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第54話 「もしもし!」

 俺が小学生だった頃、月の内部に都市を広げる目的で工事が行われていた。

 しかし現場で使われていた機械が暴走するというトラブルが発生。大勢の死傷者が出たことにより、工事は中断となった。


 俺達はその事故現場である内部エリアの封鎖された扉の前まで来て立ち往生していた。この先には空気とグラビティシステムがない。本来の月に近い環境となっている。

 しかし魔獣はここを突き破ったのだろう。空気の漏出を防ぐ防災システムが作動していたのだ。


「どうしよう…」


 ナインは扉の制御コンピューターから様々なデータにアクセスし、魔獣を倒す手段を練っていた。

 しかし、中々思い付かないみたいだ…


「………俺がここまで誘き寄せる」

「無理だよ!凄く危険なんだよ!これまで体験したことのない環境で動けるわけがない!」

「空気のあるこの場に出てきたところをお前が叩いて倒す」

「話聞いてる?…凄い震えてるじゃん!」


 提案してから、この先の空間を想像したけど滅茶苦茶怖い。実際に扉の向こうに行ったら、10分ぐらいで精神崩壊すると思う。


「別の作戦を考えよう。幸いにも出入り口はここだけ…いや、ちょっと待って…まずいぞ…」

「どうした?」


 コンピューターの画面には警備ロボットに搭載された監視カメラの映像が映し出されている。そこに映るサソリのような魔獣が壁を掘っていた。


「この先には大勢の人が逃げ込んだターミナルがある!このスピードで掘削が続いたら、1時間でそこに到達しちゃうよ!」

「こいつ、人間を狙ってるのか!?」


 ナインは警備ロボット達に指示を出し、魔獣を攻撃させた。だがサソリは鋭い尻尾から砲弾のような針を発射して、それらを破壊してしまった。


「…やるしかない」

「だったら僕が行くよ!」

「それで失敗したらどうするつもりだ。ここで魔獣と戦えるのはお前しかいないんだぞ」

「でも…」


 ナインは心配性らしい。なので俺は肩に手を乗せて笑顔を作って見せた。


「大丈夫だ。お前の杖があるからな」

「光太…」


 そして俺はこいつを凄い信頼しているらしい。ナインの魔法の杖があると思うと、上手く行く気がして震えが止まった。


「…帰って来なかった怒るからね」

「そしたらアノレカディアで転生するから迎えに来てくれ…やっぱいいわ。多分そうなったら巨乳の美少女に囲まれて暮らすことになるだろうから」

「バーカ」


 宇宙服に着替えて、その上から魔法の杖が入ったウエストバッグを装着した。


「暑苦しいな…このダイヤルで温度調整だっけか」

「せっかくだから写真撮らせてよ」


 パシャリ!ナインがスマホで写真を撮った。


 俺が死んだら遺影に使うつもりだろうか。それにしても宇宙服姿の遺影…中々おしゃれかもしれない。


「それじゃあ行ってくるわ。あばよ貧乳」

「はぁ!?」


 ゴースルー・ワンドでシェルターを抜け、俺はライト以外の光が無い空間へと突入した。





 身体が軽い…呼吸が出来ている…宇宙服に問題はないってことだな。


「聴こえるかナイン?」

「無線良好だよ」


 無線機越しにナインの声が聞けて安心し、俺は真っ直ぐの一本道を歩き始めた。


「ここって昔、爆発事故があったらしいね」

「…生き残ったのは子ども一人だけ。そいつが事故を起こした人間の息子だって、世間が袋叩きにしてた」

「嫌な話だね…」


 灯りがないから暗い…夜中の転点高校でももう少し明るかったぞ。


 ザザザ…


「ん?ナイン?」


 ザー…


 酷いノイズ音だ。一旦無線を切ろう。




 それから一本道を歩き続けた俺は、広い場所に出た。するとさっきまで軽かったはずの身体が急に重くなった。グラビティシステムはないはずだが…


「…チッ、聴こえるかナイン?」


 ここに来てもナインとは繋がらない。このまま行くか…


 イ…ケテ…


 なんだ?今なにか音がしなかったか?


「熱イ…」

「助ケテ…」

「…誰かいるのか!?」


 いやそんなわけない。ここには空気がないんだ。俺以外に誰もいるはずがない。


 ボワボワボワ…


 炎だ!機械の残骸が燃えている!空気はないはずだ。可燃性のガスで燃えているのか?


「ギャアアアアア!」

「逃ゲロ!」


 一体なんだこれは!?俺は誰の声を聴いているんだ!?


「はぁ!?」


 突然、身体が燃えている人達が俺の前を通り過ぎて行く。そして彼らは機械の爆発に巻き込まれた。


「ナイン聴こえるか!?もしもし!」

「駄目だ!マシンがコントロールを受け付けない!直接停止させてくれ!」


 誰の声だ!?どうして火災が起こっている!ここには空気だって無いはずなのに!


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 このままじゃ俺まで燃やされる。逃げないと!


 俺は火の手が回っていない場所まで逃げて来た。来た道を戻って逃げれば良かったのに、全く違う場所へ来てしまった。


「ここは…」


 俺が迷い混んだ空間には謎の装置が置かれていた。過去の工事で使われていた物だろうか?


「この装置の中には地球には存在しない未知のエネルギーが入っているみたいだ。それも…生きている」

「肉体を持たない、エネルギーだけの地球外生命体…なぜ月の中にこんな物があったのかしら?」


 白衣を来た二人の男女が機械を調べていた。

 この場所には空気がないはずだ。それなのに彼らは宇宙服を着ていなかった。


「…ん?なんだか向こう側が騒がしいな」

「様子を見に行ってみましょう」


 ダメだ!その先では火事が起こっている!危険だ!


「行くな!」


 俺の声が聞こえていないのか、火災が起きている場所へ二人は向かう。そのまま帰って来ることはなかった。

 その代わりに、怪我をした小さな少年がやって来た。どこかで見たことのある顔をした少年だった。


「嫌だよ…お父さん…お母さん…!」


 まさか今の二人の息子か?


 泣いていた少年は突然、目の前にあった機械を操作した。

 そして機械の上部が展開し、中から光が出現。その光は少年の胸に入り込んだ。


「…うぅ…わあああああ!」


 そして少年の身体が突然変異を起こした。その姿はまるで人狼。俺達が戦った獣人ウォルフナイトとそっくりだった。


「ナイン!聴こえるか!?ナイン!」


 炎はすぐそこまで迫っている。ウォルフナイトはその炎の中へと飛び込んで行き、姿を消した。


 しかし宇宙服を着ているだけの俺にはどうすることも出来ない。


「ナイン!ナイン!助けてくれ!うわあああああ!?」





「大丈夫!?ねえ!しっかりしてよ!光太!」


 あれ…生きている。身体が燃えてない…


「炎は?」

「光太、工事の作業拠点に出てから変になってたんだよ!何かに怯えてるみたいで、急に悲鳴をあげたりしてさ!」


 さっきまで見ていた光景は一体…


 振り向くと光を排出した機械はその場に残っていた。しかし黒焦げになっていて動きそうにない。


「…今はそれどころじゃない」


 早く魔獣を止めないと…ターミナルにいる人達が危ない。


「すまない、ちょっと取り乱しただけだ。道案内を頼めるか?」

「任せてよ!」


 俺が見た光景。ウォルフナイトに変身した少年。それらについて確かめるのは、魔獣との戦いに勝ってからだ。

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