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第40話 「なんとかしないと!」

 国王による大会の開催が宣言された後、今日行われる予選試合のルール説明が行われた。


「まず予選試合では諸君らは戦わない!空を見ろ!」


 なんだ…空に色んな形の物体が浮いている!さっきまであんな物はなかったぞ!


「スタートの合図と同時に諸君らには一番上のネオエウガスドームを目指してもらう!本選に行けるのは先着32組まで!最後のペアのゴールが確定した時点で間に合わなかった者達は敗退となる!道中、殺し以外は何をやっても違反とはならない!」


 目の前のドームで殴り合うのかと思ったら、最初は上に向かって競走かよ…ナインはともかく、俺は良い杖を引き出さないと出遅れるな。


「あと妨害用の魔物がいる!気を付けろ!」


 説明が終わる頃に予選開始の合図が出るだろう。ナインに手招きされて、俺はなるべく人の集まってない場所へと移っていた。


「良いのかよ?足場から離れちゃって?」

「足場の奪い合いから蹴落とし合いになるのはまず間違いない。僕達はなるべく足場を使わずにゴールを目指す!」


 確かにあの足場の数と大きさだと、力の弱い俺なんかじゃ簡単に追い出されるだろうな。


「だから光太、良い杖引いてよ!」


 ナインと違って俺はウエストバッグから引き抜く杖を選べない。まずは運が試されることになる。


「それでは予選試合…スタート!」


 合図と同時に飛行能力を持つ選手たちが一斉に飛び立った!もう決着がついてしまうのかと思いきや、そんな彼らを無数の魔物たちが迎え撃ち、早速負傷している人もいた。


「光太、ボーッとしない!」

「あ、あぁ!」


 呆気に取られてる場合じゃないな!

 保険も兼ねて2本を右手で掴み、バッグから取り出した。


「なんだこれ!?いきなり知らないやつ引いたぞ!」

「物を大きくするビッグスケール・ワンドと成長を早めるグローアップ・ワンド!」


 これじゃあ上に行くことなんて出来ない。いきなり引き直しか!


「待って光太!それで周囲の植物を巨大化させてから成長させるんだ!」

「そうか!ジャックと豆の木みたいにデカイ植物で上まで行くんだな!」


 流石は杖の持ち主だ。どういう風に工夫すれば良いかすぐに考え付いてしまう。

 俺は言われた通り、周囲の植物を大きくして葉っぱに乗った。それからグローアップ・ワンドを振って空へ上がり始めた。

 それじゃあ足場を使う皆さん!頑張ってくださーい!


「グローアップ・ワンドは対象を君が願ったように成長させる!ひたすら高く成長するようにイメージするんだ!」

「大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ…」


 植物のエレベーターが俺達を上へと連れて行く。このままゴールまで一直線だ!


「火の矢だ!」


 ナインが叫ぶと、俺達の乗っている植物に火が付いた矢が刺さった。このまま燃やされてはたまらないと他の植物に飛び移るが、移った先の物にも火が付けられた。


「飛ぶよ!」


 俺達はやむを得ず足場に飛び移った。この高さまではまだ誰も登って来ていない。ここで良い杖を引いて更に上へ行かないと!


「ドゥルルルルル!ジャン!」

「テレビジョン・ワンドとアンテナ・ワンド!電気も無いのにどうするやって観るつもりだよ!」

「ってことはハズレかよ!」


 出したばかりの物を戻してガサゴソとバッグの中をかき混ぜてからもう一度、俺は杖を引いた。


「今度はなんだ!」

「それは雪を降らせるスノー・ワンドと──」

「だったら!」


 ただ上に向かうだけがこの試合の戦い方じゃない。俺は杖を下に向け、自分達より低い位置に雪を降らせた。雪はすぐに積もり、足場は真っ白になっていた。


「これで滑るから、少しは時間が稼げるだろ。それでこれは…トランポリン・ワンド!」


 指定した位置をトランポリンに変えて高く跳べるように出来る杖だ。けれど、スノー・ワンドで魔力を使っちゃったからなぁ…


「なるべく広く…!」


 上手く出力を調整し、体内の魔力がなくならないレベルでトランポリンを生成。ナインは俺を担ぐと、ジャンプして勢いを付けて中心に飛び込んだ。

 そんなことよりもナインの羽根が動いている!こいつの羽根、飾りじゃなかったのか!?


「トランポリンが破れるギリギリまで!」


 すぐに跳び上がらず、ナインが羽根を動かしてトランポリンの深くまで沈んだ。


「今だ!」


 ビュン!


 羽根を止めた瞬間、トランポリンから吐き出された俺達は一気に真上へ跳んでいった。


「凄いなその羽根!飾りじゃなかったんだな!」

「僕の顔と違ってブサイクだからね!あんまり使いたくなかったんだよ!」


 それをこういう形で披露するとは、お兄さんの会いに行った時に何かあったのだろうか。

 それにしても速い速い!このままゴールに一番乗りだ!


「っておい!?ゴール過ぎたぞ!」

「勢いを付けすぎた!ブレーキ!ブレーキ!」


 ナインが再び羽根を動かして減速する。俺も適当に抜いた杖を振ってブレーキを試みた。


「…何も起こらねえぞ!ハズレかよ!」

「馬鹿!それは!」


 足元から何かが近付いて来ている。まさか俺たち以外にもゴールを通り過ぎた馬鹿がいるのか?


「ゴオオオオ!」

「魔物!?魔物が来てるぞ!」

「君がそのハニースメル・ワンドで呼び寄せちゃったの!」


 なんか甘い香りがする。これで魔物たちを引き寄せたのか!これじゃあ下にいるやつらがどんどん上がって来ちまうぞ!


 ナインが魔物に応戦している間に、投げ捨てられた俺は落下を始めていた。このままだと魔物に喰われるか、身体をぶつけて死ぬ!


「レッドドラゴンフライもいたのか!グハッ!」


 しまった!ナインが巨大なトンボに噛み付かれた!


「俺のせいで…なんとかしないと!」


 慌てていた俺は1本だけ掴み、バッグから取り出した。これが良いのじゃなかったら俺達は終わりだ!


「これは…」


 ミラクル・ワンド…そう名付けたつるはしが出て来た。これでなんとか…なるのか?


「ナインを助けやがれえええ!」


 俺はつるはしを振った。しかし何も起こらなかった。あんなに勢いよくここまで来たのに…ダメだったのか?


 すると突然、つるはしは俺の手から飛び出して魔物に突撃していった。


「光太!」


 解放されたナインは怪我をしているのに俺を抱えて、傷付いた羽根を動かして降下した。


「ゴールしてるペアがいる!ちょっとスピード上げるよ!」

「間に合うか…?間に合ええええ!」


 ネオエウガスドームに着地と同時、ナインは地面を蹴ってゴールゲートを潜り抜けた!


「どうだ!?」


 するとナインのポケットからチケットが飛び出し、ミシン目から2枚に分かれて2人の手元に戻って来た。


「13組目が到着しました!残り19組です!」


 嬉しいアナウンスが流れた。


「やったああああ!予選突破だよ!」

「あぁ!最後はどうなるかと思ったけど、上手く行ったな!」


 よっしゃあああああ!まずは予選を突破だ!


 遅れてやって来たミラクル・ワンドはそのままバッグの中に飛び込んでいった。またお前に助けられたな。


 息が整わない内に係員が来て控え室の前へ案内された。部屋の扉の隣には真っ白な紙が貼られていた。


「こちらがあなた達の部屋になります。その紙に名前を記入してください。それがあなた達の選手名となります…卑猥な名前はやめてくださいね」


 係員にペンを渡されて、二人の名前を書いた。俺の名前を漢字で書いちゃったけど伝わるだろうか。


「それでは人間のあなたは黒金光太選手、魔族のあなたはナイン・パティ選手と、本大会ではお呼びさせて頂きます。」


 係員か離れていくと、ナインは小さな声で尋ねてきた。


「僕偽名にする必要あった?」

「前に本名晒して嫌な思いしただろ」


 ナイン・パロルートであることが悟られないように気を付けないとな。




 足場の奪い合いがヒートアップしたらしく、予選試合が終わる頃には日が暮れていた。


「あれ…生徒会長達は予選落ち?それもギブアップ?残念でしたね!」

「黒金君、君にはスポーツマンシップという物がないようだな」

「俺が足引っ張っちゃって…」

「狼太郎、お前はよく頑張った」


 まあ二人がゴール出来たとしても、付着している魔力で種族を確かめるチケット審査で引っ掛かっていただろう。どっちにしろ、本選には行けない運命だったわけだ。


「会長さん!俺達は試合を頑張るので、会長さんは応援頑張ってくださいね!」

「…チッ」


 眉間にシワが寄ってるぞ~!フッフッ~!悔しいだろうなあ~!


 対戦相手は明日発表される。今度こそ本格的な戦いになるだろう。そのためにも使える杖を増やしておかないと。


「そうだナイン、お前の杖についてもっと教えてくれないか?」

「うん!色んな戦い方を出来るようにしておかないと!」


 ワープ装置で地上のドーム前へ戻り、俺達は早速特訓を始めた。

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