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第6話 「なっちゃったことはしょうがないよ…」

 僕が変身した超人モード疾風は風を操る事ができる。これなら正面の艦隊への被害を最小限に抑えつつ、ラミルダからの脱出ルートを作れるはずだ!


「光太!吹っ飛ばされないように杖で地面を掴んで!」

「だってよオカマちゃん」

「オカマじゃない!ってかなんで私の方見るの?!心配されたのは君だけでしょ!」


 こんな時にでも喧嘩できるなんて…肝が()わり過ぎだ!ちょっとは身の危険を感じたらどうなんだ!?



 僕は砂浜まで向かうと足を止めた。上陸を狙った兵士達のボートが近付いて来ている。


「油断すんなよ!」


 ボートの機銃がこちらに向いた…話し合う気もないのかよ!


「疾風!龍魔気(たつまき)壱轟(いちごう)!」


 その場で一回転して竜巻を起こした。荒ぶる風は機銃から飛ばされた弾丸を跳ね返し、接近していたボートに穴が開いた。


「な、なんだあいつ!?ラミルダにあんな魔法使いがいるなんて情報はなかったぞ!」

「突撃しろ!どうせあいつ一人ではラミルダは守りきれん!」

「くっ…僕達はこの国にいただけの冒険者だ!頼むから道を開けてくれ!」

「敵でないなら何故魔法を使った!?この風を止めろ!」


「そんな口車に乗るな!お前が防御を解いた途端に撃ってくるぞ!」


 光太が耳ではなく心に直接叫ぶ。僕はその言葉に気を取られ、守りの暴風を解除できなかった。


「…こちらの命令を無視したな!ならばお前はラミルダの味方同然!殺してやる!」

「疾風!龍魔気(たつまき)敵払威(かたきばらい)!」


 身体を左に大きく捻り力を溜めてから、鞭のように右腕を大きく振るう。荒ぶる風は僕の意思のままに流れを変え、並んでいた戦艦を全て転覆させた。


「やったぜ!とんでもねえ風力だ!」

「このまま飛んでいこう!」


 僕は光太を風で持ち上げ、背中に連れて来た。

 英利は足元に魔法陣を出現させる。魔法陣は彼を乗せたまま上昇した。どうやらあの陣を操って空を移動するようだ。




 なるべく近い位置に大地があればいいんだけど…それもこの艦隊とは無関係の平和な国。


「この化け物がぁぁぁ!」


 転覆を逃れたボートの上。そこに立っていた一人の兵士が僕に向かった発砲するが、弾丸は風で防がれた。超人モードの力がなければ危なかった…


「帰還したら殺されっぞ…このまま逃亡しちまうか?」

「そんなことしたら残った家族が殺されるぞ…」


 なんだよ…仕掛けてきたのはそっちじゃないか!そんな目で見られたって、どうすればいいか分からないよ!


「降ろせナイン!」

「はぁ!?何考えてんだよ!」

「あいつら全員、俺達が手加減したから生きてるんだ。それも分からずに好き勝手言うようならこのまま殺してやる!」

「馬鹿野郎!そんなことしてなんになる!」


 風の力が弱まっている。僕と光太の考えが違ってきたせいで超人モードが解けそうになってるんだ!


「死ねぇぇぇ!」


 海中から浮かんできたロボットが銃を向けた。まずい!今の状態で撃たれたらどうやっても防げない!




「毎日幸せじゃいられない


  そんなの誰でも分かるけど


 だけど明日を信じてみたい──」


 透き通るような歌声が響き渡る。銃弾は発射されることなく、沈んでいく機体からパイロットが脱出した。


「なるべく傷付けないように


  少しでも誰かのためになるように


 そして自分を信じられるように──」


 魔法陣に立っていた英利が歌っていた。小さな魔法陣が浮いているが、あそこから音が出ているのだろうか?

 それにしても…優しい歌声だ。


「集まる花は束になるように


  積み重ねた幸せは


   明日が煌めく糧になる──」


 彼の歌でここら一帯の空気が変わった…ただ歌ってるだけのはずなんだ。それともこれは音の振動を利用した催眠術なのか?

 こんな状況なのに心が安らぐ…


 海上にいた兵士達も歌が終わるまで静かにしていた。さっきまでの興奮が嘘みたいに落ち着いていた。


「ふぅ…」

「いい歌だったね」

「即興だからリズムもメロディーも最低だよ」

「今のが即興なの!?」

「うん、私が思った事を歌にしただけ…ねえ皆!皆は戦いたくて戦ってるんじゃないよね?そうだよね!」


「当たり前だろ!好きで戦争やってるやつがどこにいる!」

「戦争が好きでいられるのは戦場に来たことがないからだ!今の王様が特にそうだ!」

「国にいる家族は皆人質も同然!逆らったら親族まとめて殺されちまう!」

「だったら!私達がその悪い王様をやっつけてあげる!」


 な、なんてこと言い出すんだ彼は!?


「それって戦争を仕掛けるってことだよ!意味分かってる!?」

「私達が先に国に行ってるから、観光しながらゆっくり帰って来てよ!その時には平和な国に戻ってるはずだから!」


 ダメだ!喋るのに夢中でこっちの声が聞こえてない!


「ほ、本当か?本当にポニロを倒してくれるのか!?」

「あんな子ども達で勝てるのかよ!?」

「でも俺達、あの子どもに足止めされてんだぜ…」

「約束する!私、アイドルになってから約束破ったことないから!」


 英利は魔法陣の上でポーズを取る。拳を力強く掲げて、海上にいる兵士達を鼓舞しているみたいだ。


「私達に任せてよ!」


 そう告げると兵士達は歓声をあげた。出会ったばかりの彼女が本当に悪い国王を倒してくれると思ったのだろうか。




 僕達は転覆させた艦隊を越えて先へ進む。しばらくすると超人モードが解けそうになったので、英利の魔法陣に乗せてもらうことにした。


「ごめんなさい!私、興奮しちゃうと自分でも止まらなくなっちゃって!」


 英利は開口一番で謝ってきた。なんか俯いてたし、こんな感じだろうと思ってた。


「いっつもこうなんだ!変に見栄(みえ)張っちゃって、そのまま無理難題を引き受けて、みんなに迷惑掛けちゃうんだぁぁぁ!」

「ま、まあまあ。なっちゃったことはしょうがないよ…」


 ネフィスティア学園に行くつもりがとんだ寄り道になりそうだ…




 本当は政治とか戦争には首を突っ込みたくない。戦闘部隊パロルートは悪と戦う正義の組織なのに…


「ねえ光太、どうしよう」

「とんだ迷惑者だな」

「ごめん…」

「そうじゃなくて、戦争になるかもしれないけど平気?今ならまだ間に合う。君だけ元の世界に──」


 アノレカディア・ワンドを取り出そうとする腕を掴まれる。僕は手を止めて彼の言葉を待った。


「お前に合わせる」

「なんだよそれ!」

「俺はお前と強くなりたくてアノレカディアに来た。ネフィスティアにこのまま行くならそれでいいし、ポニロとかいう野郎を倒すなら遠回りしても構わない」

「君の意見が聞きたいの!」

「戦争なんてどうでもいい。俺はお前と一緒に強くなる。それだけだ」


 ダメだ!これじゃ話にならない!それにこの顔!今俺、良いセリフ言ったよな感が駄々漏れだ!


「ごめん…私、一人で行くよ」

「えぇ!?ダメだ!何かあったら大変だよ!」

「だけど約束したんだ!期待させて裏切るような真似はできない!王様は倒す!」


 そんなこと言うんだったら、僕も行くしかないじゃないか!


「じゃあ僕も行く!君一人だけで危ない場所には行かせられない!」

「こいつのためってのが気に入らないが…まあいいか」


 ネフィスティア学園に行くはずだった僕達。しかし英利の約束を果たすため、ポニロという王様を倒すことになった。

 それにしても…そのポニロっていう王様はどこに国にいるんだろう。

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