第54話 「お前達が誰かを傷付けた事実に変わりはない!」
いや~大変だった!ウドウめ、僕を置いて行っちゃうなんて!再会したらタダじゃおかないぞ…
大きなモンスターから逃げ切り、スワンボートを漕いでいる僕の正面にはプラティらしき島が見えていた。
「デッカイ木だな…」
ここから見て分かるのは、島全体に超巨大な木が生えているということだけ。ウドウが言っていたモンスターはあの森の中に潜んでいるのだろうか。
「あぁ、足が疲れた…」
残っていた最後の回復アイテムを使って体力を取り戻した。ここら辺の波は凄く荒れていて、プラティへ近付こうとすると押し戻してくる。きっとあの島はスワンボートで近付けるような場所じゃない。もっと入手難易度の高い高性能な乗り物で向かうべき島なんだ。みんなが乗ってた水上バイクみたいな。
「誰か~助けて~!」
こんな海のど真ん中で叫んだって誰も来てくれないだろうなぁ。
そう思った矢先、前方から何かが近付いて来ているのに気付いた。
アレはウドウ達が乗って行った水上バイクだ。乗っている人は…ウドウ達の仲間だろうけど、今日初めて顔を見た人だ。
「君、ナインで合ってるよね!?」
「君こそウドウの仲間でしょ?」
「早く乗って!私達、待ち伏せされてたんだ!プラティにるーてぃーんえーじゃーずがいたんだ!」
「なんだって!?」
そうか、さっきの襲ってきた連中は僕らの内の誰かを倒せば賞金が出るって言ってたな。
きっとあいつらは賞金なんて用意してなくて、賞金狙いのプレイヤーは僕達をプラティに移動させるための駒に過ぎなかったんだ!
ウドウの仲間の後ろに乗り、僕は先を急いだ。
「…ところで君、名前は?」
「宇宙宇宙。飛ばすよ!」
凄い名前!そら嘘だぁ!ってボケたかったけどそういう空気ではない。一刻も早く島に着くように祈ろう。
バイクを飛ばして10分。険しい岸壁を登ってプラティに上陸した。
「ナイン、これを」
そう言って渡されたのは周囲の景色に擬態するギリースーツと呼ばれるアイテムだった。それも植物の臭いが強いというオマケ付きだ。
「この島には強いモンスターがいるんだったね」
「うん。絶対に反撃なんて考えちゃダメだよ」
そんな島でウドウ達は敵に追われている。急いで合流しなければ。
僕達は森の中を全力で駆け抜けた。宇宙さんは森の木に打たれていた杭を辿って、ウドウ達を探していた。最初は黄色だった杭は、しばらくすると赤色の物へ変わっていた。
「マズイ…赤色ってことは結構ピンチだ」
「スピードアップするアイテムはないの!?」
「ごめん、私狙撃専門だから…」
その時、前方で大きな爆発が起こり草木が揺れた。宇宙さんはその場に膝を付け、大きなライフルを構えた。
「木をブッ飛ばす!ナインは斜めに走って、道が開いたら一直線に!」
何をするか大体分かった。僕は宇宙さんを抜かして、射線から離れるように走った。
「アイナフィスコーピオン、展開!」
宇宙さんはライフルの先端に筒状態のアタッチメント、サプレッサーを装着。するとサプレッサーは大砲へ変身した。これでは後ろで接続しているであろうライフルの方がアタッチメントのように感じてしまう。
きっとあれは接続した武器の威力を倍増させるとか、そういった類いのアタッチメントなんだ。
よほど反動があるのか、大砲はバリアを張って使用者を守った。
「ファイア!」
そして僕が今まで撃ったエネルギービームは比べ物にならないくらいの極太光線が森を走り出し、障害物となる木々を破壊していった。
大砲の排熱部から放出される熱は地面を溶かしていた。あの熱では宇宙さんはバリアから出られない。
急ごう。このまま前進するんだ。
「行って!」
「あぁ!」
光線が走って出来上がったばかりの道に移る。地面は恐ろしいほど熱く、ここにいるだけでダメージを喰らっていた。
それでも僕は道を逸れず、真っ直ぐに走り続けた。
しかし急ぐ僕を妨げるように、この島のモンスターが現れた。木の枝に掴まっていた滅茶苦茶巨大な猿が、一軒家ぐらいの木の実を僕に投げようとしていた。
「アチッ!如意棒!」
火傷するほど熱かった如意銀箍棒を地面に付けると、前方へ向かって伸ばしてそのまま前へ。
すると大猿は木の実を投げたのだろうか。背後から突風が起こり熱が飛んでいった。
「グオオオ!」
こうなってしまったらもうスーツは邪魔なだけなので投げ捨てた。
雄叫びの後、猿は僕の後ろに飛び降りた。一体どんな攻撃をしてくるのだろうかと振り返ると、巨大な尻尾で木を叩き折りながら近付いていた。
「エネルギーバリア!」
僕のバリアは簡単に破られ、破壊のテールアタックを喰らった。
身体はジャストミートしたボールのように大きく吹っ飛んでいく。もしも宇宙さんの一撃がなければ、生えていた木に衝突してそのまま死んでいただろう。
だけど考えようによってはラッキーだ。このまま爆発が起こった場所まであっという間に辿り着ける!
向かった先では無傷のイサミがウドウ達にライフルを向けていた。それに対してウドウ達は傷だらけだった。
「さっきは変な邪魔が入ったが…今度こそお前達を殺す!」
「待ち伏せなんて卑怯よ…!」
「待ち伏せじゃなくてドッキリだ。プレイヤーキラーキラーは、もしも自分達が不意に襲われたらどういう反応をするのか!?…うん、タイトルはこれでいこう。私人逮捕ってわけじゃないけど、こういう勧善懲悪的な動画はウケがいいんだ」
「エネルギーボール…エネルギーチョップ!うおおおおお!」
エネルギーボールで強化したチョップを、イサミの脳天に叩き込んだ。
「うわあああああ!?なんだこいつは!?どこから!?」
「あの傷でここまで…まさか、自傷することで生命力を下げて感知スキルを潜り抜けたのか!?」
「何が勧善懲悪だこの屑野郎!」
ふざけやがって!お前らは私利私欲のために一体どれだけの人を殺した!
「おおおおりゃああああ!」
勢いに任せ、イサミの頭を地面に叩きつける。これでもHPが残ってるなんて一体どうしてだ!
「もう一発!」
「後ろから来てる!」
海さん達がライフルを向けて発砲。背後から迫っていたぷらはは弾を避け、僕を斬りに来た。
「エネルギーチョップ!」
死の瘴気を纏った刃と手刀が激突。技は完走していないという扱いなのか、腕はエネルギーを纏ったままだが身体は自由に動かせる。僕はそのまま力比べに持ち込んだ。
「イサミさんを殺そうとしたな!」
「ぷ、ぷらは…助かった…」
「散々殺したんだ!殺されても文句は言えないだろ!」
「ボク達は配信者としての生活が懸かってる!他のやつらみたいに意味のない殺しじゃない!」
これが彼の本心なのか?それとも、青い鯨の洗脳によってそういう風に思考を書き換えられたのか?
「意味があってもなくても!殺された人達がどうしようもない屑でも!お前達が誰かを傷付けた事実に変わりはない!これ以上犠牲者を増やすつもりなら、僕はお前達を倒す!」
「犠牲者だって!?現実を知らないからそういうことが言えるんだ!人は誰かを傷付けて生きている!ボク達が生きるために殺すのは当然の権利だ!」
腕の光が弱まり、徐々に刃が食い込む。ぷらはを蹴り飛ばし、僕はウドウ達のそばへ移った。
「大丈夫か?!」
「そっちこそ、危機一髪だったでしょ」
宇宙さん以外はここに全員揃っている。みんな無事で良かった…
ぷらはが倒れていたイサミを回復させて立ち上がらせる。既に青い鯨は消えていて、向こうも戦う気は失せたみたいだ。
「お前、次会ったら──」
「次こそ決着を付けるぞ!僕達ナイン・パロルートとダッシュスラッシャーズはお前達に試合を申し込む!」
「…んだと?」
「試合開始は次に出現した青い鯨が消えたその時!試合会場は次の島全体だ!」
「ナイン!?」
「心配ないよウドウ。気を付ければいいのはロアクとリュウザンだけだ。イサミに関しては何の心配もない!」
「一発当てたからって調子乗ってんじゃねえぞ!」
「答えを聞いてないぞ!リーダーであるお前が決めろ!試合を受けて僕達に負けるか、それとも不戦勝をくれるのか!さあ!」
「上等だ!島全体にカメラを飛ばして、お前達が負けるところを全国中継してやる!そしたら二度と外を歩けないように個人情報を全部晒してやる!」
「好きにしろ!そんなことやっても負け恥晒すことになるのはお前らだ!」
そうやって試合を取り決めた後、イサミ達はアイテムを使って次の島へ飛んだ。
「ちょっとナインちゃん!」
「勝手に決めてごめん。だけどあいつらと真っ向勝負するにはこれしかなかった。じゃないとまた今回と同じように一方的にやられるかもしれないし、作戦を実行するためにもあいつらを焚き付けるしかなかった」
「そうかもしれないけど…どうしようウドウ」
「確かに向こうに好きなタイミングで仕掛けられるより、そういう試合形式での真っ向勝負なら勝機はあるかもしれない。青い鯨出現時に倒せずとも、配信中なら心を折るぐらいなら出来るだろう」
「ねえ!あいつら告知してるよ!」
地地さんのウィンドウにはイサミ達の公式サイトが映っており、そこには試合の予告が載っていた。
「…俺達も次の島に向かうぞ」
「そのためにはまずこの森を抜けないとね」
敵はいなくなったのに、怒り状態の僕は攻撃力が上がったままだ。
それほどイサミに対しての怒りが強い証拠だろう…正直、配信するって言ってくれた時には喜んでしまった。
あいつを徹底的に倒すには、きっとただ勝つだけじゃ駄目だ。心まで折ってやらないと…