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第41話 「観てて興奮した」

 予選試合の次の日。ネオエウガスドームのバトルフィールドに計32組のペアが集まっていた。

 人間と魔族のペア。俺とサキュバスであるナインもそこに立っている。


「緊張するな…」

「う、うん。僕もここまで大勢の前に堂々と立つのは初めてだよ」


 フィールドを囲むように造られた応援席は満員だ。名前を書いた旗を広げて応援する人たちもいる。緊張して進行役の説明が全く頭に入っていなかった。

 あ、灯沢達見っけ。隣の会長がつまらなそうに俺たちを見てるな。


 試合はトーナメント形式で進められる。既に初戦でどのペアが衝突する事になるのかも決まっているようだ。


「選手の方々は特別席からの観覧となります。第一試合はノート選手、バリュフ・エルゴ選手ペア対ブル選手、ワサビ選手ペアです」


 ルールの説明から試合までの猶予がない!


 トーナメント表には今名前が記入された。どうやら初戦では何番目に来るかはその時まで分からないみたいだ。


「試合前にアップが3分出来るみたい。これなら余裕を持って観戦出来るね」

「よく落ち着いていられるな…俺なんて身体の震えが止まらねえよ」


 さっきまで同じくらい緊張していたナインは呑気にお菓子を食べ始めていた。

 フィールドでは4名の選手が身体を動かしている。ノートとバリュフ、昨日の夜市で会った人達だ。どんな戦いをするのか、ちゃんと見ておかないと。

 対するのは人間のブルという男。それと頭部に獣耳が生えたワサビだ。獣人というやつだろうか。


「あの鋭い耳の形と鍛え上げられた身体。強そうだね」


 ナインの解説がないと何がなんだか全く分からないな。

 3分が経過すると選手達は動くのを止めて位置に付いた。


「それでは第一試合、始め!」


 審判が合図すると各々が動き出した。ブルとワサビは剣を抜いて素早く走り出した。一方でバリュフは弓を構えている。

 ノートは脱いだスーツの形が変化し、身体よりも大きな大剣になった。


「ハァッ!」


 ワサビがリーチの短い剣で連撃を仕掛ける。ノートは使いづらそうな剣を動かし、その攻撃を全て防御していた。


「もらった!」


 彼女の背後にブルが回り、剣を振り上げた!

 バリュフはブルを狙って矢を放ったが、どういうわけか触れる直前で何かに弾かれた。


「鎧を着ない代わりに防御魔法で身を守る戦い方みたいだ。その分、動きが速い!」


 そしてブルはバリュフに構うことなく、ノートの背中を斬り付けた!


「なにぃ!?」


 しかし剣が折れていた!よく見るとノートの後ろ髪が足元まで伸びている!それも伸びただけでなく硬くもなっているようで、そのおかげで刃から身を守ったみたいだ!


「あれも魔法なのか…?」


 ズサァ!


 ノートはその場で回転斬りを放った。ブルは深傷を負って倒れたが、ワサビは素早く後退して攻撃を逃れていた。

 そう、障害物となっていたノートから離れて、バリュフの狙いやすい位置へと。


 ピシュッ!


 バリュフの矢が腕に突き刺さ、ワサビは剣を落とした。


「…参った!」


「ワサビ選手が降参!ブル選手は戦闘不能によりこの試合、ノート選手、バリュフ・エルゴ選手ペアの勝利となります!」


 試合が決着すると歓声が上がった。そして傷を負ったワサビは救護係の魔法で傷を治され、気を失ったままのブルは医務室へ運ばれて行った。


「どうだった?」

「…すげえ。観てて興奮した」

「だよね~!やっぱり試合は観てて面白いよ!」

「それでは次の試合に移ります!」


 次の試合も見応えのある物だった。


「すっげー…こっちまで来ないよな?」

「観戦席を守るバリアとかあるんじゃないのかな?多分」


 全員が魔法使いで、威力の高い魔法のぶつかり合いだった。ナインには失礼だが、こいつの杖で起こすふざけた魔法と違って、炎や氷、風や雷などイメージ通りで凄くカッコ良い魔法ばかりだった。

 しかしいくら面白くても、第四試合までただ座って見ているだけだと流石に飽きてきた。


「はぁ…なんか緊張し過ぎて疲れてきた…ふああ~」

「大きなあくび。ちゃんと観戦しないと当たった時に負けちゃうよ?」

「第五試合!黒金光太選手、ナイン・パティ選手ペア対ブヘン選手、フィーン選手ペア!フィールドへ!」


 そんな風に油断していた時に俺達の番が来てしまった。


「相手の魔族は…なんだあのフワフワしてるの?」

「ゴーストだ。いきなり厄介なのと当たったよ」


 ゴースト…いつかの時に襲われそうになった記憶があるな。


 フィーンという名前のゴーストはずっと俺の方を見ている。あの目付き、俺が弱いってバレてるな。サッカーやってた時に俺のシュートが下手って気付いたキーパーと同じ目だ。

 俺達は準備運動しながら小声で作戦を練った。


「ゴーストの相手は僕がする。ちょっと失礼」


 ナインは俺が巻いていたバッグから杖を取り出した。


「ブヘンは銃を持ってる。光太はあいつの銃口を僕に向けさせないようにして。僕がゴーストを倒したら、ブヘンを袋叩きにしよう」

「おう…にしてもなんだその杖」

「ゴーストが苦手とする物の1つ、光属性の魔法の杖、フラッシュ・ワンドだよ」


 なんか俺、いらなそうだな…


「ナイン、やっぱりバッグはお前が持ってた方が良いんじゃないか?」

「…嫌だ!」


 幼稚な否定だった。理由は教えてくれないが、ナインはバッグを巻きたくないらしい。




「第五試合、始め!」

「え…!?」


 いきなりフィーンが消えた!


「ナイン、ゴーストが消えたぞ!」


 いや、あいつに呼び掛けている場合じゃない。役目を果たさないと…!

 俺が走り出すと、ブヘンはこちらに銃口を向けた。


「撃つぜぇ!痛くても文句は無しだ!防具を着てないお前が悪いんだからな!」

「防御しろっ!」


 引き抜いた杖の種類も確認せず、俺は防御することを強く指示した。すると目の前に大きな岩の壁が出現し、弾丸を防いだ。


「これは…岩を操る杖か!」


 こいつは大当たりだ!床が変形して防壁になったぞ!これでなんとか、あいつの銃弾を凌ごう!


「防具を着てないのはお前の銃弾を喰らわないからだ!このバーカ!」

「なんだと!」


 バン!バン!バン!


 僅かに身体を出して挑発すると、それに乗ってブヘンは俺に発砲した。


 バン!


 無駄撃ちしたな!

 そう裏側から叫んでやろうと思った。しかし…


「う…なんで…」


 なんでだ…俺の腹に銃弾が命中している。ブヘンは変わらず、壁の向こう側いるはずなのに。


 バン!バン!バン!バン!バン! 


 壁に穴が開いた!?魔法で威力を上げたのか!とにかく壁を厚くしないと…!


「焦って壁を厚くしたって事は、何発か命中したみたいだな」


 いってぇ…!絶対に大丈夫だって油断してたらこれか。最悪の気分だ。

 ナインはひたすら杖を振り回して光の粒子でフィールドを埋め尽くそうとしている。フィーンは一体どこだ?


「…!?」


 か、身体が勝手に動く…なんだ!このままだと壁の外に…ナインを呼ばないと…


「…!…!」


 声が出せない!

 僅かに残った力で、身体が進む先にひたすら壁を増やした。弾丸は壁を突き抜けるが、運良く命中していない。


「光太?…まさか!」


 気付いてくれたかナイン!流石だナイン!やっぱりピンチの時に頼りになるぜ!


「ぐへぇ!」


 そして駆け付けたナインは持っていた杖で容赦なく俺を殴った。


「何すんだよ!…あ、喋れた」

「ゴーストに身体を操られてたんだよ!」

「なんだよその能力!先に言いやがれ!」


 俺の身体から出てきたフィーンに向けて、ナインは光の槍を何本も発射し、紙を画鋲で固定するように、フィーンの身動きを封じた。

 その周りには光の粒子も散布されていて、逃げ場は無い。


「あいつの銃弾やばいぞ。壁を貫通してくる」


 バキュン!


 今も俺の頭上を、壁を突き破った弾丸が通り過ぎていった。


「僕が囮になる。光太があいつをやっつけるんだ」

「お、俺にそんなこと出来るのか!?」

「出来るよ!それじゃあ行ってくる!」


 ナインは壁の陰から走り出していった。すると標的が俺からナインへと変えたようで、彼女を狙った弾丸が連射された。


 ナインは身軽に動いてブヘンからの弾丸を避けていた。しかし壁で跳ね返った弾が脚に命中し、途端に転んだ。


 今しかチャンスはない!


「まずはひと──」

「ボオオオオオオオオ!」


 俺は杖の能力などすっかり忘れて、走ってブヘンに近付いてからひたすら殴っていた。


「なんだこいつ!?イテェ!」

「ヤアアア!」


 もうやるしかない!反撃される前に気絶させてやる!


 俺はひたすら殴った。


「このガキ!調子に乗るなよ!」

「ウワアアアア!?」


 銃がこちらに向く直前、気合いで駆け付けたナインがブヘンをフィールドの壁へと殴り飛ばした。


「いったぁ~!」

「ナイン!大丈夫かよ!?」

「撃たれて大丈夫なわけないじゃん!…うぅ…」

「ブヘン選手は気絶!フィーン選手は行動不能!たった今、降参の意思表示を確認しました!よって勝者!黒金光太選手、ナイン・パティ選手ペア!」


 なんとか勝ったけど…ナインが来てくれなかったらヤバかった。




 控え室に戻った俺達だったが、勝利の喜びを分かち合う事はなかった。


「ちょっと光太!どうして魔法を使わなかったの!そのロックハンドル・ワンドならフィールドの素材を操って攻撃することが出来た!実際にそれで壁を造ったじゃん!」

「わ、悪い…テンパって殴ることしか考えてなかった」

「僕が囮になるって言ったよね?だったら光太は僕の心配じゃなくて攻撃することを考えれば良いの!脚が撃たれても僕には羽根がある。動けるんだよ?それなのに君は…」

「人が心配してやったのに説教はないだろ!」

「あるよ!あそこで君が撃たれたらまず動けなくなってた!今度は僕がやられて負けてたんだぞ!」

「う…勝ったんだから別に良いだろ!」

「こんなんじゃあ次の試合勝てるか分かんないよ!」


 ナインが控え室から出て行った。俺は魔法で傷のなくなった腹に手を重ねていた。大丈夫、もう痛くない。


「はぁ…やっちまったな」


 ナインの言う通りだ。もっと冷静になって戦えば良かった…それよりも逆ギレって最低だな。何をやってるんだ俺は。


 謝らないとな…


 次の試合、こんな状態で勝てるのか…?

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