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サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
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第69話 決着!ナインの必殺技!

 魔獣を倒しても帰れる可能性がある。光太の考えを信じたナインは、魔獣を本気で倒そうと戦い方を変えた。


「な、なんだ!?」


 高速の動きで敵を翻弄した直後、ナインは全身をバネのように縮めてから蹴り上げる。 

 島は彼女を迎撃しようとしていたが、主が離れた事が原因か動きが鈍り、やがて静止。アンバランスな形となった地形は瞬く間に崩れていった。


 ナインは打ち上げた魔獣の進行方向へ先回りすると、渾身の右ストレートを放つ。

 だが姿勢を整えた魔獣はその一撃を受け止めて反撃。お互い全力の高速攻防(ラッシュ)が始まった。


「いいのか?私を倒したら後悔するぞ。プレイヤーの意識は二度と現実には戻らないぞ」

「散々好き勝手やっといて、自分が殺されそうになったら命乞いか?セリフが小物くせえな。ラスボスなんだからもっと堂々としてろよ」

「くっ…だぁ!?」


 戦闘技術は勿論、精神的にも圧倒する。

 集中が途切れた魔獣は肩に重い一撃を受けて、そこから強烈な拳を連打された。


「ぬぁぁぁ!?ひ、卑怯だぼぉ!?」

「でりゃあぁぁぁ!」


 必死になった魔獣は最後の一撃を避けた。するとそのままイラネイの方へと逃げ出した。


「逃がさん!」

「お前はこいつらとでも遊んでいろ!」


 するとエフェクトもなく超巨大なモンスター達が現れた。どれも特定の条件を満たさなければ戦えない超強力なモンスターだ。


「どけぇぇぇ!」


 それでもナインの勢いは止まらず、群れの中心を突破。触れてくるモンスターを一撃で倒し、魔獣を追いかけた。


「お前自身が強くても、その仲間達はどうかな!」

「させるか!」


 魔獣は街にいるプレイヤー全員の位置を一瞬で特定すると、彼らを狙って無数の光線を放った。

 それに対してナインも光線を放ち相殺。即座に魔獣を殴り飛ばし、イラネイのビルに叩きつけた。


「この世界では私は最強だ!何者にも負けるわけがない!」

「うぉりゃあぁぁぁ!」


 ビルへ叩きつけた敵に急接近。その速度を乗せた蹴りを放ち、並んでいたビルを次々と倒壊させた。


「うぉぉぉ!」

「あぁぁあ!?」


 ナインは後方へビームを照射して、魔獣をスケートボードのようにして地面を引き摺る。そして島の端まで追い詰めると素早く跳躍し、力強い着地(スタンプ)をお見舞いした。

 背後のビルはグニャグニャと揺れ、地面は大きく割れ、その光景が一撃の威力を物語っていた。


「ま、待て──」


 倒れていた魔獣の脚を掴み、先程のお返しと言わんばかりの高速回転するナイン。暴風が起こる程の速度に到達すると、手を放して空中へ投げ飛ばした。


「終わりだぁぁぁ!」


 ナインは手を構えると、エネルギーショットを発動。夜空の魔獣に命中すると、花火のように鮮やかな色で爆発した。


 とうとう、アドバンスセブンスを支配していた魔獣が撃破された。

 ナインは勝利の余韻を味わうより先に、突如沸き上がった自身の力の事を考えていた。


(これもミラクル・ワンドの力なのか…あの光もそうだが、やはり謎が多い。そろそろ研究した方がいいかもしれないな…)

「ナイン!そんなことよりも!やったなおい!」

「…あぁ、この力のおかげであいつを倒せた。ありがとう。後はこの世界にいるプレイヤー達の意識を元の肉体に戻すだけだ」

「うわー…なんかあれだ。注射する前日までは余裕なんだけど、当日病院に着いた途端に滅茶苦茶怖くなる感じだ…やるぞ~やるぞ~!」

「キッツいだろうけど頑張れよ」


 存在する空間が違うナインと光太を繋ぐ心のケーブル。まずはそのケーブルを通って光太のいる現実まで移動。そして彼の肉体から元の身体へ意識を飛ばすのだ。




 光太が魔法の杖を用意している間に、ナインは街を歩いてウドウ達を探した。


「それにしてもこのパワーはいつになったら収まるんだ…?」


 ナインは未だに派九の姿のままだ。二人とも変身を解除しようとしたが、どうにも自分達の意思では解除できないようだった。


「見つけた…みんな!」


 ナインは大きな声で呼んだ。聴こえないはずがなかったが、ウドウ達は反応せずに空を見上げていた。


 彼らに釣られて見上げた夜空には青い鯨が残っていた。それもこれまでとは違って、自分達が立つ大地を向いていたのである。

 さらにナインが鯨を目視した時、街中の音響装置から魔獣の叫び声が聴こえてきた。


「ここで死ぬくらいなら私もろともこの世界を消滅させてやる!ドローだ!引き分けだ!この世界で私が負ける事は絶対にないんだ!」


 ナインは初めてウドウと出会った時に聞いた青い鯨の話を思い出していた。

 鯨に向けて飛ばしたドローンが接触と同時に消滅。そんな風に接触した物体を消滅させられる鯨が大地に触れたらどうなるかなど、考えたくもない。


「ここまでなのか…ここまで辿り着いて…」

「ちくしょう!なんなんだよあいつは!」


 ダッシュスラッシャーズとるーてぃーんえーじゃーず、両グループの士気は消沈し、これから降って来る絶望をただ見上げることしか出来なかった。


「はははははは!ゲームオーバーだ!生意気なプレイヤー諸君!良かったなるーてぃーんえーじゃーず!負けた事で炎上はするだろうが、ここで死ぬからバッシングで心を痛めずに済むのだ!はははははは!」


「ナイン・ワンド…」


 それでも諦めない者がいた。圧倒的な質量を持った魔獣本来の姿を相手に勝つつもりでいるナインは、右手に自身のエネルギーを集中させた。


「アノレカディアの餓鬼!どれもこれもお前が悪いんだ!お前のせいでここにいるプレイヤーは全員消滅する!そいつらを守ろうと戦ったお前の負けだ!」

「ガキじゃねえ、俺はサキュバスのナイン・パロルートだ。自分を負かしたプレイヤーの名前ぐらい覚えとけ」

「負かした?私がいつ負けたというのだ?戦いはまだ続いている。誰も守れなかったお前の負けだ!」

「ウドウ達の力でお前に辿り着いた!お前の力に踊らされていたぷらはさん達も自分の意思でお前に立ち向かった!そして俺の力でお前を倒した!三度も負けて、それでも負けてないと言い張るのか?」

「黙れえぇぇぇ!私は負けてぁぁぁい!」


 地上を向いた魔獣は落下を開始。

 ナインはエネルギーが集まった右手を天に掲げた。空いていた左手は真っ直ぐに伸びたその腕を支えた。


「負け犬がごちゃごちゃと…黙るのはてめぇだぁぁぁ!」


 そして掌から放たれたエネルギーが、青い鯨に向かって一直線に向かっていった。


 ナインの必殺技(ナイン・ワンド)を喰らうと魔獣は減速していく。しかし今の威力では地上への接触は免れない。

 放出するエネルギーを増やすと光線は大きくなり、魔獣の落下速度を落としていった。


「はぁぁぁ!」


 そしてもうひと踏ん張り。限界まで力を振り絞り光線の威力を高めると、遂に青い鯨が動きを止めた。しかしこのままでは青い鯨を固定しているだけだ。撃破するにはまだ威力が足りない。


「きっ!」


 だが威力を少し上げると、ナインの関節が曲がった。彼女自身がこの強力な光線に耐えられそうになかった。


「ナインさん!」

「ナイン!」


 自らの技に身体を折られそうになったその時、ぷらはとウドウが駆けつけて彼女を支えた。

 これなら今以上の威力に引き上げられる。ナインは心の中で感謝した。


「ワンダァァァァァァ!」


 エネルギーの増したナイン・ワンドは魔獣よりも大きく拡大。

 そして直撃していた前面から魔獣の身体が崩壊していく。


「ばぁぁぁかぁぁぁなぁぁぁ!?」


 この世界ごとナイン達を消滅させようとした魔獣。その最期は消滅させようとした世界に立つ戦士が放った最大の一撃による物であり、支配者を気取っていた者にしてはこの上なく滑稽な最期であった。


 最後の攻撃を終えてもしばらくの間その姿勢のままだった。ナインは青い鯨のいなくなった夜空に手を掲げていた。

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