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第3話 「やってくれない?」 

 あぁ…今日も疲れた。あのハゲ教師め、明日提出の課題を渡すの忘れてましたとか…ふざけんなよマジで。絶対徹夜だろこれ…


「おかえりー!夜ご飯出来てるよ!」


 同居人のサキュバスナインが笑顔で迎え入れてくれた。

 全っ然嬉しくない!


「おいナイン!弁当に梅干し入れるなって言ったろ!」

「あれれ~?ただいまが聞こえないぞ~?」

「チッ…ただいま」

「梅干しは健康に良いからねぇ。光太は入れた物絶対に食べてくれるし、作り甲斐があるよ」


 ソースが付いたエプロンを着ている。今日の夕食は手作りか。こいつの料理味薄いんだよなぁ…


 そんでそれに文句を言おうとすると…


「あのさぁナイン。今日の夕食──」

「美味しいよね」


「ハンバーグ。とっても美味しいよね」

「味がさ──」

「美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい…」


 話を聞かなくなる。怒ってるわけでもなく、文句を聞き入れるのが嫌らしい。


「はぁ…もういいよ。ごちそうさま」

「文句はあるけどちゃんと食べてくれるんだね」

「腹が減っては戦ができぬって言うからな」

「なに君、この後戦いにでも行くの?」

「まあそんな感じだ。明日までに終わらせないといけない課題があるからな」

「それじゃあ…いい杖があるよ!」


 ちょうど食事を終えたナインは、テーブルに置いていたウエストバッグからまた魔法の杖を取り出そうとしていた。


「○ラえもんの四次元ポケットかよ」

「はいこれ!」

「はいこれって…」


 それは誰がどう見ても魔法の杖とは言えない、泣き出しそうな少年だった。


「パシリン・ワンド!やって欲しいことを彼に頼めばなんでもやってくれるよ!」

「いや杖じゃねえだろ!杖要素がどこに…はっ!」


 良くみるとこの少年、頭から杖が生えている…魔法の杖なのか?この見た目で。


「同情なんてしなくていいよ。こいつ元々はとんでもない悪党だったんだし。それより光太!彼に課題をやるように頼んでみてよ!」

「えぇ………俺の国語の課題、やってくれない?」

「やらなきゃ…ダメ?」


 あぁ無理だ。自分でやろう。そもそも誰かに自分の課題をやらせようとするのが間違ってるんだ。


「弱いよ光太!…おいチビ。こっち見ろ」

「は、はいっ!」

「食器洗っとけよ。それとこれ、買い物のメモ。食器洗い終わったら買いに行け」

「え…でもお店閉まっちゃう…」

「閉まる前に行けば良いだろ!?そんなのも分かんねえのなお前!使えね~…他のやつ使うか」

「僕がやります!僕がやるから…弟たちを使わないで!」


 そうして人の姿をした魔法の杖は急いで食器洗いに取り掛かった。


「ほらね?」

「ほらね?じゃねえよ!おい君!こんなやつの言うこと聞かなくて良いんだぞ!食器洗いも買い物も俺がやるから!」

「でもやらないと!弟たちが殺されちゃうんだ!」


「君が死んでも代わりはいるけど、君が働かなくなったら弟たちは死んじゃうよ?」

「うわあああああああ!」


 酷い物を見た。結局、それを見た後に課題を頼めるわけもなく、自販機で買って来たエナジードリンクをお供に徹夜した。




 そして次の日の朝。課題を終えた俺はベランダで日の出を拝もうと、リビングへ。

 そこには昨日の少年が倒れていた。


「おっ!おい!しっかりしろ!大丈夫か!」

「お腹が…空いた」


 俺は冷凍庫の食品を片っ端から温めていき、次々とテーブルに並べていく。涙を流しながら食べる姿を見て、心を痛めずにはいられなかった。


「ありがとうございます。昨日頼まれた買い物を終わらせてから記憶が飛んで…」

「可哀想に…ナインはどこだ!」


 ナインに貸し与えた和室へ。彼女はまだぐっすりと眠っていた。いつも杖を取り出すバッグは、枕元に置いてある。

 それを回収した俺は少年の元に戻り、彼の弟達を解放させた。


「ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」


 そしてさも当然のように魔法を使い、異世界アノレカディアへと帰って行った…魔法の杖なのか生き物なのかどっちなんだ。



 それよりもナインがこんな畜生だとは思わなかった。少し教育してやらないとな…


「おい起きろ畜生!」

「んん~?なんだよ、うるさいな~もう…」

「お前に課題を与える!この紙に書いてある課題を今日中に全て片付けろ!」

「えぇ~…へっこんなのラクショーだよ………あれ、僕のバッグは?」

「バッグなら俺が預かっている。魔法の杖なしで!この課題を終わらせろ!」

「んなの無理に決まってるじゃん!パシリン!パシリンはどこ!?こいつからバッグを取り戻して!」

「あいつらは全員解放した。もうお前の為に働く奴隷は誰1人いない」


 俺がいない間、ほとんどの家事をやっていたのがきっとあの少年だ。俺はナインが働いている姿を台所でしか見たことがないからな。


「これから毎日出す課題が終わらせられなかったら…その日にはこの家から出て行ってもらう!」

「そんなあああ!?で、でも魔法の杖は使い方が分からないと効果を発揮できないよ!僕がいないと杖、使えないもんね~?………どうしたの杖なんか取り出して?えっ?えっ?えっ?痛い!殴らないでよ!きゃっ!痛い!痛い!」

「木の棒から始まった人類をナメるなよ!お前にとっちゃ使いづらい魔法の杖でも、俺にとっちゃ殴りやすい棍棒なんだよ!おらっ!分かったら起きろ!朝飯作れ!」

「意味分かんないよ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!痛いから本当に!やめて!」


 それからナインは暗い表情で、たまに俺の顔を見て怯えながら家事をするようになった。課題はギリギリ終わるようにしてあるし、間に合わなくても見逃すようにはしている。

 しばらくは預かって、魔法に頼らないようにさせよう。


 それにしても…こんなDVみたいなことして、最低だな俺。

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