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第10話 「どうしてこんなところにいるの?」

 光太と英利が国へ辿り着けるように僕は囮を買って出た。島からの砲撃は凄まじく、閃光弾で視力を奪われた僕は砲弾の直撃を受けて海へ落ちてしまったが…


「ぷはぁ!…よ、容赦ないなぁ…」


 いっそのこと気絶してた方がマシだった。だけどこの感覚からして僕はまだ動ける。痛いしつらいし疲れた。一度海から上がりたい。

 このまま島へ接近するか、一度泳いで様子を見るべきか…


「くっ…このぉ!」


 背中の羽根を千切り、ビート板の代わりとして海へ浮かべた。せっかく治してもらったのにすぐこんな事をする羽目になるなんて…

 プカプカと海を漂っていると砲撃が止んだ。二人は無事に島へ辿り着けただろうか。


「あれは…」


 一隻の軍艦が近付いて来ている。ここは何としても離れないと、今度こそ撃ち沈められるぞ!


「はぁぁぁ…すぅぅぅ!」


 僕は大きく息を吸って海の中へ沈んだ。気付かれないように海中を泳いで、少しでもあの軍艦から離れよう。



 海中にはしゃくれた顎を持つ鮫、シャクレシャークが集まっていた。僕の流した血を追ってここまで集めてしまったみたいだ。


「あっちいけ!ほらっ!軍艦が来るぞ!」


 襲い来る鮫を叩いて追っ払い、さらに深くへ沈んでいく。それにしても底が見えない。海面に戻るまでの空気を考慮すると、ここから真っ直ぐ泳いだ方が良さそうだ。


 ん?何かこっちに近付いて来る。魔物にしては形がシャープ過ぎるし…人工物?

 いやまさか…でも、こんな深い海の底で遭遇する人工物って言ったら…


「潜水艦だぁぁぁ!?」


 慌てて浮上しようとすると、潜水艦は魚雷を発射した。


「えっとこういう時は…えいっ!」


 杖を選んでいる時間がなく、バッグに入っていた無数の杖を乱雑に投げ出した。魚雷は魔法の杖に命中すると爆発。

 なんとか直撃は免れたけど、それでも破片とかが身体中に突き刺さって痛い!


 それよりも酸素…酸素が欲しい!急いで海面まで上がらないと…

 潜水艦は容赦なく第二波を放つ。これ以上、魔法の杖を無駄遣いしたくはないけど…!


「くそっ!」


 先程と同様、魔法の杖を壁にして魚雷を起爆させた。そして爆発の衝撃を利用して一気に浮上。ギリギリのところで空気を補給できた。


「はぁ!はぁ!」


 先程の戦艦は遠くで停船し、クレーンを降ろして何かを回収していた。あれは…


「光太!英利!」


 二人が連れ去られる!っていうか撃ち落とされてたのかよ!


 そうして彼らに気を取られた僕は足元に接近していた魚雷に気付かず、直撃を喰らった。


「かっ…は!?」


 両足が焼け落ちた。下腹部まで持ってかれなかったのは運が良かったのかもしれない。


「ダメ…か…」


 衝撃で打ち上げられた身体は宙で乱回転。荒れ狂う視界の中、海面から飛び出した弾を見逃さなかった。

 この体勢じゃ防御はできない。出来たとしてもあれを防ぐ程の力が残ってない。運良く魚雷が外れるのを祈るしか…


「…ちっくしょおぉぉぉ!」


 魚雷は空中で装甲が剥がれた。しかし空中分解を起こしたわけじゃない。ミサイルの中からさらに小さなミサイルが、絶対に僕を撃ち殺そうと逃げ場をなくしたのだ。

 これはもう、どうすることもできない!





「やらせない!」


 その時、僕とミサイルの間に誰かが飛び込んだ。一瞬しか見えなかったけど、腰に刀を携えていた。


白滝行(しらたきぎょう)王花乱舞(おうからんぶ)ゥ!」


 何をしたのか知らないが、無数のミサイルは僕の元へ到達する前に爆発を起こした。さらに爆発の衝撃やそれによって飛散した破片が飛んでくる事もなかった。

 そんなことよりも今の技…白滝ってまさか!


「相変わらず(せわ)しない再会だね、ナイン!」

「ハクバァ!?ハクバだぁ!」


 こんな絶体絶命の危機に現れたのは、シュラゼアの王子にして親友、ハクバ・アイビスカスだった。


「どうしてここに!?」

「そっちこそ!だけど話すのはここを離れてからだ!」


 ハクバは空中で乱回転していた僕を抱えると声をあげた。


「シバルツ!」


 その名を呼ぶと、海の中から巨大な蛇が姿を現した。

 シバルツとはハクバの仲間が従える使い魔のロクギョウゼンブンヘビだ。理由は分からないけど、今は彼に仕えてるようだ。

 シバルツは僕達を乗せると、島とは反対の方角へ進み出した。


「待って!僕の仲間があの戦艦に捕まったんだ!戻ってくれ!」

「敵の戦力は未知数だ!一度下がって準備を整えよう!」

「くぅ…」


 …確かにハクバの言う通りだ。戦艦に潜水艦と来て、ラミルダで見た戦闘機まで来たらどうしようもない。


「あいつらの潜水艦じゃ来れない場所に基地を掘ってある。シバルツ、アジト!」


 するとシバルツは僕達を口の中に放り入れ、海中へと沈んでいった。


四生朽(しいくち)のシバルツなら海の深いところでも安全に行ける。さあナイン、まずは傷を治そう」

「頼むよ…足と羽根を…」


 ハクバはとろみのある液体が入った瓶の蓋を開けた。これはアイビスカスという花を磨り潰して作った物で…まあ見てれば分かる。


「おぉ…」


 液体が身体に垂れた瞬間、失った足と羽根が瞬く間に再生していく。アイビスカスという花は失った部位すらも治せる凄い薬草だ。当然副作用もあり、その凄まじい再生力は脳まで届き、脳を若返らせる勢いで新しい記憶から消してしまう。

 だけどハクバはアイビスカスの力をコントロールすることが可能で、失った記憶を取り戻す事が出来る。つまり彼がアイビスカスを使えば、実質ノーリスクで回復が出来るんだ。


 ハクバは折り畳み式の二画面スマホを取り出した。


「右側は右眼、左側には左眼と、シバルツの見ている景色を映してる」

「あれってチョウゼツチンアンコウだ!ってことは大体、海底2万マイル辺りにいるの!?」


 あのサイズの潜水艦じゃここまで来れないだろう。安心して身体を休められそうだ…


「…そうだ、ハクバはどうしてこんなところにいるの?」


 ハクバは改まった表情で話し始めた。


「君の仲間は正面にあった小国ヌベルへ連れ去られた。正確には、ヌベルを侵略し基地を建てたフーゴ軍によってだ。ヌベルから救援要請を受けた僕は斥候としてクーを送った。彼女の合図と同時に東西南北の四方からシュラゼア軍による攻撃を仕掛け、国の中心の基地を破壊するために」

「クーさんいるんだ…そりゃあシバルツが来てるんだしクーさんいるよね…」


 クー・デレフォン。それがシバルツの本来の主であり、ハクバに仕える拳銃使いの忍者だ。彼女が斥候として乗り込んだヌベルに、光太達は連れ去られたのか…


「見えて来た。あれがフーゴ軍基地破壊用に用意した奇襲用海中潜水艇、ナムロットだ」


 ハクバが持つスマホの左画面には、さっき襲ってきた潜水艦よりも何倍も大きな潜水艇が映し出されていた。

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