第12話 「お父さんとお母さんに絶対会わせてあげるからね」
光太を置いて地上へ出た私はフーゴ軍の基地から脱出を試みた。だけどその時、この基地を破壊してヌベルの国民を助けようとする斥候と出会った。
色々話して共感した私は彼女に協力して、この基地内で工作活動をする事になったのだ。
「私は英利。あなたの名前は?」
「クー・デレフォン。シュラゼアの忍者だ」
「忍者なんだ…ねえクーさん、囚われてる子ども達の居場所は見当ついてるの?」
「まだだ。だから今向かっているメインタワーで情報を集める」
私達が向かってる建物はメインタワーって言うらしい。メインってだけあって、この基地にはあれ以上に大きな建物はない。何か有力な情報が手に入るといいけど…
「止まれ」
私は言われた通り、足音を立てずに静かに止まった。
「どうしたの?」
「昨日に比べてメインタワー周辺の警備が増えている。私の存在に気付いたかもしれないな…」
確かに、メインタワーに近付くほど兵士が増えている気がした。
「こうなったら…転移弾で一気に近付く」
そう言うとクーさんは拳銃を抜く。それから銃口にサプレッサーを付けて、弾倉を交換した。
「私から離れるな」
「う、うん…」
クーさんは私の肩に手を回すと、メインタワーの方へ発砲。飛び出した弾丸が着弾した地点に、私達は瞬間移動した。
「うそっ何これ凄くない?」
「貴重な特殊弾を使ったんだ。絶対にミスは出来んぞ」
私達は兵士から奪ったカードを使ってタワーの裏口から潜入することに成功した。
タワー内ではヘルメットやゴーグルなど、顔が見えなくなってしまう装備は厳禁とされていた。私達もそれに合わせて装備を外したけど…バレないかな?
「堂々としていろ…このメインタワーは急造された物だ。重要なエリアこそ警備は厳重だが、それ以外の場所には識別機能を持たない安物のカメラが設置されているだけだ」
私は堂々と歩く彼女の後ろを歩いた。クーさんはこのタワーの地下を怪しんでいるらしく、階段を見つけると降りていった。
「私が閉じ込められてた場所も地下…そうだ、仲間を置いて出てきてるんです」
「場所は覚えているか?戦力になりそうなやつなら合流しよう」
戦力に…なるかなぁ?私よりも弱いし…
階段を下っていくと、見覚えのある場所に到着した。
「そうそうここ。こんな感じの場所のトイレのダクトから脱出したんだ」
「妙だ。警備が手薄だな」
確かに、私が脱出した時にはもっと沢山の兵士がいたはず。光太は無事かな…?
クーさんは正面に銃を構えつつ、通路の床や壁に手を当てながら進んでいく。
「何してるの?」
「シュラゼアの城には一部の者しか知らない隠し扉がある。それら同様のスイッチがあるかもしれないと思ったが…これは手間だな」
「スイッチですか…私、魔法で探してみます」
「魔法…お前、魔法が使えたのか」
「そうでなきゃ地下からの脱出なんて出来ませんよ…何睨んでるんです?」
「使える能力があるなら事前に言え。もっと効率的に動けたかもしれないのに…」
「ごめんなさい…」
怒られちゃった…ってションボリしてる場合じゃない。スイッチを見つけるには音の反響を利用したエコー・べレナスだ。
口に指を当て、余計な音を立てない様に頼む。クーさんは背後に警戒しながら、固まって動かなくなった。まるで野生動物みたいな…
「…ふぅ」
私は人差し指の先に魔法陣を作り、そこから魔法の粒を落とした。粒は私やヤマタノビジョタチのメンバー達、べレナスシリーズの使い手にしか聴こえないべレナスヘルツの音を反響させ、それを元に周囲の地形情報を得た。
「…そこだ」
すぐ近くに妙な反響をさせた壁があった。そこからは手探りで、壁に擬態しているスイッチを発見した。
「見事だな…周りに敵はいない。押してくれ」
「ポッチとな」
スイッチを押すと、その隣が開いて通路が現われた。薄暗くて先が見えない…
「私が先に行く。ついて来い」
うわぁクーさん、罠があるかも分からないのに勇気あるなぁ…
実際のところ、通路に罠は仕掛けられていなかった。隠し扉だし、侵入者に見つからない前提で造られていたんだとクーさんは結論を出す。そしてその通路の先には…
「だ…誰?」
「怖い人じゃない?」
「知らない、女の人達だ…」
子ども達だ!ヌベルの子ども達は隠し通路の先にあった暗い部屋に幽閉されていた!
「静かに…私達は君達を助けに来た」
「ほ、本当…?」
「あぁ…脱出させるとなると、ここに来るまでに使った階段しかないだろうな」
「お、お腹が空いた…」
ここにいる子達は全員ガリガリだ。きっと捕まってからロクな物を食べさせてもらってなかったんだ。逃げてる途中で倒れる子が出てもおかしくない。
「英利、私は一度地上に出て仲間との交信を試みる。お前はここに待機して子ども達の面倒を見ていてくれ。それと隠し扉は閉めていく。万が一脱出の必要性が出て来たら、この爆弾を起爆して壁を破れ」
クーさんは隠し扉の周辺に爆弾を設置すると、通路へ出て扉を閉めた。
「私達…助かるの?」
「うん。皆をお父さんとお母さんに絶対会わせてあげるからね」
クーさんが連絡をしにいった仲間は強いのかな…ナインは大丈夫かな…
弱気になっちゃダメだ。今、ここにいるのは私だけなんだ。
「どうやらぁ、悪~いネズミが入り込んだようね」
通路の方から声が…嫌な予感がする。
その後、隠し扉の開く音がして、足音が近付いてきた。それに対して私は腰のホルスターに入っていた銃を抜いた。
「ごきげんよう、私のカワイイカワイイ子ども達…」
「うわぁぁぁ!」
「きゃあぁぁぁ!」
な、なんだ!?この白衣を着た女が入って来た瞬間、子ども達が悲鳴をあげた!
「先生ね、すっごくビックリしてるの。だってこの部屋に気付いた賢いネズミがいたんだから~…」
「…私がネズミならあなたはドブネズミだね。こんな部屋に閉じ込めるなんて、最低だよ」
「言ってくれるわね。あなた、一体どこの国から来たの?…チッそれにしてもヌベルのブタ共、やっぱり救援要請を出してやがったわね…」
今しかない…今、撃ってこの人を止めなきゃいけないのに…手が震えて指に力が入らない!
「あなた、怖いんでしょう。ダメよ、そんな中途半端は気持ちで戦争に首突っ込んじゃ」
「くっ…!」
やるんだ!
指に力を入れようとした直前、女が振るった鞭で手を打たれ、私は銃を落としてしまった。
「しまった!」
「さぁ、どうしてあげようかしら…ミセスネグレクトって呼ばれるくらい、子どもを虐めるのが大好きなの。あなたはどう虐められるのがお望みかしら?」
私に残ってるのはほんの僅かな魔法の力だけ…それでもこいつを倒して、子ども達を助けないと!




