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第31話 「私は違う!」

 私は転点高校生徒会会長の滝嶺飛鳥。私は好き嫌いが激しい。

 好きなものは狼太郎と彼の幼馴染。そして生徒会の皆だ。気高く美しく、他の人間には無い力を彼らは宿している。他には人を助けることとか甘い物とかだ。

 そして今、最も嫌いなのは…




「会長、質問です!お米の上にお米盛ったらご飯かけご飯になるんですか?」

「それより光太、僕はハンバーガーとサンドウィッチの違いがよく分かんないよ」

「バッカヤロウ!あれはどっちもパンで挟んでるから名前が違うだけの同じ料理だ!」


 今、目の前で正座させている黒金光太。そしてその隣に座る少女ナイン・パロルート。この両名だ。

 黒金光太はナインを連れて生徒会に来るという約束を破り、そして学校を数日もの間無断欠席した。それが許せない。

 そしてこの隣に座る少女はなんと、学校を中退しているらしい。学生として言わせてもらうが屑だ。


 適当な生き方をしている二人…もしも許されるのならぶっ殺したい。鎖に巻いて天井から吊るして、委員会の皆がストレス解消に使えるサンドバッグにしてやりたい。


「まさか学校を欠席してまで私との談話を拒否するとは驚いたよ。そこまで警戒されているとは残念だった」

「修行してました。サボったのは俺じゃなくてナインのせいです」


 人に責任を押し付けるこの幼稚な精神…退学させてやるべきだろうか。


「黒金君は休んだことについての指導。ナイン君には学校見学という建前でここまで来てもらった」


 聖域である生徒会要塞に二人を入れるのは嫌だったが、魔獣などの話は外部に漏れてはならない。万が一、無関係な生徒に話を聴かれても記憶を消せれるので何とかなるが、そのあと色々と処理が大変なんだ。


「…他にも仲間がいなかったか?彼らはどうした?」

「ダブルデートで舞浜まで行きました。多分今日は帰って来ないです」


 デェェェトかぁぁぁあ…ならばここにいないのも仕方がない。

 そういえば、私が狼太郎と最後にデートしたのはいつ頃だろうか。


「私は何年も前からずっと、魔獣と戦って来た」

「何年も前!?魔獣は最近現れたんじゃないんですか?」

「いいや…大昔から何年かに一度、魔獣は突然現れては人々を襲った。そして時代は違えど、勇気ある者が立ち上がり、魔獣を倒した…公にされることのない戦いが続いているんだ」

「なんで…魔獣は僕達の世界からこっちに来たんじゃ…」


 ようやく二人がちゃんと話を聞く気になってくれたようで安心した。


「それが最近になって頻繁に現れるようになった。私が初めて魔獣と会ったのは中学一年の頃。それは師匠と出会った日でもあるんだ」

「会長!昔話はどうでもいいです!」


 どうでもいい!?私の過去を…まあ、ロクでもない師匠だし、こいつらに話す必要はないか。


「魔獣が頻繁に現れるようになったのは、君達が原因じゃないかと思ってね」

「な、なんで僕達が!?」

「君が魔法を使う時、魔獣達と同じように魔力が発生しているのを私達は突き止めた。それが何か関係があるんじゃないのかと考えていてね」


 彼女の魔力によって引き寄せられるように、魔獣の出現頻度が増したのではないかと私は推測している。


「違うぞ会長!ナインは無関係だ!多分犯人は…あっ」

「犯人…君達は何を知っている。答えてもらおうか」


 こちらから一方的に話すことになるかと思ったが、思わぬ収穫がありそうだ…


「…嫌です。これ以上喋ると口が渇くので、何も話しません」

「黒金光太。年上をおちょくるのも大概にした方がいい。それとも拷問されるのが好きなのかい?」

「…」


 黒金は黙ったままだ。仕方ない。手の空いてる者に電気椅子を持って来させるか…


「話します。全部話すから、光太には手を出さないでください」

「ナイン!?なに言ってるんだよ!」

「遅かれ早かれ知られてしまうことだよ。だったらここで話してしまおう。別に不利になることもないだろうし」


 このナインという少女。学校に通っていないただの不良少女かと思いきや、私や狼太郎たちと同じように強い意志があるようだな。


「まず、魔獣はこの世界で発生しているのではなく、異世界アノレカディアから転移して来ているんです。原因も理由も分からないですけど…」


 アノレカディア…嘘を話しているようでもないし、あの魔獣がこの世界の生物でないと考えると納得がいく。


「僕はその世界からやって来たサキュバス。魔族です」

「君は人間ではないのか…ならば魔獣退治が目的でこの世界に来たのか?」

「いいえ、魔獣との戦いは成り行きです。本来は修行が目的でやって来ました」

「全然やってるの見たことねーけどな」

「うっさいな。光太の世話で忙しいんだよ」


 ナインという少女。性格はともかく、見た目は充分。これまでに暴走した狼太郎との戦いを観戦して、力があるのも確認済みだ。

 この強者は生徒会に引き込むべきだ。


「敵が同じなら、私達生徒会と手を組まないか?」

「手を組むって…会長さんはそんなに強いんですか?」

「私は強いよ。他の生徒たちも今は訓練期間だが、すぐに魔獣と戦えるようになる」


 だが魔法があったところで、魔獣と戦い続けて来た私には敵わないだろう。


「…じゃあ、試させてもらって良いですか?」

「構わないよ。戦闘訓練場へ移ろうか」


 少しナメられているようだし、ここで立場を分からせておこう。




 生徒会要塞は水城財閥からタダで貰った自立型工事ロボットのおかげで未だに拡大を続けている。

 私達がいるこの広い空間も、ロボットに造らせた物だ。いつもはここで狼太郎に宿る魔獣の力をコントロールする訓練をしている。


「何でも揃ってるなこの要塞…」

「黒金君、怪我をさせたくないから観戦席に行ってくれ」

「はーい」


 黒金が観戦席に移り、何もないフィールドには私とナインだけが立っている。


「会長さん。そんな鞭だけで良いんですか?」

「君こそ袖の長い衣類にしなくて平気か?これは特殊な素材を使った鞭でね。叩かれるとミミズ腫れでは済まないよ」


 少女の顔から笑みが抜けて、真剣な眼差しがこちらに向けられる。お手並み拝見といくか。


 ファーン!


 戦闘開始を合図する音が鳴ると、ナインは腰に巻いているバッグから杖を取り出した。


「スワッピング・ワンド!」


 突然、目の前に壁が現れた。しかし冷静でいれば、何が起こったのかはすぐに分かる。


「彼女と位置を交換したのか」


 背後からの攻撃を想定し、横へ走り出す。するとすぐ、ビリビリビリと電撃の音が背後で鳴り響いた。


「電撃が外れた!ならお次はラビリンス・ワンド!」


 ゴゴゴゴゴ!


 今度は本当に、地面から天井に届くほど高い壁が現れた。どうやら迷路を作り出したみたいだ。


 ドン!ドン!ドン!


 大きな音がこちらに迫る。せっかく用意してもらった迷路だが、遊んでいる時間はないらしいな。


 ドォン!

 

 そして正面の壁を突き破って現れた大岩を両手で受け止めた。これくらい、魔獣の攻撃に比べたら大したことはない。

 だが大岩は突然砕け、そこから現れたナインの杖が胸へと突き付けられる。そして私は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。


「手加減して衝撃波を起こすショックウェーブ・ワンドにしたよ。もう動けないんじゃない?」


 ナインが杖を振ると迷路が消えていく。全く、面白い武器を使うな。魔法の杖というやつか。

 視界を遮る迷路はなくなった。これで彼女が倒れる姿を黒金に見せてやれるな。


「さて…私のターンだ」

「う、動けるの!?あれを喰らって壁にもぶつかったのに!」


 立ち上がりすぐさま鞭を振る。魔法しか能がないのかと思っていたがそうではなく、ナインは素早く鞭を避けると、私に向かって走って来た。あの衝撃波をもう一度放つつもりか。


「喰らえ!」


 突き出される杖を左腕で受け止めた。痛い程の衝撃が発生したが、倒れるほどではない。


「な…なんで!?」

「今の私は過去から蓄積した魔獣への憎しみで出来ている。こんな貧弱な攻撃では倒れないよ」


 動揺している彼女の首に、戻って来る縄をそのまま巻き付けた。抵抗されなかったので、しっかり巻けているようだ。

 私の意思に従い、縄は首を締め付ける力を上げた。


「ぐうっ!…」

「杖を手放したな…ん?」


 ナインが肩から下げているボディーバッグのチャックが降りた。そして中から、手足の生えた牙と、タイヤの大きなバギーのミニカーが出てきた。

 暴走していた狼太郎を追い詰めたあの珍妙な攻撃か。


「なんだいこのオモチャは?これで私を倒すつもりか?」

「馬鹿ドッキング…いけっ…キバギー」


 バギーのフロントに牙が合体、足首を目掛けて走ってくる。だが所詮はミニカーなので、蹴飛ばして裏っ返しにすると、起き上がれずにタイヤが空回りしていた。 


 そしてまずは1発!

 鞭が巻き付いて呼吸が叶わず、意識が朦朧としている相手の腹部に拳をめり込ませた。


「ウッ!?」

「君は魔法を使って楽しく生きていたようだが…私は違う!」


 さらにもう1発。苦しそうな顔を見ても容赦はしない。私と彼女の格の違いを教えなければ。


「オエエエエ…」

「家族を魔獣に殺された!一緒にいてくれた友達も殺された!」

「オウェッ!」

「…八つ当たりするように殴ってすまない。だが…お前みたいに絶望も知らずに生きていた者を見ると、反吐が出る!」

「オアアアアア!」

「今の生徒会に集まった人間は全員、魔獣に傷付けられた者だ。私達は志を共にしている。ただ適当にやっているお前達とは違うのだ!」


 床が汚れてしまった。これじゃあ皆の訓練に支障が出てしまうな。


「君の敗けだ。掃除に使える杖を出せ。今すぐ汚した床を掃除しろ」


 本来の目的を忘れて熱くなってしまった。しかしこの程度の実力なら、やっぱり私の生徒会には必要ないな。


「ゲホッ…僕は絶望を知らないわけじゃない………」

「唾が垂れたぞ!これ以上喋るな。床が汚れる」

「君達は魔獣に苦しめられて、憎しみを抱いて戦ってるのかもしれないけど…僕は違う。パロルートの誇りを胸に、魔獣から平和を守る為に戦うんだ」

「そうか、御苦労だったな。これからは私達が魔獣を倒す事になる。君は異世界とやらに帰って学校に通い直すといい」

「嫌だね…僕は戦い続ける…」


 私の勝ちだ。圧勝だ。


「ナイン!しっかりしろよ!なに殴られたぐらいで負けてんだよ!」

「無茶言わないでよ…お腹に食い込む程のパンチだったんだよ?」


 弱者を力すら持たない者が慰めている。実に見苦しい光景だ。

 悔しいか黒金?お前はそのナインと違って力すらない。そうやって心配する事しか出来ない、哀れな男なんだ。


 それと比べて狼太郎は実に逞しい。まだ暴走してしまうが、それでも魔獣の力を手にしようと諦めないでいる。


「…くっ!」

「悔しがる事しか出来ないとは見苦しいな。俺が倒す!とでも叫んで掛かって来てみたらどうだ?」


 過去に私は魔獣に敗れた事があった。その時一緒だった狼太郎はそう叫んで、暴走しながらも魔獣を倒していたんだ。あの時の狼太郎の後ろ姿はとてもカッコよかった。

 彼と比べて黒金は…あまりにも情けない。ただ恨めしくこちらを睨んでいるだけで何もしてこない。しかも身体の僅かな震えを見れば、いくら睨んでも怯えているのだと分かってしまうぞ。


「…魔獣に勝てればそれでいい!無駄に疲れたくないから何もしないだけだ!」

「ッ!ハハハハハハ!ハハハハハ!…フフ、言い訳にしては苦しいぞ、黒金君」

「チッ!」


 舌打ちをすると、ナインを連れて帰って行った。あんな薄汚いやつらは、二度とここには呼ばないようにしよう。


「お見事でした会長。やはり強いですね」

「なんだ副会長、見ていたのか」


 築希が観戦席から飛び降りて来た。私の戦いを見られてしまったか。


「どうですか?5メートルの高さから降りても普通に着地出来るようになりました。そろそろ私達も戦いに参加させていただけないでしょうか?…皆、あなたと狼太郎の力になれるのを待ちわびています」

「そうだな。そろそろ皆の力が必要になって来る頃だ。明日にでも会議を開くとしよう」


 生徒会のメンバーで結成した対魔獣組織ハンターズ。そろそろ実戦に出してみるとするか。


 もうここまでやれば、あのサキュバス達が出てくる事はないだろうからな。

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