第65話 「づあぁぁぁぁぁ!」
邪気を感じる。そういえば前に長い髪の女…魔獣と戦った時も同じものを感じた。
「来たぞ!」
そしてあいつは僕達の前に姿を現した。
「俺が前に出る!」
ウドウ以外のダッシュスラッシャーズの全員が姿を消した。
彼と僕、それにぷらはさん達の5人で、魔獣を包囲。こうやって一斉に攻撃すれば無傷では済まないだろ!
「エネルギーショット!」
そして僕達の放った攻撃が魔獣を飲み込んだ。
ぷらはさんとイサミは飛び出すと、近接武器を構えながら突進。怯んだ魔獣に透かさず斬撃を加えた。
「入った!」
二人が魔獣の両腕を跳ねた!
ウドウとロアクは銃を構えて頭部を狙い撃つ。近くにいた二人は射線を離れて戻ってきた。
そこへさらに、透明化している天さん達の弾丸も加わった。普通のプレイヤーなら既に倒れているはずだけど、魔獣はまだ立っていた。
「エネルギーバースト!」
そのまま立ってろ!この一撃でお前を消し飛ばしてやる!
「づあぁぁぁぁぁ!」
覚醒して超巨大エネルギーボール生成!操られる前にエネルギービーム照射だ!
極大の光線が周囲を削りながら魔獣へ進行。命中してもそこで止まらず、さらに先に建っているビルを倒壊させてしまった。
「あいつはブルクの天水を持ってる!油断するな!」
イサミが大きな声で警告した。そうだ、あいつは残機を1つ持ってると言ってもいい。天水を使わせるか、使われる前に倒す!
「超連続のエネルギーショットだぁぁぁ!」
僕は両腕を構えてエネルギーショットを連射した。
大体100発放った後、前方にら物凄い土埃が舞っていた。
「覚醒を解こう…ふぅ…」
「これで生きてたらチートを疑うぜ」
「自分達だって使ってた癖に…」
「あぁ?なんか言ったか?」
ウドウとイサミが険悪な雰囲気になる。仲裁しようと思ったその時、埃の中から何かが飛び出てきた。
「女だ!」
傷を追った魔獣だ。ぷらはさんに狙いを定めて走っている!それと天水を使わせたみたいだ!腕が生えてるぞ!
「エネルギーバリア!」
足止めしようとバリアを出すが、魔獣はそれを駆け登った。しかし空中で攻撃の体勢に入ったところを皆が狙い撃ちにしてくれた。
「ナイン!覚醒を!」
「クールタイム中だからまだ無理だ!」
魔獣は傷を負ったけど勢いが止まらない!このままだとぷらはに接触する!
「こ、来い!」
「気を付けろ!何をしてくるか分からんぞ!」
魔獣がリーチに飛び込んだ瞬間、凄い速さで鎌を振った。あれはカウンター技だ!
魔獣は上下真っ二つに切断された。
しかし、魔獣の身体は最初からそこになかったかのように消えた。
「倒したのは分身だ!本体は別の場所にいるぞ!」
「きゃあ!?」
透明になっていたはずの地地さんがビルに叩きつけられた。彼女がいた場所には魔獣の本体が立っていた。
「ジャケットを着ていなかったら即死だったな。近い狙撃手から順に仕留めていく」
「海さん!気を付けろ!」
魔獣は誰もいない場所へ走ったかと思うと、何もない場所で手刀を振り降ろした。すると突然赤い液体が噴き出し、海さんの姿が露になった。
「全員防御力を上げろ!居場所が割れてるぞ!」
僕とウドウは次の攻撃に移られる前に魔獣へ仕掛けた。
「うりゃあ!」
「パンチとアーミーナイフによる突き。安い攻撃だ」
魔獣は僕達の攻撃を掴んだ。そしてお互いの身体を、まるでシンバルを鳴らすみたいに勢いよく衝突させた。
「だぁッ!?」
「くっ!」
この痛み…今さらだけど納得だ。こんなリアルな感覚をゲームだからって表現していいはずがない。どれもこれもこいつが仕組んでいたんだ。
「さらにもう一度」
「うぉおっ!?」
「だっ!?」
この野郎…!
魔獣は僕達を放り投げると、次に近かった狙撃手の方へ。
その後、空さん、宇宙さん、天さんと順番に悲鳴が聴こえた。ウドウはどこからか無線機を取り出し、彼女達に呼び掛けた。
「全員無事か…?」
「地地、海と合流…回復なくなった」
「空だよ。私と宇宙は撃つだけなら出来るけど、天は腕を落とされた」
「なら──」
何か伝えようとしたその時、飛んできた石によって無線機が壊された。
「ナイン、時間を稼げ」
「分かった」
ウドウには策があるみたいだ。ちょうどクールタイムが終わったところだし、もう一度覚醒して対抗しよう。
「エネルギーバースト!」
「ワンパターンな攻撃は素人にしか通用しないぞ」
目の前にいた魔獣へ肉弾戦を仕掛けた。武器がなく、エネルギーボールなどの技を知られてる以上、自分の技術でこいつに挑むしかない。
最善の手と思って繰り出した連続攻撃を、魔獣は完璧に防御していた。
「我流だな」
「でりゃあぁぁぁ!はぁぁぁ!」
どうしてこうも当たらない!?ステータスは最大値なのに!
「くそっ!」
「ポイントの振り方が違うだけで、今の私もレベル200と変わらない。攻撃が当たらないのは君が弱いからだろう」
「黙れ!」
もしもこいつの言うことが本当なら、単純に僕の技量が足りてないだけなのか!
「うぉぉぉ!」
「単調な攻撃だな」
魔獣に渾身の蹴りを掴まれた。掴まれた足を降ろそうとするが全く動かせない。
「へぁッ!」
地面に付いていた片足を浮かし、胴に目掛けてさらに蹴りを放つ。
しかしそれすらも掴み、魔獣はその場で回り始めた。
「は、放せ!」
「まあ待て」
魔獣のジャイアントスイングは勢いを増していく。
しかめっ面にエネルギーショットを連射して抵抗するも、回転のスピードが落ちることはなかった。
「くそっ!」
「お望み通り放してやろう」
こうなったら防御するしかない!防御の姿勢を取ってから一瞬、僕はビルに激突した。
なんて強さだ…一体どうすればあいつに勝てるんだ!
「ナインさん!」
「死ねぇぇぇ!」
ぷらはさんとイサミが挟み撃ちを仕掛けるが、彼らも軽々と返り討ちに遭ってしまった。
「お遊びはここまでにしよう。早くこの力を現実で試したい」
今の攻撃で僕の覚醒は解けてしまった。今の状態で挑んでもあいつには勝てない…
「待てよ!…まだ俺達が残ってるぜ」
「ウドウ…」
ウドウは覚醒していなかった。しかし様子が変だった。まるで覚醒しているかのような存在感があった。
「次のステージへ上がる前のボス戦と言ったところか」
「お前はここでゲームオーバーだ。今までこのゲームで死んでいったやつらに詫びに行かせてやる」
一体どうなってるのか想像つかない。だけど倒せるならそいつを倒してくれ!今は君しかいない!