第38話 「はい…」
「ただいまー!」
昼頃、ナインが帰って来た。昨日はいなくて寂しく感じたけど、いざそのやかましい顔を見るともう2、3日いなくても良かった気がする。
「おかえり。お土産は?」
「サツマイモクッキーとサツマイモタルト、あとヤマタノビジョタチのライブ映像詰め合わせスペシャルディスク」
前2つはサツマイモダブってるし、最後のやつはなんなんだよ。
「ところで光太。大会開催まであと一日だよ。早く用意して出発しよう」
「そう言うと思って支度しておいたぜ」
「さっすがー!」
「俺の荷物だけな」
次の瞬間、バッタの様に跳ねたナインの膝蹴りが俺の顔面に炸裂した。
ナインは帰って来て休む様子もなく、すぐに支度を始めた。当然俺もそれを手伝わされた。
「はいこれ、リュックに入れて」
「はい…」
本来、ウエストバッグには魔法の杖以外にも色々収納出来るそうだが、そうするとややこしくなると、杖以外は入れないようにしているらしい。そしてまだ謎多きボディーバッグは、そもそも出す事だけを目的に作られているので何も入れられないみたいだ。
「はいこれも」
ナインの大きなリュックがあっという間にパンパンになった。たかが大会に出るのにここまでの物が必要になるのだろうか。
準備が完了してから、ナインと一緒に下の部屋の住人達へ挨拶に行った。
「それじゃあ僕たちはしばらく留守にするよ。その間は──」
「うん。こっちの世界の事は任せておいて。頼めば星河も協力してくれるし、心配はいらないよ」
サヤカ達は魔獣が現れた時に備えて今回は留守番だ。水城も仲間に加わったことで、ナインがいなくても大丈夫だろう。
「学園での実技じゃ負けまくってたけど…今のナインなら勝てるって私は思うよ」
「勝てるよ!光太も一緒だから!」
こいつは俺に一体なにを期待しているのやら…まあ、やるからには頑張らないと。
「私達も同行させてもらおうか」
外へ出た時、生徒会長と狼太郎がアパート前に立っていた。
「困りますよ生徒会長さん、魔獣が出た場合に対応できる人はなるべく減らしたくないですから」
「私は君の仲間じゃないし配下でもない。どうするかは私達で判断させてもらう」
「お願いだナインちゃん。俺達もアノレカディアとかいうのに連れていってくれ…アン・ドロシエルと戦うのに、会長の力は必要不可欠だ!」
「狼太郎、私は彼らと協力する気は──」
「まあまあ会長!ここはね!」
俺は何も言わずにナインの回答を待った。二人の事は好きじゃないので、出来れば同行を拒否して欲しい。
「どうせ拒んだって来るんでしょう?その代わり、僕達の邪魔だけはしないでくださいね」
「向こうへ渡る手段を貸してくれる事だけには礼をしよう」
ナインがそう言うなら仕方ないか…それにしてもギスギスしてるなぁこの二人。
「…学校どうするんですか?」
「生徒会長権限で校外学習をしていたと、先生達に報告しておこう」
たかが生徒会長にそんな権限があるのか。全く、羨ましい限りだ。
俺達はアノレカディアへ渡るゲート、アノレカディア・ワンドの前に立った。
「…どうしたナイン?」
「いや…なんか人の気配がするような………気のせいかな?」
「これで異世界へ行けるのか。ふむ」
生徒会長が一番に向こうへ渡り、それを追って狼太郎もゲートを潜る。
そして遅れながら、俺達もアノレカディアへと移動した。