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第37話 「えっと…つまり?」

 ナインが帰ってくるまでの間、ターゲット・ワンドで召喚した的に向けて魔法の杖を振っていた。


「はぁ…はぁ…」

「少し休憩にしましょうか」


 疲れた…元々の魔力が少ないから、少し振っただけですぐに体力が尽きてしまう。今はただ横になっているだけだが、昨日は限界まで振ったら気を失って倒れたそうだ。


「魔力も体力も元を辿れば全て力。力そのものを意識すれば、コントロールや威力の調整も出来るようになるわ」

「俺は素人だ。まずはお疲れ様とか言ったらどうよ…結構ツラいぜこれ」

「光太君には素質がある…と思う。だから厳しく言うのよ」


 ナインから俺が修行していると聞いて駆け付けてきた水城星河。彼女のアドバイスもあって、上達は早い気がしている。


「ところで異世界の大会、私も光太君の応援に行きたいな~?」

「ダメよ。あんたは戦えるんだから私達とこの世界に残るの」


 水城の頼みを拒否したツバキが俺の腕を掴んで立ち上がらせた。


「ほら、すぐに倒れない」

「へいへい」

「あーっ!私がそれやりたかったのに!」

「耳元で叫ばないでよ!鼓膜破れるでしょ!?」


 はぁ…うるせえ。


「こら二人とも。光太がうるさそうにしてるから静かしないと」


 サヤカに注意されると二人は静かになった。さて、俺もそろそろ修行を再会するかな…


「次の杖は…」

「待った光太。魔法の杖の修行は一旦ストップだ」


 ジンは俺の腰からウエストバッグを外した。


「え、どうしてだ?なるべく多くの杖の使い方を覚えておかないと…」

「焦るなって。どれだけ急いだって全部の杖に触れられるわけがないし、ここまで使ってきた杖が本番で出るとは限らない。ナインの杖を使うために最も大切なのは対応力だ」

「君の場合、どんな杖が出てくるか分からない。それに自分にとって良い杖が出ても、それが相手に通じるかどうかは別の話だから」


 確かに、ナインのバッグの中にはまだまだ未知の杖が入っている。相手に合わせて杖を選べるほど器用でもないし、臨機応変に動くのが重要になってくるだろう。


「…それでこれからどうするんだ?」

「ここからはお勉強。ソードマジックについて説明しようか」


 ソードマジックって…確か、ナインとツバキが、白田にやってたプロレス技みたいなやつか…あれって結局なんなんだ?


「…あの、ソードマジックって何?格闘技なの?」

「ソードマジックは深く考えちゃいけない。そうだな…ツバキ、お前魔王役ね」

「はぁ!?いきなり何よ!」


 そうしていきなり、勇者ジンと魔王ツバキの最終決戦が始まった。


「魔王ツバキ!お前の野望もここまでだ!」

「ぐっふっふ…はっはっはっはっ!」

「俺の必殺技を受けてみろ!」

「はっはっはっはっ!あっはっはっはっ!」


 勇者は喋ってるのに魔王の方は一生楽しそうに笑ってるんだけど。ツバキのやつ、あんな笑顔が出来たのか。

 ジンは柄と鍔のない刃単体を召喚すると、それを握りしめて走り出した。ツバキはシールド、ツカサはロッドを召喚してたけど、ジンはブレードを召喚出来るのか。

 

「ソードマジック!ブレードスラッシャー!」

「あっはっはっはっ!ぐっふっふっふ…」


 いや魔王笑いながら倒れたけど…てか血が垂れてる!どっちのだ!?


「いって~…あんまり使いたくないんだよなこれ」

「ちょっと!峰打ちしなさいよ!浅いけど切れたじゃない!いったーい…サヤカ!治して!」

「はいはい」

「いやどっちもかよ!」


 サヤカは魔法を使って二人の傷を癒した。そういえば彼女はどんな武器を召喚するんだろう。


「戦いにピリオドを打つ力。これがソードマジックだ」

「いや、今のクソみたいな劇だけじゃ微塵も伝わってこなかった」

「えー…まあ俺はソードマジックの経験ないんだけどね」


 伝わらない説明の後に実は経験ありませんと言われても…


「ソードマジックはつまり必殺技だ。頑丈な鎧を着て、肉体が万全な状態であっても、それの直撃を受けたらまず負けたと考えた方がいい」

「ソードマジックは魔法なのか?」

「人それぞれだ。ただの正拳突きがソードマジックの格闘家もいれば、物凄い威力の魔法をソードマジックだという魔法使いもいる」

「えっと…つまり?」

「繰り出した一撃が何らかの条件を満たして必殺技へと昇華したもの。それがソードマジックだ。技がソードマジックになった瞬間、本人が直感で気付くらしい。これを当てたら勝てる…とか」


 必殺技へと昇華…ナインとツバキが同時に繰り出した格闘技も、あのタイミングでソードマジックに昇華したのか。


「ソードマジックへの対抗手段は2つ。まずは発動される前に相手を倒す。もう1つはソードマジックをぶつけることだ」


 頭がこんがらがってきた。ただでさえ魔法の杖を使うので大変なのに、ソードマジックとかいう必殺技まで出てくるなんて!


「まあいざって時はナインがなんとかしてくれるだろうし、焦らなくていいよ」


 ん…?待った。その理論から行くと…


「魔法どころか技の1つもない俺って、ソードマジックに到達すらしなくね?」

「だね。まあ安心しなよ。使えない方が普通だからさ。あははは!」


 それでもこれを話に出したってことは、大会でソードマジックを使ってくる相手と当たる可能性もあるってことだよな。


「ちょっと不安になってきたぞ…」

「それじゃあ私は帰るわ。光太君、魔法について何か分からない事があったら電話して良いからね。私と話したくなっても電話を掛けて良いからね」

「いや俺お前から番号聞いてねえよ」


 俺の言葉が聞こえなかったのか、そのまま水城は原チャリに乗って帰って行った。お嬢様なのに、リムジンのお迎えとかないのね。


「…疲れたぁ~!」

「ちょっと!ナインから明日帰って来るって電話があったわよ」


 今日の炊事係であるツバキはエプロン姿でアパートから出てきた。バターっぽい良い匂いが部屋の中から漂ってくる。


「それじゃあ修行はここまでにしようか。明日はナシってことで」

「良いのか?」

「光太がペアを組むのはナインだからね。どうするかはあいつに任せるよ」


 ジンは良い匂いのする部屋に戻って行った。俺も部屋に戻ろう。




 俺の部屋には炊事係はいない。昨日と今日、ナインがいないので自炊だ。毎週当番制で家事を分担してるジン達ってしっかりしてるんだな。


「めんどくせー」


 適当に切った物を適当に炒めて、ご飯と一緒に静かに食した。

 もぐもぐもぐ…美味しい…はずだけど、何か物足りなかった。一緒に食べる相手がいないからだろうか。

 夕飯だけじゃない。いつもはナインが家事をやってくれるんだ。洗濯や部屋の掃除…まるで親みたいだ。


「ナインが母さんか…」


 ないな。あいつを母さんと呼べる程、俺達は親しくない。それでも日々の事にはちゃんと礼をしないとな。

 それからは何をするわけでもなく人として最低限の事を済ませて、俺は布団に入った。


「早く帰って来ないかなぁ…」


 あいつがいない部屋ってこんな静かだったんだ…

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