第52話 「だけどこのやり方以外はないと思う」
ウドウ達が休息のためにアドバンスセブンスを離れて3日経過した。
「ふぅ…なんとか間に合った」
僕は現実での戦いの後、帰ってからゲームの世界に閉じ籠って今までレベル上げをしていた。ログアウトも最低限で、現実に現れた魔獣も光太達に任せっきりだ。
このゲームの最大値であるレベル200にして、史上最強の僕が出来上がった。きっと現実の僕じゃ相手にならないくらい、このアバターは強い。
これでようやく、倒すべき敵と並ぶ強さになれたんだ。
「よう、三日ぶりだな」
「ウドウ!みんな!」
ダッシュスラッシャーズの面々がログインしてきた。ウドウもどこか吹っ切れた様子で安心した。
ウドウ、空さん、地地さん、海さんに加えて知らない人が二人増えてるけど、それだけで大所帯に見えた。
「予想より一人多い…」
「へえ、こいつらがお前の言ってたプロゲーマーか…案外地味だな」
「どうしていの一番に出てくる言葉が挨拶じゃなくて評価なの?」
今回は光太も一緒だ。青い鯨の自害は少し先送りにしてもらう手筈だけど、その正体や能力がを確かめるためにもログインしてもらった。
腕は生えてるし、ログアウトして体調を崩す心配はないと思う。
「お前は確か…」
「あの時助けてくれたことには感謝してる。だけどもしナインが死んだら、俺はあんた達を許さない」
僕とは苦難を乗り越え、彼も助けてもらった恩があるはずのウドウに対しても攻撃的な態度だ。
「死んで欲しくなきゃログアウトして、ギアを強制停止させればいい。鯨が出てない今なら間に合うぞ」
「ちょっとやめてよ!僕だってやる気で来たんだから!」
彼なら本当にやりそうで怖い。青い鯨が出てる時はそれでもログアウトできないけど。
「俺達は止めねえよ。そうだナイン、ぷらは達に目を付けられて、この先レベル上げをしてる余裕もないと思う。だから──」
「進化の実ならいらないよ。もうレベルもやる気もマックスだから」
僕のステータスを見せつけた。みんな凄く驚いていた。
「お前まさか、この僅かな期間で最大値に到達したのか…」
「イカれてるわね…」
「この島の中にあるダンジョンに何度も挑戦したり、強い人にお金を払って対戦してもらったんだ。おかげでこの武器が手に馴染んだよ」
如意銀箍棒の伸び縮みも最大限まで活用できるようになったと思う。
今なら、ぷらは達るーてぃーんえーじゃーずにも負けない。僕の考えた作戦も実行できると思う。
ウドウはロアク、海さん達射撃者組はリュウザンを倒す。そして僕はぷらはとイサミの足止め…という建前で二人と戦う。
その作戦をようやく、ウドウに伝えることができた。やはりと言うか、そんな作戦ではと反対されてしまった。
「お前に掛かるリスクが大きすぎる」
「だけどこのやり方以外はないと思う。ロアクはまだ覚醒を見せてない。もしもウドウと互角だったとしたら、僕達は全力で他の介入を阻止する必要がある。僕はリュウザンについては知らないけど、彼と同じ戦い方の海さん達ならなんとかできると思う」
「それで?ぷらはとイサミをお前が止められるのか?どこにそんな根拠がある」
「根拠なんてないよ。だけどイサミみたいな危険なやつは野放しにしちゃいけない。絶対に勝たなきゃならないんだ」
ウドウはきっと、足止めは建前で僕がぷらは達と戦いたいということを見抜いているだろう。
「…俺はロアクが覚醒しても勝つ。殺すつもりでな…お前達も5対1なんだ、負けても言い訳は聞かないぞ。ナイン、この作戦を決めたのはお前なんだからな。二人を絶対に近付けさせるな…それと本当の敵を忘れるな。俺達の敵は青い鯨だ」
「うん、分かってる」
僕の意思を汲み取ってくれたのか、それともこんな作戦でも勝算を感じたのか、直前まで渋っていたウドウは作戦の実行を認めてくれた。
あとは場所だ。ここにはプレイヤーが沢山いて、青い鯨が現れた時にどれだけの人がPKとしての本性を現して敵になるか分からない。
戦うならなるべく邪魔の入らない場所だ。
「ねえウドウ君、周りの人達さ…」
天という人がウドウに小声で語りかける。ここに集まってから、僕達は周りのプレイヤーの視線を集めていた。
敵意を感じる目をしている。
「まだ戦闘状態じゃない。光太はログアウトするんだ。いくら僕達が強くても、ワンパンでやられる君を無傷で守るのは無理だ」
「…良い話と悪い話、どっちから聞きたい?」
急に尋ねてくるので何かと思ったけど、どうやら青い鯨が現れてしまったみたいだ。
「…良い話は?」
「あの青い鯨の詳細が分かった」
その一言で周りのプレイヤー達が青い鯨に気付き、僕らに武器を向けた。
ウドウはハンドシグナルで攻撃しようとする海さん達を制止させた。なるべく殺しはしないという姿勢は変わらないようで安心した。
「普段なら殺し合うようなお前達が、珍しく仲が良いじゃねえか。一体どうしたんだよ」
「るーてぃーんえーじゃーず主催のイベントだよ。お前らの内の誰か一人でもキルすれば賞金が出るんだ。賞金目当ての素人も狩れて楽しかったぜ」
「屑共が…」
許せない…狙いは僕達なんだ。それなのに余計な被害を出したなんて…!
それでもウドウは攻撃を許可しなかった。乱戦になって散らばるのを避けたいみたいだ。
そんな中、身体を震わせながらも平静を装う光太は話を再開した。
「ナイン、魔獣人って覚えてるよな」
「なんだよ急に…嫌ってほど覚えてるよ。強かったし」
「んだな。それでだ、あの青い鯨、洗脳魔獣シヨナ・クヅンはそれのゲームバージョンだ。名付けるなら魔獣遊戯。アドバンスセブンスはあの魔獣のテリトリーなんだ」
「な、なんだって!?」
驚きのあまりウッカリ声を出してしまった。それが合図となって敵が動き出してしまい、僕達は走り出した。
「ごめんなさーい!」
「なっちまったもんは仕方ねえ!走れ!」
「考えてみればおかしい話だ。人が死んでるのに一切情報が流れないし、知ってる人間はそれを娯楽にして楽しんでるんだ。サービス開始から今までずっと、ガジェットクラブをはじめプレイヤー達全員はあいつの手のひらの上で踊らされていたんだ」
「みんな洗脳状態でおかしくなってるってこと…それじゃあ僕達はどうして平気なの!?」
「洗脳能力こそあるが効力は大した物じゃない。心の強い人間には効かないんだろうな」
僕に抱えられた光太は、凄い体勢でも平常心を保ったまま説明を続けた。
「サーバーは存在しない。あいつの能力が込められた特殊なソフトを使って、プレイヤーの魂は現実と仮想現実の間の世界へ送り込まれていたんだ。あいつを倒しても死んだやつは戻らない。だけど洗脳は解けるだろうな」
「ちょっと何なのその子!?ずっと解説してるけど!」
僕はどうするべきなんだ?ここで彼に頼んで魔獣を殺してもらうか、まだ生かしてぷらは達との再戦に臨むか…
決まってる!こんな事実を知ってしまったらもう…!
「光太!やっぱり頼む!あいつを殺してくれ!」
「だろうな。任せと──」
意気揚々となった彼の姿が固まったかと思いきや、見たことのないエフェクトを出して突然消えてしまった。
「なに!?何が起こったの!?」
「BANされた!青い鯨め、そんなことまで出来るのか!?」
アドバンスセブンスから追放されたってことか!?光太は無事なのか!?
「ナインちゃん!心配なのは分かるけど確認のしようがない!今は自分の身を守らないと!」
「そうだね…エネルギーバリア!」
僕は後方に向かってエネルギーバリアを展開。敵は突然目の前に現れたバリアに対応できず、衝突してカッコ悪いポーズを取っていた。
「ウドウ、これからどうするの!?」
「次の島まで逃げる。流石にあんな場所まで追ってくる馬鹿はいないだろうからな」
「次の島!?それってどんな場所なの!?」
「レベル200を鼻息で吹き飛ばすようなヤバいモンスター達が生息する自然の島、プラティだ」
こんな大勢に追われているという状況だが、次の島の話を聞いてワクワクしていた。
ここまで来たんだ。せっかくだから全部の島を回りたい。そのためにもまず、追手全員を振り切らなければ。




