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第44話 「負けてねえ!」

「それではアップを始めてください」


 第二十九試合がこれから始まる。長い休憩時間があったはずだが、あっという間に過ぎて行ったらしい。


「ノートのよく分かんないスーツ攻撃と、対応力高過ぎのアローソーサラーのバリュフ…どうしようか?」

「あぁ…」

「光太しっかり!」

「おっおう!しっかりしてるぞ!」


 バリュフは今朝、勝ち進んだら俺に魔法を教えると言って来た。罠かもしれないと疑っている。それに実際に教えてくれるとして、そんな簡単に魔法が使えるようになるのだろうか?


 ナインの杖は予め使える魔法が決まっている。誰だって使えるんだ。

 だから俺は自分がどれだけ魔法の素質を持っているか分からない…もしかしたらこの試合でセンスゼロと判明してしまうかもしれない。


「光太~背中押してー」

「はいはい…」

「うーん…痛いよ…いたたたたた!」


 準備運動を終えて俺達は位置に着いた。瞑想をしていた相手もやる気100%という顔をしている。


「それでは第二十九試合、始め!」

「ジゾルゴ・ロックア!」


 呪文を唱えたバリュフの足元から無数の岩が発射された。俺とナインは岩の軌道から避けようと動き、意識せずに離れていた。


「こっちも杖で対抗してやる!良いの出ろよ~」


 ベチャリッ!


 開こうとしたウエストバッグに何かが付着した。ベトベトしていて、まるでトリモチみたいだ。


「あ、開けられねえ!」

「それは地底の大洞窟に巣を作るチテイアラグモの糸を丸めて作った粘着弾だ」

「つ、杖が使えない…どうしようナイン!」

「僕のバッグベトベトじゃん!?あいつ最低だな!」


 魔法の杖がない俺はただの弱い人間だ。やられないように逃げる回るしかない!


「ジゾルゴ・モギ・フロズア!」


 今度は巨大な氷が空中に多数出現。あいつ、杖もないのにどんだけ魔法使えるんだよ!

 落下して来た氷塊は真っ直ぐと並ぶようにフィールドに突き刺さり、俺とバリュフ、ナインとノートを分断する壁となった。


「光太!」

「君の相手はあたしだ!」


 向こうで戦いが始まってしまった…俺はこいつと魔法無しで戦わなければならないのか?


「唯一の択を失ったな。どうする、降参するか?」

「するわけ、ないだろ」

「そうだ。アン・ドロシエル降参はさせてくれない」

「アン・ドロシエルを知っているのか!?」


 そう言えばこの大会に出たのってあいつにチケット渡されたからだったな。今になるまでずっと忘れてた…

 しかしバリュフは質問に答えることなく、接近して攻撃を仕掛けて来た。


「やつらとの戦いは試合とは違う。負ければ死ぬことになる」


 魔法を使わずともバリュフは強かった。反撃の余地は与えられず、俺は回避に専念した。


「あぶねっ!」

「そして大勢の人が魔獣の犠牲になる。僕達に負けは許されないんだ」


 強烈な蹴りが炸裂し、俺はフィールドの壁に激突。バキッという音がした気がする。


「いってぇ…」

「…お前は強くならなければならない。そのためにもまず、ファーストスペルを知れ。ジゾルゴ・フレイア!」


 今度は炎を噴き出した!

 背中の痛みを我慢して炎から逃げたが、背中が妙に熱い。服を脱いで確かめると、背面が焦げていた。


「ファーストスペルってなんだ!」

「無数にある基礎の1つ。始まりの単語だ。ジゾルゴ・ライデア!」


 今度は電気の攻撃だ!速過ぎて避けられない!


「ウアアアアアア!」


 痺れる…!熱い!


「ライデアを受けても意識がある辺り、耐久力はあるみたいだな」

「ぐっ…!」


 俺はそれでも立っていた。サヤカ達にやらされた過酷な修行のおかげで、身体は頑丈になっていたんだとこの身で実感。

 あの修行、ちゃんと意味があったんだなぁ。


「アノレカディアの人間はそれが普通だ。感電してあっさり死ぬ元の世界の人間とは違う。無論、アン・ドロシエルもだ」

「お前…俺の世界の事も知っているのか?」


 こいつは一体何者なんだ!ただのエルフじゃない!


「…!」


 ラッキー!今の電撃でトリモチが炭化した!これなら杖を取り出せるぞ!


「これでも喰らえ!」


 確認もせず、俺は取り出した杖をバリュフに向けた。


 ドオオオオオオ!ファーンファーン!ブロロロロロ!ビイイイイイイイ!デュクシデュクシデュクシ!


 すると頭が痛くなる程の騒音が杖から発せられ、俺は思わず耳を塞いだ。


「くっ!なんだよこの杖!?」


 バリュフも嫌な顔で耳を閉じている。大きな耳だったし、音が弱点だったりするのか?


 パクパク…


 口を動かして何かを俺に訴えているが全く分からない。騒音が弱点なら、もう少し音を大きく出来ないだろうか…


 ピキ…ピキピキピキ…ガキィン!


 あまりの音に氷の壁が崩れた!これでナインと合流出来るぞ!


「え、ナイン…」


 ナインが倒れてる…あいつが負けたのか?


「ノートさん、どうでしたか?」

「仮にもパロルートの一員ってだけあって、魔法の杖がなくても強かったよ」

「ナイン!しっかりしろ!おい!」


 身体を揺さぶったが反応がない。気絶させられたんだ…それもこんなボロボロに…


「お前!ナインの名字をどうして知ってる!お前達は何者だ!」

「どうする?降参するか?」


 ナインが動けないんじゃ俺が戦ったところで勝ち目はない。それにナインと戦っていたノートはまだピンピンしている。


「ま…」


 ここまで来て降参か…悔しい…!


「…チッ!」


 参ったって言いたくねえ!


 ブブ…ブブブン…


 なんだ今の音…


 ブブブ…


 ナインの羽根の音だ。僅かに動いている。意識はないはず…痙攣的な事でも起こっているのか?


 ブブブブン!


 身体は既にボロボロだ。それでも動こうとする羽根は、まるでナインの戦うという意思を表してるみたいだった。

 ナインは戦えない…けどまだ俺は戦えるんだ!


「負けてねえ!誰が降参なんてするかよ!」


 ナインの意思を無駄にはしたくない!こうなったら俺は最後まで戦う!


「ノートさん。ゲートを準備した後、僕の後ろへ。あいつを殺すつもりでやります」

「え~!?こんなバリアで封鎖された場所でアレやったらあたし達まで喰らうじゃん!」


 ノートは手に持っていたスーツを上へ投げた。するとスーツは大きな輪になった。ドンハの時よりも大きな輪っかだ。


 強力な一撃が来る!


「メガント・ジゾルゴ・アロア!!!」


 バリュフが魔法の矢を上に向けて放った。今の呪文はドンハを倒した時の物!?それに単語が増えている!


 ゲートを抜けた矢は強く輝き、フィールドの中央へと向かって落ちていく。


「うおおおおお!ナイイイイイイン!」


 ナインを庇う事だけを考えていた俺は杖の存在を忘れ、身体を抱えて背を向けていた。


 ドオオオオオオオオオオオン!


 衝撃音がして身体が浮きそうな程の爆風が来た!なんて威力してるんだ!


「やっぱ無理かもおおおお!ナイ~ン!ごめええん!」


 降参すれば良かったかも!?このまま本当に死ぬんじゃないのか!?








「…お、終わった?」


 数十秒経った頃、バリュフの攻撃が終わっていた事に気が付いた。派手な技だったが大したダメージは受けてない!


「驚かせやがって!今度は俺の…あれ?」


 フィールドを見渡したが、敵二人の姿がどこにも見当たらなかった。


「いてて…このバカ!観客が怪我したらどうするんだよ…」

「反省します…僕も熱くなっていたみたいです…魔法の威力を上げ過ぎました」


 攻撃をしていたはずのバリュフは、ノートと一緒に観客席に吹っ飛んでいた。確か、フィールドと席の間には強力なバリアがあったはずだ…それを破る程の威力だったのか!?


「まさかあのバリアを破壊する人が出てくるなんて………あ!フィールド以外の場所に身体が付いたので、ノート選手、バリュフ・エルゴ選手は失格となります!よって勝者は…!」


 第二十九試合。勝利したのは俺たちだったが…

 そんなルールあったのか…説明の時、緊張し過ぎて全然聴いてなかったもんな。


「バリアが破る程の技も凄いけど…」

「それを耐えきったあいつは何者なんだ?」

「相手の自滅だけど、それでもスゲーよ!」


 …そうだナイン!


「この子お願いします!」


 ナインは回復魔法を受けても意識を取り戻す事なく、医務室へと運ばれた。

 俺は選手専用の観戦席に残り、今日ラストの試合を観ることに決めた。

 そばにいてやらなくて冷たいやつかと思うかもしれないがそれは違う。

 あいつはきっと大丈夫だ。だから俺は最後に戦う敵の事をちゃんと観察して、ナインに情報を伝えられるようにする。

 それが今、俺がやれる唯一のことだ。

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