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第42話 「棄権なんて誰がするか!」

「あー」


 あーあー…


 あーあーあー!


 やっちゃったな…1つのミスに強く言い過ぎた。けれどあの時、光太は危なかった。いくら回復魔法の使い手がフィールドの外で待機してるからって、ヘッドショットを受けたら死んでいたかもしれないんだ。


 いやーだとしても言い過ぎたな。どうしよう…今日あともう一回試合があるのに…

 謝ろう。うん、今すぐ謝りに行こう。


 そんなわけで自分達の控え室に戻って来たけど、扉の前で身体が動かなくなった。

 気まずい…許してもらえるかな。むしろギクシャクして試合に支障が出たりでもしたら…


「ごめん光太!さっきは言い過ぎた!」


 扉を開けてジャンプして部屋に入り、そのまま土下座の姿勢で着地。けれど光太は何も言わなかった。


 …いや、そもそも部屋にいなかった。どこに行ったんだろう。




 選手専用の観戦席へ戻って来た。僕達が倒した相手選手はいたけれど、光太はいなかった。

 次の試合までには戻って来るだろう。そう思い、僕は試合の途中から観始めた。


「ホホホホ…次の試合、よろしくお願いしますね」


 蛇の形をした頭を持つ魔族、ゴルゴー族の女性が声を掛けてきた。


「こっちこそよろしくお願いします」


 ゴルゴー族は2種類ある専用魔法の内、誰もが片方を備えている。1つは頭の蛇を自在に操る攻撃魔法スネークアサルト。もう1つは蛇を見た人物を石へと変えてしまう石魔法スネークロックだ。

 どちらを備えているかは頭部の蛇を見ればすぐに分かる。攻撃魔法なら蛇が本物の様にウネウネとしている。

 そして僕に話し掛けてきたこの女性は、頭の蛇が石像の様だった。つまり、スネークロックを使えるというわけだ。


「ホホホホ…心配せずとも、頭までを石にする事はありません。降参を告げる口だけは残しておいてあげますわ」

「どうも。けどちゃんと固めないと後悔する事になりますよ」


 この人のバトルスタイルはなんだ…?隣に座ってる人間の男性は大剣を使うみたいだけど。


「遅いな…」


 僕達の試合の1つ前、第十八試合目が始まった。光太はまだ現れない。何かあったのかもしれない。探しにいかないと…


「ホホホホ…どこか行くんですか?」

「組んでる人を探して来ます」

「ホホホホ…試合には間に合う様にお願いしますよ。不戦勝なんて嫌ですから」


 僕も戦わずして負けたくはない。早く見つけよう。


「光太~!そろそろ試合始まるよー!」


 どこに行ったんだろう。控え室にはいなかったし…


「ねえユッキー」


 僕は一般の観戦席にいるユッキー達に光太の事を尋ねた。


「黒金君、まだ来てないの?」

「さっき宿舎に行ったけどいなかったぞ?」

「臆して逃げたのだろう」


 会長が言うように逃げたとは思えないけど…


「何かあったの?」

「うん、試合の後にちょっと言い争っちゃって…別の場所探してみるよ」


 それからも会場を走り回ったけど、光太は見つからない。虱潰しに探していた僕はある場所に来た。


「人を探してるので入りまーす…」


 男性用のトイレだ。もしかしたら踏ん張っているのかも…


 そ~っと覗いてみたけど、個室の扉は全て開いていた。扉を開けっぱなしで踏ん張ってる人なんて流石にいないよね…


「いないか…」

「まもなく第十九試合が始まりまーす!ナイン・パティ選手と黒金光太選手は専用観戦席へお越しくださーい!」


 ヤバイ!このままじゃ本当に不戦敗で終わっちゃうよ!


 ガタッ…


「…!」


 一番奥の個室から音がした。用具が倒れたのかと思ったけど、用具入れ手前の個室だ。


「…光太!?」


 奥の個室を覗いて光太を見つけた!口と首から下が石化している!


「石魔法…まさか!?」


 あのゴルゴーがやったのか!?とりあえずこんな状態じゃ試合なんて出来ない!棄権しよう!


「……!………!」

「え!なに言ってるか分かんないよ!」


 僕に何かを訴えようとしている。まさか、この状態で試合に出るって言ってるの?


「この魔法を解くには術者本人を倒す以外に方法はない…出るんだね?」


 言葉は伝わらないけど、光太の眼差しから参加の意思を汲み取った。

 僕は重たくなった彼を抱えて、フィールドまでやって来た。


「なんだあいつ…身体が石になってるぞ」

「まさか呪いの類いか…」

「ホホホホ…そんな状態で勝てるんですか?棄権をお勧めします。もしかしたら、その呪いも解けるかもしれませんよ?」

「馬鹿言うな!棄権なんて誰がするか!」


 光太が証言出来ない以上、あいつを倒してこの場で石化を解かない限り、不正を証明する手段がない!


「油断するなビノ。あのサキュバスは最初の試合で相手を両方とも戦闘不能にしている」

「ホホホホ…」


 動くことの出来ない光太は戦闘不能な状態と見なされている。だから僕がやられたら敗けだ!


「第十九試合、始め!」


 貸したバッグすらも光太の身体から伝播して石になっている。杖は使えない、実力勝負になる。

 まずは剣士から倒すしかない。ゴルゴーのスネークロックに警戒しないと…


「アチョーッ!」


 なにいいいいい!?

 接近戦を仕掛けてきたのは剣士じゃない!ゴルゴーだ!

 下から打ち上げるような蹴りを顎で受けた瞬間に僕は目を閉じた。防御出来ないけど、石になるよりはマシだ!


「ホアタァ!タァッ!」


 胸に右ストレート、次に左脛にキックが入った!これ以上はダメだ!蛇と目を合わせないように頑張るしかない!


 そして開いた時、正面から炎を纏った剣が迫っていた。


「ヴギャアアアアア!」


 斬られた傷に炎が入り込んだみたいだ!熱い!苦しい!痛い!


 次の攻撃が来る前に、僕は羽根を広げて空へと逃げた。

 胸が痛い…


「おい!やめろ!」

「ホホホホ…ホアター!」


 ゴルゴーが固まって動けない光太に触れていた。流石に殺しはしないだろうけど、それでも近付いて欲しくない。

 身体の姿勢を調整して、ゴルゴーに向かって蹴りを狙って降下した。


 そう、僕はゴルゴーの頭を見てしまった。蛇の目が赤く光ると、羽根がだんだんと動かなくなっていった。


「オオオオ!」


 ベリリィイ!


 石化を始めてしまった羽根を千切った。しかし今度は羽根に触れた腕が固まり始めてしまった。


「ホホホホ…」


 今ので石化の仕組みは分かった。自分の意思で動かしてる部分からどんどん石になっていくみたいだ。

 現に動こうとしていない今、足は変わらないままだ!


「もらった!」


 そして剣士の一撃が背中を襲った。


「うぅ…身体が…」


 立ち上がろうとすれば、まだ動かせた部分が石になっていった。


「ホホホホ…頭だけは残しておきますわ。彼と違って口も動かせるようにしてあげましてよ」

「やっぱり…卑怯だぞ。試合前に石にするなんて…」

「ホホホホ…さあ降参を。さあ!さあ!」

「チッ…降参させてみろよこのブスッ!」

「…何ですって?」

「ゴルゴーは美人しかいないって聞いてたけど、お前はブスだなって!思ったんだよォ!」

「なんだとおおおおお!?」


 強く言い返したのは良いけど、審判がこちらに近寄って来てる。このまま僕が動かなければ、戦闘続行不可能と見なされて敗北だ。


「さっき蹴られたけど(クセ)えんだよ!もしかして!?水虫でぇぇぇすかああああああ!」

「もおおおおおお!」


 しかし、敵が攻撃を続けていれば試合は進行中と見なされて審判は口出し出来ない!


「やめろビノ!その子はもう戦えない!お前が暴れると判定勝ち出来ないぞ!」

「どうせ勝てるのよ!少しくらい痛め付けておかないと!」


 ゴルゴーの足が僕の顔を何度も踏み付ける。とても痛かった。

 ここから逆転出来る可能性なんて無いのに、勝負を長引かせる必要はあったのかな…


「気高きゴルゴーの美貌を侮辱したこと!死んで後悔するといいわ!ホホホホホホホホホホホホ!」

「やめろビノ!」


 ゴルゴーは跳ねた。まさか、両足で僕の身体を踏み付けるつもりか!?石化した身体がバラバラに砕けたら残るのは頭だけだ。その状態で石化を解かれたら…!


「ウグウウウウウ!」


 全体重が乗ったスタンプキックは痛かった。


 そう、石化して感覚がないはずなのに、僕は痛みを感じていた。


「どういうこと…どうしてスネークロックが解けてるの!?」


 この瞬間、僕は状況を理解しないまま攻撃に転じる。乗っかっていたゴルゴーを掴んで振り回し、近くにいた剣士を殴り付けた。


「私のスネークロックが効かないのおおおおおお!?」


 そして僕は再びゴルゴーの顔を見た。それでも身体が固まる事はなく、その憎たらしい顔面を殴る事に成功したんだ!


「え…えっと…両者気絶により戦闘続行不可能と見なし、この試合の勝者!黒金光太選手!ナイン・パティ選手ペア!」

「凄いなあいつら…片方動けないのに勝ったぞ」

「さっきまで石だった人間の方、あの変なつるはしが出てきたと思ったら急に元に戻ったんだ!」


 つるはし…?


 観客席の会話を聴いて、僕はようやく光太の方を見た。石化していた彼はゴルゴーを倒した事で元通りになった…のかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。


 彼はかつてアノレカディアに来た時に、僕が造ったつるはしを握っていた。石化して中身を取り出せないカバンの中に入っていたはずなのに…


「ナイン、あのさ…さっきは口答えしてごめん」

「それよりも…君は一体なにをやったの?」

「え…分かんない」


 このつるはしがあったおかげで、ダンジョンドラゴンの腹から脱出出来た。予選でも魔物が全滅してゴール出来たし、今も石化を解除してくれた…


 魔法の杖なのか?でも僕は加工してない。光太にその技術もない…


「もしかして、つるはし自体が魔法の杖として覚醒してるの…?でもどうして…?」

「………初めてこいつが力を発揮したあの日、俺はこいつをミラクル・ワンドって名付けた」

「ミラクル…」


 確かに三度も奇跡を起こした杖には相応しい名前だ。しかし一体この力は…




 今日の僕達がやる試合が終了した。明日2回勝って、明後日の決勝戦を勝つことが出来れば優勝!だけど…


 僕と光太はその後の試合を観ることなく、地上へと戻って来ていた。

 作戦やミラクル・ワンドの研究よりもまず、仲直りをしなければいけない。


「…疲れたな、今日」

「だね。僕達負けなかったね」


 多分、お互いに相手の事を怒ってない。それも分かってるけど、やっぱり話しづらかった。


「どうしてミラクル・ワンドは発動したんだろうな?」

「うーん………まずは何の変哲もないつるはしが魔法の杖、厳密には魔法道具に覚醒した理由を探らないとだね。覚醒の儀式や呪文の印とかの加工も無しで覚醒なんて最高ランクのSSS(トリプルエス)レベル…神器や宝具と言える代物だよ」

「それで──」

「発生させる魔法は炎や水などの属性魔法とは違う。僕の杖に多い事象魔法系に近い。これまで三度もピンチを切り抜ける事が出来たところに注目すると、本当に昔の戦で英雄が使ってた武器みたいだよ!」

「うるせえんだよなこの早口オタク!もっかいそのゴキブリみてえな羽根千切るぞ!」

「あ…あぁん!?人が丁寧に説明してやってんのにんだよその態度!」

「……………くふふ…はははは!」

「あ~あ!どうでも良くなったな。さっきこと」

「どうでも良くはないよ!本当、公式の試合で死ぬ事なんて珍しくないからね!」

「気を付けるよ。気を付けて勝つ。それで良いだろ?」

「それなら良い」

「ミラクル・ワンドが覚醒したんだ。もう負けないぜ!」


 まだ試合は残ってるというのに、肩の力が抜けてしまった。

 僕達の間に試合の時みたいな緊張感は必要ない。こんな風に気楽でいられたらそれで良いんだ。

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