第7話 「って何あれ!?」
ラミルダを脱出した私達は現在無限に広がる海の上。そこでナインはコンパス・ワンドを使用して、方角を確かめていた。
「僕達はラミルダから真っ直ぐ北に進んだ海上にいる。このまま、艦隊が攻めてきた方角に飛んでくれない?」
「これも魔法の杖なの?」
コンパス・ワンド…ただ長い棒の先端に羅針盤を付けただけにしか見えない。いや、魔力を感じない辺り本当にくっ付けてるだけだ。
それにしても、ナインの後ろにいる光太がずっと睨んでくる…怖い顔だなぁ。
「なんだよ、俺の顔になんか付いてるか?」
「そっちこそ、私の事ずっと睨んできてるじゃん」
「憎まれること承知で芸能人やってんだろ?これくらいスルーしてみろよ。でなきゃアイドルなんか向いて──」
「光太、つまんないこと言うなら黙ってて」
ナインが高速で繰り出した裏拳が顔面に直撃。光太は鼻血を出して倒れた…ざまあみろ!
…はぁ、こんな人といつまで一緒にいなきゃいけないんだ…魔法より心の方が鍛えられそうだ。
ナインが指した方角へ足場の魔法陣、リフト・べレナスを北へ向かわせた。それにしてもここが異世界か…まだ教科書に載ってるような戦場と海しか見てないからイマイチ実感ないや。
「って何あれ!?クラーケン!?」
そんなことを思ってたら、遂に異世界っぽい物をこの目で見ることができた。海中から巨大なタコの足のような物が飛び出して来たのだ。
「あれは…違うね。タコの足みたいに全身に吸盤を持ったキュウバンウナギだよ。キュウバンウナギはあぁして尾っぽを海上の風に当てて空気を読む癖があるんだ」
「う…ウナギ!?」
すると今度は龍のような生物が現われた!もしかしてあれはリヴァイアサン!?
「あれはホッブズウナギだよ。あいつを食べるとその生物の脳に影響を及ぼして民主的な思想を持つようになるんだ」
「あれもウナギ!?っていうかホッブズならますますリヴァイアサンじゃなきゃだめでしょ!」
な、なんなんだこの世界の生物は!?
陸地が見えてくるまでの間、ナインからこの世界について説明を受けた。アノレカディアは無限の世界で、どれだけ上昇しても空より先の場所はなく、一生掘り進めても反対側の大地に辿り着いたりすることはないそうだ。宇宙は存在せず、アノレカディアそのものが1つの世界だとか難しい事を言っていた。
さっき見たウナギみたいに会話のできない生物は魔物と呼び、人間を除いた知的生命体…つまり会話ができる生物を総じて魔族と呼ぶみたい。でもそれって、魔物か魔族かを決めるのは人間が基準ってことだよね?
「なんで人間は魔族じゃないの?」
「さあ…考えたこともないや」
そんなわけで、国によっては人間と魔族の間に深い溝もあるみたい。どんな世界でもそういう問題があるのことに変わりないんだね。
「英利、一緒にいた時のお兄ちゃんってどんな感じだった?」
「キョウヤ先生?変わった人だったよ。普段はどことなく弱気で頼りないんだけど、レッスンの時は一人一人と向き合ってくれて、励ましてくれた。だからアイドルと魔法使いを両立できるように…いや、両立できるぐらい心を強くしてもらったんだ」
「へえ~相変わらずなんだ!」
先生はアン・ドロシエルとの戦いの後、この宇宙を調べると言って地球を去ってしまった。だからどこにいるのかは想像もつかない。
「…あっ」
光太がボソっと声を漏らす。前方には小さな島が見えた。
「どんな島なんだろう…」
「こういう時は…遠くを視れるテレスコープ・ワンド!」
そういってバッグから魔法の杖を取り出した…けどそれ、どう見たって望遠鏡じゃん…
「何が見える?」
「う~ん…」
「おい、何が見えんだよ」
「あれはね…」
次の瞬間、私達の真横を真っ黒な球体が通り過ぎ去った。
「大砲」
「バッカ野郎!なんで早く言わねえんだよ!」
「二人とも、ちゃんと掴まって!」
次々と飛んでくる球状の砲弾。私は魔法陣に込める魔力を増やし、機動力を上昇させて砲弾を回避した。
「どうしよう!このまま避け続けてもいつか魔力が切れちゃうよ!」
「こうなったら…光太!」
「超人モードだな?」
「超人モードは無理だ!まだ魔力が回復してない!それよりも英利と一緒に、先にあの島へ乗り込んでくれ!僕はこのまま直進して砲弾を集める!」
「はぁ!?だったら俺も行く!」
「君なんかじゃ秒も持たないよ!足手纏いだから言う事ぐらい聞いてくれ!」
「なんでこいつと一緒に動かなきゃいけないんだよ!」
「こんな時にまで駄々こねるな!英利、行ってくれ!」
「でも君は大丈夫なの!?」
「僕はイルカみたいに泳ぐのが得意なんだ。君達が島に着いたら上手い事撃ち落されたフリでもして、泳いで近付くよ」
そうして杖の入ったバッグを腰に巻くと、サムズアップを決めて魔法陣から飛び立っていった。
「どうしてこんなやつと…」
「私だって君となんか!…だけどナインの無茶を無駄にできない。このまま飛ばすから落ちないでよ!」
リフト・べレナスを海面に近付ける。さらにメレオ・ブルー・べレナスで海の色に擬態した。
「最初からこれ使ってれば良かったんじゃないか!?」
「いるって気付かれてから擬態したって集中砲火浴びるだけでしょ!そんなのも分かんないの!?」
そう、ナインが敵の注意を引いてくれているからこうして安全に近付けるんだ。
「砲弾が球体から変わって…うわっ!?」
ナインの近くまで来た砲弾は破裂と同時に物凄い光を放った。ま、眩しい!
「目がァァァ!?」
「光が強過ぎて魔力の迷彩が解けた!」
私達が視界を取り戻すのに時間は掛からなかったけど、すぐ近くで光を見てしまったナインは目を押さえ、その場に留まっていた。
「ナイン!動くんだ!」
そして次の砲弾がナインに直撃し、空中で大爆発が起こった。
「ナイィィィン!」
「助けに…しまった!?」
海の景色との同化が解けていた私達にも砲弾が迫っていた。ナインに気を取られていた私は旋回が間に合わず、同じように直撃を喰らってしまった。
「きゃあぁぁぁ!?」
「うわぁぁぁ!」
リフト・べレナスは破壊され、傷付いた私達は海へ放り出された。
身体中が痛い…まだ強くなれてないのに、こんなところで死んじゃうの?嫌だよ…
あぁ、息ができない…苦しいよ…みんな…




