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第34話 「ったくもう!」

 僕ナイン・パロルートは先日、お兄ちゃん達が探しているという魔女アン・ドロシエルと対面した。

 この事をキョウヤ兄ちゃんに伝えるために、まずは魔法で場所を特定。それからすぐにアパートを出発し、電車を乗り継いで乗り心地最悪な夜行バスを使った。




 そうして今、西日本にある山田(やまた)市に足を踏み入れた。この市内にお兄ちゃんはいるらしい。魔法で分かったのはそこまでだ。


「ねっむ…」


 空が僅かに明るくなっている。全く眠れなかったのにもう朝になってしまう。

 欲を言うとホテルに入ってグッスリ眠りたいけど、お兄ちゃんに会ってアンの事を伝えないと…


 魔法の杖で…そうだった。バッグごと光太に貸しちゃったんだ。

 そうだ。光太だって向こうで修行を頑張ってるんだ。僕も杖なしで見つけてみせないと。


 額の右上辺りから生える自慢の角は、魔力を探知する能力を持っている。今は何も感じられないけど、集中すれば離れた場所にいるお兄ちゃんの魔力を見つけられるはずだ。


「…」


 集中…集中…


 ぐぅ~!


 お腹が鳴った。出発してから何も食べていなかったからだ。

 これじゃあ集中なんて出来ないよ!とりあえず歩いて街の中を探してみよう。




「いらっしゃいませ~1名様ですね。カウンター席でのご案内でーす」


 くうううう!あれから3時間街を歩き回ったのに何の手掛かりも得られなかったから、始業したばかりの回転寿司に入ったぞ!朝食は寿司だ!

 それにしても僕以外に客がいない!実質貸しきりだこれ!


「あれ…お皿が回ってない」


 どういうことなの?レーンにお寿司の乗ったお皿が回ってないよ!…なるほど、このパッドを使って注文しないとお寿司が来ないんだ…手間だなぁ。一体どうしてこんなことになってるんだろう。


 まあいいや。まずは大好きなたまごを…


「安くて120円かよ…高いよ。たまごに120円って客を馬鹿にしてるでしょ」


 アノレカディアにあったチェーン店の寿司屋は一番高いネタでも300ナロだったのに…


「来た来た~…え」


 うぅぅぅん小さい!値段が高くて品が小さいってこれはもう…ダメだろ!商品として!

 こうなったらガリを上手く腹に入れて満腹になるしかない。


「たまごの後にガリ…うん」


 刺身の後になら美味しく味わえるけど、たまごの後だと微妙だな。とりあえず120円の皿だけを頼んでいこう。


「…やっぱり1皿だけウニを………なくない?」


 注文しなきゃ来ないし頼みたい物がメニューにない。日本人はなんて不自由な寿司屋に通っているんだ。

 僕は大和撫子じゃないから耐えられないよ…


「ありがとうございましたー」


 ちょっとしか食べてないのに2000円近く取られたぞ!◯◯◯◯◯!もう二度と来ないからな!


「はぁ…」


 キョウヤ兄ちゃんにこのレシート見せて、朝食分のお小遣いを貰わないと。


「どこにいるんだろう…」


 一応お腹は膨れたので集中出来る…わけがなかった。


 たった13皿で2000円も取られて、冷静でいられるわけがない!


「バーカ!◯◯◯◯◯のバーカ!アホ!」


 それでも僅かに魔力は感じられる。とりあえずこれを頼りに街を回ってみよう。




 海に面した山田市では単端市とはまた違った景色が見れた。今はまだ砂浜に人がいないけど、海開きをしたら海水浴に来る人たちで賑わうのかな。

 夏になったら皆でこういう場所に行きたいな。


「あれは…」


 女子が集まってダンスをしている。カメラで撮影してる人もいるし、何より衣装が独特だ。ローカルアイドルってやつかな?

 みんな可愛いな~、僕もあんな風にお化粧してみようかな。


「…ん?」


 あれ、あの人達から微弱だけど魔力を感じるぞ。この魔力には覚えがある。キョウヤ兄ちゃんのだ。


 ていうか、お兄ちゃんの魔力が近付いて来てるような…


「え…なんでここにいるの?」

「お兄ちゃん…久しぶり!」


 驚いた表情で僕を見るキョウヤ兄ちゃん。両手にはお菓子やペットボトルで一杯のバッグを持っていた。

 そして次の瞬間、お兄ちゃんはバッグを落として僕とは真反対の方向へと走り出した。


「…なんで逃げるの!?」


 意味分かんない!お兄ちゃんってば、僕を心配してこの世界に来たんじゃないの?なのにどうして僕を見た瞬間に逃げ出すんだよ!


「待ってよキョウヤ兄ちゃん!おい根暗眼鏡!逃げるな!」

「ヒィィィィ!」


 妹に追い掛けられるだけでそんな悲鳴出すか普通!?結構ショックなんだけど!

 キョウヤ兄ちゃんは凄い体力の持ち主だった。お互いに30分近く全力疾走し続けて、僕はとうとう体力切れ。せっかく再会したお兄ちゃんに逃げられてしまった。


「ハァ…ハァ…ったくもう!なんで逃げる必要があるんだよ!こっちは報告に来ただけなのに」


 元々シャイな性格だったけどあそこまで酷かったっけ…?


「…はっ!」


 刺されているような鋭い魔力を感じた瞬間、僕の身体は反射的に動き出していた。


 ピシャリ!


 さっきまで立っていた場所に矢が刺さっていた。それも魔力で作られている物で、正確には矢の形をしている攻撃系の魔法だ。


「誰だ!」


 また来る!その場から走り出して、僕を狙い放たれた矢を回避した。


 こんな街のど真ん中で攻撃してくるなんて!街の人に当たったらどうするつもりだ!とにかく、ここを離れないと!


「くっ!」


 顔面に目掛けて飛んできた矢をギリギリでキャッチ。しかし掴んだ手が熱い!ただの矢じゃなくて魔法なんだもんなこれ!


「摩擦熱なんてレベルじゃないよ全く…!あっち~!」


 僕はビルの壁を蹴って、高い建物の上へと移った。すると矢は下から上へと僕を狙って飛んでくる。それを避けて発射された場所を確かめてみたけど、敵らしき姿はない。


 それからはビルの壁を蹴って渡り、街の中を移動した。今は攻撃が止んでいるみたいだけど、これじゃあ敵がどこにいるか分からないままだ。


「ここなら!」


 さっきまでローカルアイドルが踊っていた砂浜に戻って来た。今、この砂浜にいるのは僕だけだ。

 さあどこからでも射ってこい!


 ピシャリ!ピシャリ!ピシャリ!


 矢の飛んでくる方向が固定された!少し離れた場所に見える、沢山車が停まってるコインパーキングから!あそこに狙撃手がいる!


「…で?」


 どうしよう!?反撃の手段がないよおおお!海水と砂を合わせて泥団子を投擲…じゃ無理だな。


「うおおおおお!」


 多少の痛みには耐えるしかない。僕は被弾を恐れず、敵のいるパーキングへと駆け抜けた!


 正面から連続して放たれる矢が僕の肌を掠める。けどそれはつまり、相手も焦ってる証拠だ!


 ピシャリ!ピシャリ!ピシャリ!ピシャリ!


 胸、頭、胸、胸。狙いも単調になってきてる!


「そこだあああああ!」


 手刀を作り、敵の頭を割るつもりで僕は飛び出した。銀色の車のそばで、少女が僕に弓を向けていた。


 まずい、この距離で撃たれたら…!


「そこまで!」


 突如現れたキョウヤ兄ちゃんは僕の腕を掴んで攻撃を止めた。そして弓を持つ少女には、攻撃を止めるように手をパーにして向けていた。


「先生!どうして止めるんですか!?」

「お兄ちゃんどいて!そいつ僕の事を殺そうと…」


 先生…?キョウヤ兄ちゃんが?


「お兄…ちゃん?」


「はぁ…妙に騒がしいと思ったら君達は…何をやってるの?」

「お兄ちゃんこそなんで逃げたんだよ!」

「あ…それはその…」

「先生!お兄ちゃんってどういうことですか!?」

「いや、文字通りなんだけど…」


 角がまた別の魔力を感知する。海の方から感じるこの邪悪な魔力は…


「「魔獣だ!」」


 僕達は海を振り向いて叫んだ。その時、潜水艦のような巨体が海で跳ねていた。

 

優乃(ゆの)、君はここで待っているんだ。ナイン、一緒に戦ってくれ」

「なんで先生!私戦えますよ!」

「お兄ちゃん!僕杖ないよ!」

「大丈夫、ナインは杖がなくても強いから」

「ちょっと先生ってば!」


 うーん…そもそもキョウヤ兄ちゃんなら僕の力なんていらないと思うんだけどなぁ。


「超人モード!」


 叫ぶと途端に、お兄ちゃんの身体が大きく、そして形を変えていく。

 超人モード。ダイゴ兄ちゃんが車に変形する巨人になったみたいに、キョウヤ兄ちゃんにも別の姿がある。


 お兄ちゃんは巨人になった。ダイゴ兄ちゃんよりも更に大きく、力強い巨人だ。


「先生!?なんですかその姿は!」


 そして巨人は姿を変える。ガシンガシンと、巨体に似合わず素早い動作で、恐竜ティラノサウルスと重機バケット・ホイール・エクスカベーターの特徴が合わさった機械の竜、エクスザウルスとなった。


 竜は砂浜へ駆け降りると、ドリル型のミサイルを魔獣を最後に見たポイントへ向けて発射した。


「俺があいつを海中から追い出す。そしたらナインは──」

「攻撃を叩き込めばいいんだね!」


 海水が跳ねて魔獣の背が僅かに見える。向こうも何の反撃をしてこないわけもなく、イルカなどの呼吸孔のような部分から、切断力を持つ程の水流を発射した!


「させるか!」


 流石お兄ちゃんだ!あの水流の自分の身体で受け止めて、背後の街を守った!


「あいつ…このまま照射を続けるつもりか。ナイン、俺の身体を貸す。それで君が倒してくれ」


 ヒュー…ボトン!


 お兄ちゃんの一部が地面に落ちてきた。正面にドリルが付き、クローラー走行を可能とするエクスドリラー。今の姿を構成する8つのエクスパーツの内の1つだ。


「よっと!」


 僕は操縦席に乗り込み、ドリラーを地面へと潜らせた。昔、何度か乗せてもらった事があるから、操縦方法は分かってる。


「水流の威力が増した。ちょっと痛いかも…」

「任せてお兄ちゃん!もう魔獣の真下まで来た!」


 パワー全開!いっけえええええ!


 海中へと出たエクスドリラーは魔獣の腹部へと突撃。そのまま水面へと浮上し、宙にまで飛び出した。ドリルの回転は止まることなく、魔獣を引き裂いた。


 そして魔獣は大爆発を起こした。


「やったよお兄ちゃん!」

「よくやった!」


 するとエクスドリラーは僕を放り出して元の位置へと戻り、キョウヤ兄ちゃんはエクスザウルスから元の姿へと戻っていった。


「僕達でやっつけたんだ!」

「御苦労様。俺がいなくても大丈夫だったかもね」

「いやいやそんな~!」

「先生、なんなんですか?」


 さっきの優乃と呼ばれていた少女が砂浜に現れた。誰がどう見ても機嫌が悪いのが分かる。


「さっきの姿、今の大きな魔獣…何よりその女は?どうして私じゃなくてその子を…一緒にいた生徒より、再会した妹を信頼したんですか!」

「お兄ちゃん?生徒って…どういう関係?」

「え~っと…あの、その…ごめんなさい」


 キョウヤ兄ちゃんがこの世界に来て僕に会いに来なかったのは、どうやらシャイという以外にも理由がありそうだ。

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