表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サキュバスのナイン・パロルート  作者: 仲居雅人
アドバンスセブンス
296/313

第64話 緊急事態、一時停戦

 無名の槍を両手で握ると、ナインは敵に向かって突進した。


「どぉりゃあ!」


 ナインはひたすら攻撃の動作を繰り返した。槍に関する技は一つも習得しておらず、どこかぎこちない動きだった。


「流石だ。私の同族を幾度となく葬っているだけのことはある」

「お前達魔獣は一体何なんだ!どうして現れる!」

「私達は現れてはいけないのか?だから倒されなきゃいけないのか?」

「誰かを傷付けるのなら容赦しない!この世界で命を弄んだお前は絶対に許さない!」

「別に構わない。しかし私達の発生の起因は、他でもなくアノレカディアではないか」


 ナインが一瞬鈍った。そこへ魔獣がキックを放つが、身体が反射的に避けていた。


「ツッ!どういうことだ!」

「知らないならそれでいい。それを取り除かれたら私達は生まれなくなってしまう」


 それからも諦めず、必死に攻撃を続けた。



 一方で魔獣は、遊ぶように攻撃を回避しては、気が向いたら適当な反撃を繰り出していた。


「ふむ、刃に意識が集中し過ぎている。如意銀箍棒を使っていた時は全身を武器にしていた。今よりキレがあったぞ」

「うらぁせえ!」


 雄叫びと怒号が混ざる。ナインは槍を横に大きく振った。


「エネルギーボール…」


 それから魔獣に見えない位置。身体の陰に隠した手の中に、エネルギーボールを作り出した。そしてここだという瞬間、技名を唱えた。


「「エネルギーオペレイド」」


 エネルギーボールはナインの手を離れた。そして使い手である彼女の顔面に直撃した。


 何が起こったのか。ナインは理解が出来ていなかった。


「カードゲームはやらないのか?トランプみたいな陳腐なやつじゃないぞ。何にしても能力の説明文はよく読んでおくべきだ。エネルギーオペレイドとはエネルギーボールを操る技。エネルギーボールがあるのなら、それが誰の物でも操れる」


 つまり、エネルギーオペレイドを先に唱えた魔獣がボールを操ったのだ。



 そして怯んだところに魔獣のアッパーカットが炸裂。ナインの身体が大きく跳ねた。


「私は槍術の提供を求めた。余計な搦め手は必要ない」


 頭部に一撃貰ったのは大きかったようだ。

 ナインは受け身を取る余裕もなく、背中から地面に落下。既に槍を手放していた。


「くっ…!」

「ここはゲームの世界だ。現実ではできない事ができる。しかしここでできない事も当然ある」


 魔獣は語りながら、ナインが落とした槍を拾った。


「ここでは自然の法則ではなくゲームシステムが絶対だ。今のお前は気合や根性では決して立ち上がれない。チェックメイトというやつだ」

「ち…くしょう…!」


 刃を下に向け、魔獣は腕を降ろす。


「させないッ!」


 だが間一髪のところで、ぷらはがナインを連れ去った。

 追撃しようとする魔獣の足元に手榴弾のような物が転がる。その物体から黒い煙が噴き出し、魔獣の視界は遮られた。


「これは認識阻害弾…厄介な物を持っていたな」


 一連の行動に感心しつつ、魔獣は手に握った槍を消滅させた。






「た、助かったよ…」

「あの女、喋れたんだ…」


 ナインと魔獣が交戦している間、ぷらははアイテムで動けるぐらいには回復していた。

 少し経つと、認識阻害弾を投げたイサミが合流してきた。


「やっぱりログアウトできねえ…」

「あいつを倒さない限り、ログアウトはできない…」


 渋々だが、イサミは回復アイテムを差し出した。どうやら敵対している場合ではないと、彼も分かっているようだ。


「ありがとう…」

「おい、あいつはどうやったら倒せるんだ。何か知ってるんだろ」

「…あいつを倒すのに何か特別なアイテムが必要とか、そういう条件はない。倒せばいい…だけど、戦って勝てるかどうか…」

「一度みんなと合流しましょう」

「そうだな…」


 そうして三人は魔獣がいた場所から離れる様に進んだ。






 イラネイで繰り広げられていた戦いはどれも停戦状態だった。


「ロ、ログアウトできない!」

「どうなってんのよ!?」


 イサミの雇ったプレイヤー達がログアウト出来ないことに気付いてから、戦っている場合ではなくなったのだ。


「おいお前!何とかしろよ!」

「そんなこと言われても…」


 詰め寄られる天だが、チートを持たない彼女はどう対処すればいいか分からなかった。


「そんな…嫌だ…」

「こんなことってあるかよ…」


 混乱する軍勢を離れるとハンドシグナルを送った。

 透明化して一旦集合。それからすぐに、ウドウを除いたダッシュスラッシャーズのメンバーが天の元に集まった。


「ウドウと合流しよう」

「だけどリュウザンはどうするの?まだどこにいるかも分からないよ」

「それらしい弾はなかった。もしかしたらリュウザンはこの中にいないのかも…」

「それじゃあどこに…まさか!?」

「ウドウが危ない!」


 5人はウドウの身を案じて、すぐに彼のいる場所へ向かった。






 そしてそのウドウはと言うと…


「楽しいなぁ…こうハラハラしてるのに楽しいのは久しぶりだ」

「戦闘狂が…」


 彼もロアクも既に満身創痍。覚醒状態での衝突も既に終え、残った力と己の持つ技術をぶつけ合っていた。

 ウドウは楽しんでいる。青い鯨が出ていて、ここで負けたら死ぬかもしれないというのにだ。


「おっとぉ」


 そして背後からの狙撃を避けた。既に隠れているリュウザンの存在にも気付いており、今までに何発もの放たれた弾丸を回避しているのだ。


「スキルは使えないはずなのに…なんでだ」

「カメラ点けてベラベラ喋ってる暇があるなら戦いに集中しろ」


 どこからかリュウザンの弾丸が放たれる。ウドウがそれを避けようと身を逸らすと、その先にいたロアクに命中した。


「油断してるから仲間の弾に当たるんだよ…そこだな」


 倒れたロアクからライフルを奪うと、狙いを定めずにリュウザンが潜んでいる方へ発砲した。


「ぎゃあ!」

「…ナインの存在か…いや、イサミの危機がお前達を焦らせたか。ちゃんと戦えなくて残念だ…よう、こっちは片付けたぞ」


 ちょうど戦いが終わった時、天達が合流した。彼女達はリュウザンの事を伝えたが、既に倒したと聞いてとても驚いていた。


「後はナインだけか…」

「早く加勢しに行きましょ!」


 海は急かす。だがその必要はなかった。



 ぷらはに背負われたナインがこの場に現れたのだ。


「待って!武器を向けないで!ボク達に戦う意思はない!」

「お前達!武器を降ろせ!」


 ウドウが怒鳴ると天達は銃を降ろした。すると彼は倒れていたロアクを指した。


「睨むな。まだ身体が残ってるって事は生きている。多分リュウザンもな」


 ぷらはから降りると、ナインは自分達が逃げてきた方向と、青い鯨の浮かぶ空を交互に見た。


「長い髪の女が来る。みんな、回復アイテムを出し合って態勢を整えるんだ」

「もしかしてこいつらと手を組むつもり?絶対後ろから撃たれるって!」

「俺達も願い下げたいけどな」

「あいつを倒さない限り絶対にログアウトできないんだ!協力しろとは言わないから、倒すまで生き残ってくれ!」


 そう言ったが回復アイテムを持っていないので、貰うだけのナインであった。


 完全回復とはいかなかったが、普通の敵と戦うには充分なほど回復した。しかし相手は長い髪の女であり、これまでと変わらず気は抜けない。


「…勝算はあるのか?」

「…へへへ」


 ウドウが尋ねると、ナインは笑ってはぐらかした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ