第11話 「助け出したいんだ!」
僕とハクバを口に入れたシバルツがナムロットへ接近する。それからこの子に乗った人専用の搭乗口へ頭を突っ込んだ。
「こちらハクバ。客人を連れて帰艦した」
「排水完了、防水バルーン正常、空気注入…シバルツ口腔と本艦の圧力とで僅かに差があります。少々お待ちください」
このまま圧力の違うナムロットへ移ると身体が大変な事になるそうで、安全に降りられるようになるまで僕達は待った。
「圧力調整完了しました」
「ありがとう。シバルツ、オープン」
命令を受けたシバルツが口を開け、舌をスロープ代わりに伸ばした。。
「よく躾されてるね。ところで君、そんな姿だった?」
シバルツの元々の姿は白い蛇だ。その他2つの形態を持ってのは知っているけど、今の姿は初めて見る物だった。
「水中での活動と防御力に特化した四生朽だ。ハザードドラゴンとの戦いの後、僕達も鍛練を重ねて強くなったんだよ」
「流石だね。だけど強くなったのは僕も同じさ」
シバルツを降りて正面の部屋に移る。するとそこは操舵室だった。
「うわわ、ゴチャゴチャしてる」
「なるべく深い場所に潜れるように余計な機能はオミットして必要な機能を一か所に集めた潜水艇、それがナムロットなんだ」
「おかえりなさいませ、ハクバ様」
「ただいま。紹介するよ、彼女はナイン・パロルート。以前、ハザードドラゴンの討伐に力を貸してくれた僕の親友だ」
「パロルート…ですか。私はウルク・ルマ。見たところ魔族のようですが…」
「サキュバスです。そっちは…男性だけどアルラウネ?」
「父上がライカン、母上がアルラウネなのです。珍しい事にアルラウネの特徴が強い男として育ちましてね」
ライカンとはライカンスロープ、人狼とも呼ばれる獣人だ。そしてアルラウネは全員が女性の植物のような魔族だ。この人は植物のような特徴を持ちつつも、ライカン特有の強靭な足を備えて産まれてきみたいだ。
「強そうだね」
「そんなことないですよ」
挨拶を終えると、ウルクさんは天井からアームで伸びているモニターを降ろした。
「ナムロット各機、現在も所定のポイントで待機中です。クーはどうでした?」
「無事だったよ。だけど海上じゃないと無線が繋がらないのは不便だね」
「機械の発達が遅れてるシュラゼアであそこまで届く小型無線機を開発できたのは上出来です。盗み聞きされてる可能性もなくはないですが、クーなら大丈夫でしょう」
この人、クーさんを呼び捨てにしてるけど一体何者なんだ?僕達が倒したハザードドラゴン程じゃないけど強い魔力を感じる。この人ならハクバを偽ってたアヤトが駒として繰り出してもおかしくないはずだ。
「クーは現在、基地に囚われたヌベルの子ども達を捜している。子ども達が見つかり脱出ルートを確保した次第、全方位から総攻撃を仕掛ける」
「総攻撃…」
この潜水艇にいるのはハクバとウルクさんだけだ。
「他のナムロットにはどれくらいの人がいるの?」
「他3隻にはシュラゼアの精鋭が3名ずつ。当艦には私とハクバ様のみです」
「基地にクーさんがいて…12人!?たったそれだけの人数で基地を落とすつもり!?無理だよ!」
「無理と言っても…」
「シュラゼアの軍は軟弱です。下手に数を引き連れても無駄死にさせるだけですからね。これがハクバ様の出した最善策です」
ハクバの策か…まあ、僕と違って頭がいいわけだし、勝算があるからこの作戦を立てたんだろうな。
「ナインはどうするの?」
「ぼ、僕?」
「仲間が連れ去られちゃったんでしょ。だけどこれからやるのは戦争に近い行為だ。パロルートじゃそういうのは御法度だったよね」
そうだ…だけど光太と英利が連れ去られてしまった。もう無関係ではいられない!
「僕の仲間が攫われた。助け出したいんだ!だから作戦に参加させてくれ!」
「…だそうですよ。王子、いかがいたします?」
「僕が強制して参戦させたわけじゃない。パロルートである彼女から直々に願い出てくれた。これなら非難がくることはないはず…それにナインは僕の親友だ。そんな彼女の頼みを断りたくない。助けよう、ヌベルの人も君の仲間も!」
ハクバと固い握手を交わし、僕はフーゴ軍への攻撃に参加する事になった。本当は争い事はダメだけど…そもそも、フーゴ軍っていうのがラミルダを攻撃した上にヌベルを侵略していたんだ!そんな攻撃的な国、絶対悪に決まってる!
「これからどうするの?」
「クーの工作にまだ時間が掛かりそうだ。それまではここで待機。1時間後、シバルツで海上に出て無線で連絡だ」
「ナムロットを浮上させちゃいけないの?」
「ナムロットに武器は搭載されてない。攻撃開始時に海上まで上がって、そこからは艦を捨てて一気に突撃する」
「…ここから泳ぐの?」
「馬鹿言わないでください。全員、魔法で飛翔するか海面を疾走して接近します。そのためにもクーには、私達が無事に上陸出来るように頑張ってもらう必要があるのです」
そうだ!フーゴ軍の潜水艦に襲われた時、魔法の杖を盾にしちゃってた!移動に使える杖、残してあるかな…
「どうしたの?」
「ない…ない…ない…本当に!?」
「そんなにバッグを漁ってどうしたんです?」
「…なくなっちゃった」
「なくなったって、何が?」
「移動に使える魔法の杖、全部盾に使っちゃった」
「杖なんてなくても飛べるでしょう…まさか出来ないんですか!?」
「ナインは魔法が苦手でね、予め発動できる魔法が決まってる杖じゃないと魔法が使えないんだ」
杖なんてなくても飛べるには飛べる。だけど僕の虫みたいな羽根じゃ間違いなく出遅れてしまう。
「そういえば、パロルートの長女はかつて王子が通われていたネフィスティア学園で落ちこぼれだったとか…」
「そういう痛いこと言わなくていいんだよ!はぁ~…」
「それじゃあ僕とナインはシバルツと一緒に上陸するよ。それでいい?」
「よ、よろしく…」
はぁ…こういう後先考えない癖は矯正した方がいいな…
ウルクさんは操縦席に着いて周囲に警戒していた。僕とハクバはシバルツの中へ戻り、お互いにこれまでの出来事を語り合った。
「それじゃあ、前にシュラゼアを攻めてきた謎の軍隊はフーゴ軍だったの?」
「間違いない。戦艦の特徴が一致してるんだ。交流のない国に攻められて国民は今も怯えてる。今回の戦いで敵の真意を突き止め、二度と攻撃してこないように約束させる。それがヌベル解放後の目標だ」
「そうか…黒幕がハッキリしただけ良かったって感じだね」
「うん…ナインは戦いが終わったらネフィスティアに向かうの?」
「あぁ!僕はもっと強くなりたいんだ!あそこでもっと鍛えて、今より強くなりたい!」
「僕もジン達と再会したいけど、王子だから学校に通ってる暇もないんだよな~」
「それじゃあ無理矢理にでも理由作ってシュラゼアに連れて来るよ!」
「お願いするよ~いつまでも忘れられたままってのは寂しいからさ~」
王子として他国へ攻撃を目論むハクバ。てっきり厳しい性格になったりしたのかと思ったけど、こうして話していると昔通りの彼で安心した。