第47話 「やれるものならやってみろ!」
試合が終了し、倒れたロイドとダイザが担架に乗せられてフィールドから去った。しばらくすると、小さな宝箱を両手で抱えた国王が現れた。
「これより閉会式を行う!えーまずはじめに──」
「俺達の手当てまだなんだけど…」
「う、腕…」
あの箱の中に優勝賞品の宝石が入っているのか。
「光太…君は僕が想像していたよりも強い人だった。本当に、君を選んで良かったと思う…またこういう事があったら、一緒に戦ってくれないかな?」
「勿論だ…俺がもっと強くなったらだけどな」
「これから一緒に強くなろう」
ナインが俺を選んでくれた理由は単純明快。顔見知りの中で俺が一番弱く、だからこそ強くなれる可能性を見出した。
この先も一緒に成長出来るパートナーとして、俺を選んでくれたんだ。
しばらくして、ベラベラ話していた王様が俺達の元へやって来た。
「これが優勝賞品だ。受け取ってくれ」
「この箱、優勝した人にしか開けられない封印が施されてるよ。どんな宝石なんだろう…」
「開けてみようぜ」
箱を開けて光り輝く石がチラッと見えた。
そして次の瞬間、すぐそばでバギィン!と何かがぶつかる音がした。
「やはり狙いはこの石だったか!アン・ドロシエル!」
ノートがスーツを変形させて作った盾で、突如現れたアン・ドロシエルの攻撃を受け止めていた。
「ジゾルゴ・ウィア!」
そしてアンを狙ってバリュフが突風を放ち、上空に吹き飛ばした。
「な、なんなの急に!?」
「その石があいつの目的だ」
「これは…!」
ナインはその石を手に取って、じっくりと観察していた。しかしその間に、上空にいたアンが魔法を準備していた。
「これってばガルバストーンじゃないか!その強すぎるエネルギーから採掘した場合には適切な方法で処理する事が義務付けられてる禁断の石だ!」
「どうしてそんな物が優勝賞品に!?」
「そんな石だったのか!?」
国王が驚いていた。採掘した人もただ綺麗な宝石としか見ていなかったのだろう。
「無知な国王がガルバストーンを賞品にしたっていう噂は本当だったのね…それにしても役立たずなロイド。こうなるんだったら私直接が出るべきだったわ」
空を蹴った!宝石を狙ってアンが戻って来るぞ!
「ナイン!その石を奪われるな!守れ!」
ノートとバリュフが迎え撃つ背後で、俺達はボロボロなままフィールドから逃げ出した。
「どうするその石…」
「処理をミスれば時空が歪む程の大爆発を起こす。たとえ高い場所で爆発しても国の一つ簡単になくなるよ」
地上へと移動できる魔法陣の前へ来た俺達。しかし陣は崩れていて、ここから避難するのは不可能だった。
「こうなったらここで処理する」
俺の腰に巻いてあるバッグから、ナインは必要な杖を取り出して作業を始めた。
「光太、どこ行くつもり?」
「ノート達に加勢する」
「…ここにいて」
「そりゃあ俺なんかじゃ手も足も出ないやつだってのは分かってるさ!でも──」
「違う。そばにいて欲しいんだ」
魔法石を凍らせたナインは杖を持ち変えて、小さな電撃を当てていた。
「処理が失敗する可能性だってある…その時は一緒に死んでくれ」
「縁起でもないこと言うなよ。まあ、いて欲しいならいてやるけどさ」
加勢に行くなんて言ったけど、もう歩く体力も残ってない。医療チームは大怪我したロイド達を優先して治療して、俺達の怪我は残ったままなんだ。
ナインが作業を開始して数十分が経過した。すると大きな揺れが起こった。
「この魔力…魔獣だ!」
「まさかアンのやつが!?」
ナインは作業中だ。今度こそ俺が行くしかない。
「光太、無理だよその身体で!」
「お前はその身体でも頑張ってるんだ。なのに俺だけが何もしないのはダメだろ」
身体は痛い。それでも俺は、魔獣を倒すためにフィールドへ向かった。
「キャアアアアア!」
「魔獣だああああ!」
「ギャオオオオオ!」
観客席にいた人達がフィールドへ降りていた。
そして全身から銃を生やした魔獣が群衆に向かって叫んでいた。まさかあれが、ロイドの身体に付いていたやつなのか!
「流石に守りながらは厳しいな…」
ノートの盾は前よりもさらに大きくなっている。そして魔獣と戦っていたと思われるバリュフはボロボロになっていた。
「諦めてガルバストーンを渡した方がいいわよ。でなければこの子を暴れさせて、ドームを地上へ墜落させるわ」
「やれるものならやってみろ!」
獣の背中に付いた大砲がバリュフ達に向く。このままじゃまずいと、バッグから杖を取り出した。
「なんだこれ…えいっ!」
カパッ…
フィールドの地面が扉の様に開き、そこに立っていた全員が下へ落ちていった。ギリギリ通路側に立っていた俺は、落ちていく人々を見るしかなかった…
「…えええええ!?なんだよこの杖!」
大丈夫なのか!?
下を覗き込むと、ノートがスーツの形を変えて空中を移動し、一緒に落ちた人達を回収していた。
前向きに考えよう。この場から大勢の人を逃がす事が出来たんだ。
「変わった杖があるのね…面白いわ」
つまり、この場に残ったのは俺だけ…
「俺が戦わないといけないってことだよな!」
魔獣の銃口がこちらに向いたことに気付き、俺は元の状態に戻ったフィールドへ飛び出す。
そして今度こそ弾が発射され、背後の逃げ道は塞がれてしまった。
俺は魔獣の足元に向かって杖を振った。しかしどういう能力か一度見られているので、魔獣は足元が開く前にその場からジャンプ。
俺の立っているフィールドに飛び込んだ。
「そうだ、優勝おめでとう。お祝いにこの子とのエキシビションマッチを楽しんでちょうだい」
シュパァン!
観戦席に立っていたアンの首に、何かが巻き付いた。
「お前の相手は私だ」
「生徒会長!」
会長と狼太郎!あいつら残ってやがったのか!
「苦しいわ…やめてくれない?」
「気を付けろ会長!そいつ何かやるつもりだぞ!」
アンは二人に杖を向けた。まさか魔法を使うつもりか!
「魔獣を操る事に集中したらどうだ!?」
俺は杖で魔獣を狙い続け、足元にひたすら穴を開けた。アン本人は杖を向けたまま、何も行動をしていない。
「開け!開け!そこも開け!」
会場の床が開いては閉じるという現象を繰り返している。この間にも会長は縄の締める力を強め、アンに近付いていた。
「魔獣と関係があるのならここで殺す!」
「ううぅ…」
ドォン!
その時、魔獣がアン達に向かって発砲した!あまりにも素早い動きに反応できず、知らせられなかった!
「会長!狼太郎!」
強い風が吹き、黒い煙が去っていく。服が破れて火傷を負っても、会長は顔色一つ変えずにアンを捕らえていた。
「…この鞭、普通の物じゃないわね」
「この縄はナノサイズの装置が集まって出来た機械の集合体だ。お前の心拍数や体温は、脳にチップを埋めた私には手に取るように分かる」
「あらまあ、ハイテクなのね」
「そして!こういう風に電撃で焼き殺すことも出来る!」
ビリビリビリ!バチバチバチ!
会長がやった!アン・ドロシエルに電気が流れて、あいつの身体が真っ黒焦げだ!
「……うふふ」
「なに!?まだ生きてるのか!」
バチバチバチ!ビビビビビビビ!
さらに流す電気を強めるが、アン・ドロシエルは笑っていた。少しずつ会長に近付いていき、やがて彼女の首を掴んだ。電気を止めるのが遅ければ、会長に感電するところだった。
「くっ…」
「素敵ねあなた。その若さ、とても羨ましいわ」
「狼太郎!」
「うおおおお!」
狼太郎がアンにタックル。狼太郎は会長を抱き寄せると、威嚇するように大声で叫んだ。
「アアアアアアア!会長、大丈夫ですか!?」
「うん…助かった」
「痛いわね…」
ゴツン!
そんな痛がる素振りを見せるアンの顔に、何かがぶつかった。
「これは…エネルギーを抜かれたガルバストーン…!?」
「残念でした!もうそれはただの石ころだよ!」
ナイン!あいつ、ガルバストーンの処理に成功したのか!思ったよりも早かったな!
「…あら残念ね。まあいいわ。ここでパロルートの1人を殺せるのなら…やりなさい!」
しまった!魔獣はナインの後ろ側の観客席にいる!あいつはそれに気が付いてない!
「ナイン!逃げろ!」
ドォン!
魔獣の銃声…
いや違う!魔獣が真っ二つに斬られている!
「落ちたはずなのによく戻って来れたな…」
「ノートさんのスーツに不可能はない」
ノートが大きな剣で魔獣を切り裂いた!そしてアンはバリュフの拳を杖で受け止めている!
「そんなボロボロで…私に勝てるのかしら?」
「ジゾルゴ!」
魔法を予測したアンが後ろへ跳んだ!だがその後ろに回ったノートがスーツを構えている!
「逃がすかよ!」
「フレイア!」
持っていたスーツが大きな手へと変わりアンを力強く握り絞める。そしてさらに、バリュフの放った炎が彼女を丸焼きにした!
「ぐあああああ!」
「今だ!ノートさん!」
「ウオオオオオオオ!」
バチャリ!
アンの身体が握り潰された!…けど、頭が不自然なくらい高く跳ねた!
「ジゾルゴ・アロア!」
それを狙ってバリュフが矢を放つ。しかし突如、空中に穴が開き、そこから現れた謎の魔獣が頭を回収。すぐに身体を引っ込めて、穴が消えた。
「クソ!捕まえられなかったか!」
「一瞬、穴の向こう側に別の景色が見えました。それにしてもあんな魔獣まで用意しているとは…」
アンは撤退した。バリュフ達が来てからあっという間だが、とりあえず一段落したということだろうか…
「まあ、ガルバストーンが渡らなかっただけ良かったって言ったところか。ありがとうナイン!」
「…」
「バリュフ、お礼は?」
「高難易度と言われるガルバストーンの処理をしてくれたこと、心より感謝する。おかげで多くの命が救われた」
バリュフは深くお辞儀をした。なんかプライド高そうなやつなのに、あんな事が出来るとは驚きだ。
俺達はその後、ナインの魔法の杖で地上へと戻った。
さっき国王たちと一緒に落としてしまった灯沢は拗ねていた。悪かったとは思っている。
「あたし達はもう行くよ」
地上に着いたばかりだと言うのに、ノート達はもう旅立つみたいだ。
「ノート、どうして僕の本名を知ってたの?」
「それはね…あたしがお前達パロルートの上司だからだよ」
「…上司!?え、どういうこと!?」
「それじゃあまたな!あ、セナに会ったら伝えておいて!前の任務の記録提出すっぽかしてんじゃねえよって!」
ナインを驚かせたノートはバリュフと共に行ってしまった。
「パロルートに上司がいたんだ…」
俺はそもそも、そのパロルートの事もあんまり分かってないけどな。
俺達は身体を休める為に出発を明日の朝にし、宿舎へと戻った。
ナインはどうだか知らないが、俺は布団に倒れるとそれからすぐに眠ってしまった…