいだ。
「ありがとうございます!助かりました~」
「冒険者にしては若いな…お前達も薬の素材を集めに来たのか?」
「はい…あなたはボランティアで先に来てた人…?」
「俺はクァグ・ハーキーン。この島には薬の材料集めに来たんだが、仲間達とはぐれちまって…何日も捜し歩いてるんだ」
クァグさんの目的は俺達と同じで、病院から頼まれた材料の調達だった。
「僕はナイン。こっちは黒金光太です。僕達はこの島で行方不明になった人の捜索をしています」
「俺も協力させてくれ。この島の魔物に炎属性の魔法は有効だから、きっと役に立つぜ」
こうして新たにクァグさんが仲間に加わった。
発光する足跡を辿った先には洞窟があった。しかもこれはただの洞窟ではない。魔物が住んでいて、その奥地には最も強いボスが存在するダンジョンというやつだ。
「足跡の歩幅からして走ってる。きっと逃げ込んだに違いない」
「逃げるって…何から?」
「…島の主か」
クァグさんが気になる単語を口にした。
「島の主って?」
「四足歩行で触れたら即死する牙を持った猪みたいな魔物だ」
「即死攻撃…ユニークモンスターですね」
話を聞いてるだけで嫌になる魔物だ。
「石動さん、襲われたりしてないよな?」
「…それはないと思うよ。だってほら………もうそこにいるし」
恐る恐る俺は振り返る。恐ろしく大きな身体に地面が沈むほどの足。そして鋭い牙…聞いてた以上に強そうなんですけど!?
「逃げろおおおおおおお!」
俺達はクァグさんが叫ぶより先にダンジョンへと逃げ込んだ。流石に魔物の巣だからなのか、島の主は追っては来なかった。
こうして俺達はマナサ島のケイブダンジョンに突入した。
「こうなったらクリアするまで出られないぞ…」
「全員助け出すつもりだったからこれでいい!」
足跡は先へ続いている。早く全員を救出して帰ろう!