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第4話 「穴堀りせにゃならんのだ」

「知ってる光太?この単端(たんたん)市には昔の将軍が残した宝が埋まってるんだって!」

「ソースは?」

「バラエティ番組。さっきやってた」

「はいダウト。テレビでやる時点で胡散臭い。日本のマスメディアをナメるな」


 さっき夕食を食べてた時、ナインが凄い真剣な表情でテレビを観ていたのはそれが理由か…

 嫌な予感がしてきたぞ。


「絶対あるって!ねえ!見つけたいから僕のバッグを返してよ」

「てめぇそっちが目的だろ!やなこった!」


 怒鳴ってはいるが実際、バッグを返した後の報復が怖い。取り上げた後に散々殴ったからなぁ…


「ねえ宝探ししようよ~!宝欲しい~!ね!明日休みだし行こうよ!」

「やるなら1人でやれよ。なんで学生が貴重な休日使って穴掘りせにゃならんのだ」

「お願いだよ~このままじゃ話が進まないよ!」


 それからしばらく粘られて、あまりにもやかましいので俺は折れてしまった。


「分かったいいよ。見つからないだろうけど協力してやるよ。はぁ…」

「うわぁ嫌な言い方!ありがとう」

「ただし魔法の杖を使うのは俺だ。なにかあったらこの袋を中身ごと燃やす」


 こうなったら適当に付き合って早く切り上げよう。




 そんなわけで次の日。朝っぱらから叩き起こされたのですぐに身支度をして、マンションを降りた。


「ダウジング・ワンド。これだったよな…地雷探知機にしか見えないんだが…」

「気のせいだよ」


 機械的な見た目をしているが魔法の杖だ。

 俺は早速、円盤型の部分を地面に向けた。これで見つけたいと思ってる物が真下にある時、音を鳴らして知らせてくれるそうだ。


「とりあえず街中を歩き回ってみよう!」

「え、これ持って人前出歩くの!?やだよ!不審者じゃん!」

「そう言うと思って早朝にしてやったんだ。これ以上文句垂れると玉取るぞ?」


 そっかー、気が使える優しい子なんだな、ナインは。


 当然、宝など見つかるわけもなく5時間ぐらい街を歩かされた。


「見つからねぇ…」

「次はあの山に行ってみよう!」


 山って…そう言えばずいぶん遠くまで来たな。


「あそこになかったら帰ろうな?日が暮れるまでに帰りたいからさ」

「分かったよ。もう飽きてきたしあの山になかったら諦めよう」


 飽きてきたってこいつ…!誰のせいでここまで歩く羽目になったのか分かってんのか?


 山の中を俺達は進む。人の手は一切付けられてないので歩きづらいし、転んだら大怪我しそうだった。


「おっとと!」

「おい大丈夫か!」


 ナインが滑り落ちそうになる。慌てて腕を掴んだ俺は、力いっぱいに身体を引き上げて安全な場所に移した。


「遊びに来て良い山の斜面じゃねえな…」


 朝から歩いて疲れているはずなのに、我ながらよくここまで歩いて来れたものだ…


「ピー!ピー!ピー!」

「鳴ってる…ダウジング鳴ってるぞ!」

「本当だ!」


 ま、まさかマジで宝がここに?そしたら本当に俺たちは億万長者だ!

 地面を掘りやすそうな杖を取り出して、足元の土を掘っていく。

 しばらく掘り続けていると、ナインの杖が硬い物にぶつかった。


「石かな?」

「いや違う!壺だ!」


 足元には壺が埋まっていた。緩い蓋が外れないように紐で結ばれていて、多少剥げてはいるが形も綺麗だ。


「待ってまだ開けないで!家に帰って開けよう!転送魔法の杖があるから!」


 ナインはバッグを漁って杖を取り出した。それを振った次の瞬間、俺達は自宅の玄関に立っていた。


「ヒヒヒヒヒ!酷い顔だよ!」

「へへへへへ!そっちこそ!」


 笑いが止まんねえ!今の俺ってば、どんな顔してるんだろう!


「開けるぞ…」


「うん…」


俺は紐をほどいて、ゆっくりと蓋を開けた。


「おっひょおおおおお!」

「あひゃー!?」


 壺の中には歴史の本で見るような金の小判が大量に詰め込まれていた。それも封が完璧だったので状態もかなり良い!


「早く電話しよう!取材して有名人になってからこれ売って、僕たち億万長者だ!」

「落ち着けナイン!いいか、この日本という薄汚れた国にはな、金を搾取するためにセコい法律が沢山存在するんだ。きっと普通に売ったら税金やら政治家の飯代としてほとんど搾取されるだろうよ。お前、物品をその場で金に出来る魔法の杖って持ってないか!?」

「あるよ!あるある!僕の世界にもそういうセコい法律あるし、君が望んでる杖だってここにあるよ!はいっ!金銀財宝換金魔法の杖!」

「ちゃんと日本の金になるんだよな!」

「うん!使用した土地の通貨にしてくれるよ!」

「後からデメリットで痛い目見るとかナシだからな!」

「魔法の杖はほとんど僕が作ったんだ!デメリットなんてないよ!」


 ならば後は…上手く行けよ魔法!本物であれよ金貨!


「「えいっ!」」


 この瞬間、神がいると俺は信じた。奇跡が起こったのである。

 目の前にあった壺と共に金貨が消え、そこに札束のピラミッドが現れたのだ!


「あ…あああ………あああああああ!?」

「あ…あああ…」


 驚きの余りナインの顎が外れた!いやそれよりも、一体いくらなんだ?


「俺達億万長者だぜ!」


 本当にこんなことがあるのか!?夢みたいだけど夢じゃない!働いてる人間を馬鹿にするような話だが、宝探しで大金ゲットしたんだ!

 グッバイ不景気!ハローゴールドデイズ!


「おいナイン!着替え終わったか~?」

「光太の服、サイズは良いけどダサいね。後で服も買わないと…この大金でさあ!」


 夕飯は焼き肉だ!不味くても良いから高い肉を食いにいくぞ!

 俺の服に着替えたナインもご機嫌な様子だ。


「ところで光太!」

「なんだい?」

「これって僕のおかげだよね。そのお礼にバッグ返してよ?」

「はっはっはっ!道具を効率的に使った俺のおかげと言ってもらおうか!」


 扉は開けてやるがバッグは返さない。そうして外廊下に出ると、下のフロアから子どもの泣き声が聴こえてきた。


「どうしたんだろう…」

「うああああああ!うあああああ!」


 叱られたとかそんなんじゃない。何かヤバい気がして、俺達は声の元へ向かった。

 子どもは玄関の前で泣き叫んでいた。


「うあああああ!あああああ!」

「どうしたの?大丈夫?光太、扉の鍵は開いてる?」

「うん、開いてる…」


 子どもが指を向けていた扉から、部屋の中へと土足で入っていく。そしてリビングには、子どもの母親と見られる女性が倒れていた。


「大変だ!人が倒れてる!」

「病院に連れていこう!」


 魔法の杖が初めて人の役に立った。家に帰る際に使用した転送魔法の杖。あれを使って俺達は、母親と子どもと共に近所の病院へと飛んだ。

 突然俺達が現れたことに病院の人達は困惑していたが、彼らはすぐに母親を受け入れてくれた。


「大丈夫?落ち着いた?」

「うん…お母さん、急に倒れちゃって…」


 子どもの面倒をナインに任せて、俺は医者と駆け付けた親族に事情を話した。


「妻は!妻は助かるんですか!?」

「はい…しかしこの脳に出来た異物を取り除くには、ここよりも充実した医療機器のある病院。そして大勢の医者の力を借りなければ…」

「ということは…」

「かなりの費用が必要で…保険に入っていたとしても…」

「こ、こんなに…!?」


 子どもの父親は資料を見て戸惑っていた。一体、どれだけ高額なんだろうか。


「お金あるよ」

「金ならある」


 しかし俺達には金がある。いくらか分からないが、きっとその人を助けるには充分の大金が確かにある。


 そう口では説明出来なかったので、ナインの魔法で金を全て運んでとにかく手術を頼み込んだ。



 手に入ったばかりの大金は全額医療費になった。女性はすぐに別の病院へ移された。金は足りるのか。女性は助かるのか。俺達が知ることはないだろう。




「金…なくなっちまったな」

「今夜はカップ麺にしよっか」


 せっかく宝を見つけて手にした大金がなくなったと言うのに、俺はスッキリした気分だった。きっと、金の使い方を正しいと信じているからだ。


 ナインもきっと同じ気持ちだろう。こいつは俺よりも先に大金を手放す決心が出来ていた。いや、病院に連れて行った時点で費用として出すつもりだったに違いない。


「あのね…僕、お兄ちゃんがいるんだ。8人」


 いや多いな。いきなり話が始まったかと思えば兄が8人なんてカミングアウトされてビックリするわ。


「いつも誰かの為に立派に戦ってるんだ。僕もそんな風になりたかったんだ。だからこの世界に修行に来た」


 立派なサキュバスになるために修行に来たって言ってたけど、そういう理由があったのか…


「まあ!一回人助けしたぐらいじゃまだまだだな!」

「そんなの分かってるよ!馬鹿にしないでよね!」

「けどいつか、なれると思うぞ」

「なるよ。僕は」


 バッグを返してやっていいかも?さっきのお前はそう思わせるぐらいにはカッコよくて立派だったぜ。

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